待つことの学び - hatsukari-kg.jphatsukari-kg.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/... ·...

4
待つことの学び 園長 山本由香里 わが家で毎朝繰り返される一場面が、小学生の息子たちが 家を出る時間をめぐっての親子のバトルです。登校班の集合 時刻は家の前に7時 45 分です。時間通りに家を出ればいい のですが、なぜか 45 分になってからトイレに行ったり、靴 下を履いたり、名札をつけたりします。小学校の入学準備会 では、事故やトラブルにつながりやすいので毎朝笑顔で送り 出すようにという話でした。とは言えども心配性の「し」の 字もない息子に、「いってらっしゃい」の笑顔はとんでもな く、「人を待たせてはいけない」と朝から怒り顔で見送る私 です。待つことはあっても、人を待たせることはいけないこ と。そして、人生においてとても重要な「待つ」ことは、幼 い時期から経験しながら身についていくものだと思います。 大人にとっても子どもにとっても便利な世の中になりまし た。テレビの録画機能は進化し、24 時間子ども向けのチャ ンネルが流れるテレビもあります。お腹が空けば電子レンジで「チン」、お掃除ロボットには 日々助けてもらっています。誕生日やクリスマスを待たずに最新式のおもちゃが買え、テレビ ゲームは時間をつぶしているのでなく、有意義に時間を使っている錯覚に陥ります。待ち合わ せは携帯電話さえあれば直前に時間と場所を変更できる一方で、便利な携帯電話によって家庭 で過ごす時間まで仕事や友だちに束縛されることもあります。 便利な生活をしていると、「待つ」経験が不足します。先日、幼稚園でちょっとした事件が ありました。どの部屋にもセロハンテープがなくなってしまったのです。「テープください」、 事務室には子どもたちが代わる代わるやって来ます。単なる買い忘れでしたが、これは絶好の チャンス!のりや輪ゴムを駆使して何とかしようとしつつも、「だってすぐとれちゃうんだも ん。乾くまで時間かかるし」と文句を言ってくる子が現れました。これまたいい感じです!不 便を感じながら待つこと、いや待たざるを得ない状況ができました。待ちながら時間をかけた 作品は、誰かが持っていた物を真似して一時的に作った物とは違います。時間が思いを入れ込 み、オリジナルの作品に愛着がわいて大事にします。互いの創造力が刺激され、工夫が自信に つながります。そう言えば初雁幼稚園はセロハンテープやガムテープを使い過ぎだったと反省 をしました。 5月から畑やプランターを利用して栽培が始まります。物作りに加えて物を育てる経験は、 変化を楽しみながら、収穫の恵みにあずかります。幼い子どもにとって目に見える変化が、待 つことの喜びを自然に教えてくれます。まだ何も植えていない畑に「さつまいも植えるところ にお水あげてもいいですか?」と聞きにくる子がいました。早速待つことの学びが始まってい るようです。 めぐみ 2015 学校法人 聖公会北関東学園 350-0057 川越市大手町 8-5 Tel.222-5385 Fax 228-5010 http://hatsukari-kg.jp

Transcript of 待つことの学び - hatsukari-kg.jphatsukari-kg.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/... ·...

Page 1: 待つことの学び - hatsukari-kg.jphatsukari-kg.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/... · せは携帯電話さえあれば直前に時間と場所を変更できる一方で、便利な携帯電話によって家庭

