工学教育シンポジウム2009 - Tokushima U日時:2009年3月10日(火) 13:00-17:45...

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日時:2009年3月10日(火) 13:00-17:45

場所:工業会館2階 メモリアルホール

主催:徳島大学工学部 FD委員会

2009SEE

Symposium on Engineering Education 2009

2009工学教育シンポジウム

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目 次 1. 環境配慮行動の習慣化を目指した環境家計簿を活用した講義方法について -------- 1

建設工学科 上月康則,山中亮一,三谷直子

2. 機械工学科における教員相互授業評価について ------------------------------------------ 14 機械工学科 小西克信

3. 演習授業における習熟度別学生指導の試み ------------------------------------------------ 21 化学工学科 西内優騎,岩澤哲郎,平野朋広

4. 電気電子工学科における新入生の学業実態 ~アンケート分析~ ------------------- 27 電気工学科 川上烈生,下村直行,富永喜久雄,井上廉

5. 知能情報システム工学輪講及び演習 ~プレゼン,コミュニケーション,英語のスキルアップ~ ----------------------- 34 知能情報工学科 寺田賢治,得重仁

6. 授業評価システムと KJワークショップによる FDの取り組み --------------------- 39 生物工学科 長宗秀明

7. JABEE継続審査を終えて --------------------------------------------------------------------- 48 光応用工学科 陶山史朗

8. Moodleを用いた e-Learning の試験的実施と検証 ------------------------------------ 54 工学基礎教育センター 岡本邦也

9. 地方の一次産業振興と自然環境の保全に関する学外実習の取り組み -------------- 64 エコシステム工学コース 八房智顕

10. サイエンス・エンジニアリングクラブ構想について ----------------------------------- 69

工学部創成学習開発センター 続木章三,英崇夫

11. 工学教育の連携 ~これまでとこれから~ ------------------------------------------------- 75

工学部創成学習開発センター 英崇夫

12. 工学教員に対する英語支援 -------------------------------------------------------------------- 79

国際連携教育開発センター 勅使河原三保子

13. 学生力育成のための SNS推進プロジェクト ~キャンパス SNS「さとあい」を活用したキャリア開発支援~ ---------------- 86 大学院ソシオサイエンス研究部 1),高度情報化基盤センター2)(uラーニングセンター)

嵯峨山和美 1),金西計英 2),松浦健二 2),久米健司 1),光原弘幸 1),矢野米雄 1)

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1.環境配慮行動の習慣化を目指した環境家計簿を活用した講義方法について

建設工学科 上月康則,山中亮一

エコシステム工学コース 三谷直子

1. はじめに

近年,地球温暖化に対する取り組みが世界規模で行なわれている中,わが国は 1990 年に比べて地

球温暖化ガス排出量を 2012 年までに 6%減少させなければならない.国,地方自治体,企業,個人な

どあらゆる主体が,様々な機会を通して排出量削減の取り組みを行ない,温暖化効果ガスの排出量削

減に