待つことの学び

園長 山本由香里

わが家で毎朝繰り返される一場面が、小学生の息子たちが

家を出る時間をめぐっての親子のバトルです。登校班の集合

時刻は家の前に7時 45 分です。時間通りに家を出ればいい

のですが、なぜか 45 分になってからトイレに行ったり、靴

下を履いたり、名札をつけたりします。小学校の入学準備会

では、事故やトラブルにつながりやすいので毎朝笑顔で送り

出すようにという話でした。とは言えども心配性の「し」の

字もない息子に、「いってらっしゃい」の笑顔はとんでもな

く、「人を待たせてはいけない」と朝から怒り顔で見送る私

です。待つことはあっても、人を待たせることはいけないこ

と。そして、人生においてとても重要な「待つ」ことは、幼

い時期から経験しながら身についていくものだと思います。

大人にとっても子どもにとっても便利な世の中になりまし

た。テレビの録画機能は進化し、24 時間子ども向けのチャ

ンネルが流れるテレビもあります。お腹が空けば電子レンジで「チン」、お掃除ロボットには

日々助けてもらっています。誕生日やクリスマスを待たずに最新式のおもちゃが買え、テレビ

ゲームは時間をつぶしているのでなく、有意義に時間を使っている錯覚に陥ります。待ち合わ

せは携帯電話さえあれば直前に時間と場所を変更できる一方で、便利な携帯電話によって家庭

で過ごす時間まで仕事や友だちに束縛されることもあります。

便利な生活をしていると、「待つ」経験が不足します。先日、幼稚園でちょっとした事件が

ありました。どの部屋にもセロハンテープがなくなってしまったのです。「テープください」、

事務室には子どもたちが代わる代わるやって来ます。単なる買い忘れでしたが、これは絶好の

チャンス!のりや輪ゴムを駆使して何とかしようとしつつも、「だってすぐとれちゃうんだも

ん。乾くまで時間かかるし」と文句を言ってくる子が現れました。これまたいい感じです!不

便を感じながら待つこと、いや待たざるを得ない状況ができました。待ちながら時間をかけた

作品は、誰かが持っていた物を真似して一時的に作った物とは違います。時間が思いを入れ込

み、オリジナルの作品に愛着がわいて大事にします。互いの創造力が刺激され、工夫が自信に

つながります。そう言えば初雁幼稚園はセロハンテープやガムテープを使い過ぎだったと反省

をしました。

5月から畑やプランターを利用して栽培が始まります。物作りに加えて物を育てる経験は、

変化を楽しみながら、収穫の恵みにあずかります。幼い子どもにとって目に見える変化が、待

つことの喜びを自然に教えてくれます。まだ何も植えていない畑に「さつまいも植えるところ

にお水あげてもいいですか?」と聞きにくる子がいました。早速待つことの学びが始まってい

るようです。

め ぐ み2 0 1 5 年

5 月 号

学校法人 聖公会北関東学園

初 雁 幼 稚 園〒350-0057 川越市大手町 8-5Tel.222-5385 Fax 228-5010

http://hatsukari-kg.jp

Page 2: 待つことの学び - hatsukari-kg.jphatsukari-kg.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/... · せは携帯電話さえあれば直前に時間と場所を変更できる一方で、便利な携帯電話によって家庭

イエス様、エルサレムを嘆く

新約聖書のルカによる福音書 19 章だけに出て来る、イエス様がエルサレムのために泣いた、という記事があります。イエス様はそのご生涯のほとんどをガリラヤ地方で過ごされたという専門家の定説は、なぜイエス様はエルサレムのために泣いたのかという謎を解く鍵となるかも知れません。さらに、ガリラヤ地方はイスラエルでは、日本の沖縄のように、周辺国との力関係で自他の領土に簡単に変更される地域だと聞けば、一段と現実味が増すというものです。

エルサレムというイスラエルの首都は、「平和の都市」とでも訳すべき意味を持つ名前なのですが、皮肉なことに、昔も今も平和だったのはほんの僅かな期間だけでした。それは、エルサレムが昔も今も、メソポタミアとエジプトの中間点の一つであることに原因があります。そもそも、イスラエルはエジプトを脱出した、言わば難民が核となった国で、エジプトのように長い歴史をもった王国ではありませんでした。ですから近隣諸国から時折しかけられる戦争の度に男子がにわか仕立ての軍隊を組織するしかありませんでした。そのような時折の戦争に常

備軍が対応すれば楽なので、常備軍を持つということのリスクを考慮しないまま、イスラエルは王を常備軍司令官とする王制度を生み出したのでした。常備軍を持つためには、国民の税金、徴兵等の負担が伴います。さらに、王が世襲化すれば

なおさらですが、王の関心だけがその支配を決定することになります。こうして、イスラエルの王制度は 400 年ぐらいしか続きませんでしたが、王制度がなくなっても、何らかの形でイスラエルの指導者が起こります。しかし、それでもイスラエルの指導者たちは、かつての王たち

と同様、自分の関心事だけを重要視する傾向にありました。イエス様の時代の指導者は、考えなければならない深刻な問題があったのに、自分の指導者

としての地位をイエス様に脅かされるという自分の関心に捉われて、イエス様を排除することに集中します。イエス様がエルサレムのために泣いたのは、このようにして、指導者が集中すべき事柄をはき違えていたからだと思います。この指導者たちとは全く逆に、イエス様は多くの人々が関心を寄せることも少ない、故郷に

近い、ガリラヤを生活の場として過ごされました。イエス様が日常的に触れ合われたのは、幼子であり、漁師であり、その周辺の農民であり、汚れたとされたレプラ(「らい病」、その呼び名を嫌う方がいますので)、自分か親の罪のせいで盲目に生まれついた人などでした。イエス様にとってこのような人々に向き合い、耳を傾け、痛みや苦しみを共有することによって、これらの人々が新に生きる力を与えられることが何にも勝って重要だったのではないかと思います。そのようにして、全ての人々が力をえて苦しみを抱えつつも希望を持って力強く生きる交

わりが生まれ、さらにその輪が広がるからに他なりません。イエス様がお生まれになり、十字架につけられて亡くなり、弟子たちの前に姿を現されてか

ら 2000 年近くが経とうとしています。しかし、イエス様によって始められた「希望を持って力強く生きる交わり」はこれからますます必要になってきているように思えてなりません。なぜならば、何よりも私たちに必要なのは、それぞれが自信をもって、与えられた賜物を生かして、生き生きと生きることだからです。

どうぞ、子どもたちの、言葉ではなく、心の声に耳を傾けて下さい。子どもの語る言葉そのものは幼いものかも知れませんが、言葉に載せて伝えようとする思いは大人の思いと違いがありません。その思いを父や母が共有することによって、子どもの自信や希望が育まれることでしょう。イエス様を嘆かせないようにしたいと願う今日この頃です。

(チャプレン 輿石 勇)

Page 3: 待つことの学び - hatsukari-kg.jphatsukari-kg.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/... · せは携帯電話さえあれば直前に時間と場所を変更できる一方で、便利な携帯電話によって家庭

ちゅうりっぷ組

た ん ぽ ぽ 組

幼稚園が楽しい場所に

園生活に少しずつ慣れてきた子どもたちで

すが、朝は大好きなお家の人と離れ難く大き

な声で泣いて思いを伝える子もいます。それ

だけ自分の思いを出している、この時期らし

い姿に安心しています。そんな子も、ある日

突然「すぐ戻ってくる?じゃぁばいばい!」と

自らお部屋の中に。子どもたちの頑張り、成

長に驚きと嬉しさを感じる日々です。

自由遊びの時間には、それぞれが自分のやりたいことをしっかりと見つけ、元気いっぱ

いに遊んでいます。保育室では、食べ物をたくさん並べてお家ごっこをしたり、粘土を丸めてお団子に、細長くしてへびに、平たくしておせんべいに、など様々な物を作って楽しんでいます。そしてじっくり部屋で遊んでいるかと思うと、あっという間にいなくなるのが子どもたちのすごいところ。ウッドデッキのすべり台をみんなで繰り返し滑ったり、園庭に飛び出してブ

ランコやスケーターに乗ったり、砂でチョコレートを作ったり。どんどん楽しいことを見つけ、行動する子どもたちのパワーに驚いてしまいます。

そんな子どもたちの何よりの楽しみがお弁当です。年長組が手伝いに来てくれているのですが、お弁当の準備はどの子も早く、てきぱきと並べてしまいます。「おいしいね」と満面の笑みで食べている子どもたちを見ると、お家の方の愛情たっぷりのお弁当にたくさんのパワーをもらっているのだと実感しています。

初めてばかりの一年間。きっとたくさんのドキドキ、わくわくがあることでしょう。一人ひとりの喜び、悲しみ、期待、不安、様々な思いを受け止め共に感じ、クラスのみんなで共有していきながら、一緒に歩んでいきたいと思います。そして何より「幼稚園が楽しい場所」ということを、存分に感じる一年間にしたいと思います。 (吉田 梨紗)

色々なことに挑戦して

新年度が始まって三週間が経とうとしています。進級した子どもたちは、「もう準備終わっ

ちゃったよ」と朝の身支度を済ませて自慢気に知らせる子、「先生、何秒か数えていて」と楽

しみながら支度をする子、園庭の遊具で少し遊んでから部屋へ入る子とさまざまです。

新入園の友だちに会えることを楽しみにしていたたんぽぽ組。新学期が始まると「ロッカー

はここだよ」「シールはここに貼るんだよ」と手をつないで伝えようとする姿が見られ、初め

てみんなでお祈りをしたときには「こうやってやるんだよ」と手を組み、そっと目を閉じてお

手本になろうとする姿がみられました。また、泣いている友だちに「大丈夫だよ。お母さんも

うすぐくるよ。幼稚園楽しいよ」と優しく声を掛けてくれる子もいました。

のス

ク ラ 窓ま ど

Page 4: 待つことの学び - hatsukari-kg.jphatsukari-kg.jp/wordpress/wp-content/uploads/2014/... · せは携帯電話さえあれば直前に時間と場所を変更できる一方で、便利な携帯電話によって家庭

す み れ 組

子どもたちは幼稚園で自分の好きなことを見つけていって

います。お家ごっこやお店屋さんごっこ、ブロック、新聞紙

で武器を作って戦いごっこ、虫探し、草花を使って色水作り、

泥遊びなどを楽しんでいます。また、木登りや固定遊具に挑

戦する子もいて、鉄棒では「豚の丸焼き」や「前回り」「逆

上がり」を試みる子もいます。「すごーい!」と友だちの姿

を認める子もいます。そんな友だちの姿を目にしつつ「やっ

てみたい」「でもできない」という葛藤を抱く子もいるよう

です。まずは楽しみながらその物に触れる機会を作り、「達

成できること」から始め、「できた」という自信をもてるよ

うに過ごしていきたいと思います。そして友だちとのつながりを大切にしながら、色々なこと

に挑戦していけるように支えていきたいと思います。

この時期、年中組になった張り切る思いと同時にまだ甘えたい気持ちもあるようです。それ

ぞれの子どもたちの今の思いに寄り添いながら、「その子にとって必要な関わり」を考えてい

きたいと思います。元気でパワフルなたんぽぽ組のみんなとの毎日がとても楽しみです。

(岡部 珠美)

パワーやまもり!!

入園式で園長先生から「小さな先生」と言われたす

みれ組。新学期になって色々な所で活躍してくれて

います。新入園の友だちで持ち物の始末に困ってい

る子がいれば「こっちだよ」と教え、泣いている子

がいれば「どうしたの?」と寄り添ってくれます。

ちゅうりっぷ組へのお弁当手伝い当番も颯爽と出か

けていく姿に頼もしさを感じます。片付けの時間に

なると自分の事はさっと済ませ、小さいクラスの手

伝いをしに行く子、すみれ組の椅子を並べてくれる

子と本当によく働いています。

すみれ組ならではの当番活動もとても楽しみにしていて、うさぎ鳥金魚当番や礼拝当番も張

り切ってやっています。みんなのために気持ち良く働ける姿は素晴らしいといつも感心してい

ます。

すみれ組になって遊び方もダイナミックになってきました。普段は各々が好きな遊びを楽し

んでいますが、「おもしろそう!」という事が始まるとみんな「入れて」「私もやりたい!」と

どんどん集まってきます。ドロケイや色鬼、悪者先生との戦いごっこや水かけっこではクラス

のほとんどが参加して盛り上がりました。遊ぶ時も何かの活動をする時も、持てる力を出し切

って全力で取り組むすみれ組。きっとこの一年も大きく成長してくれるだろうとみんなの姿を

みながら楽しみにしています。すみれ組の今年のお帰りの合言葉は「パワーやまもり!!」みん

なの力を山盛りに集めて毎日元気にやっていきたいと思っています。 (森重 路子)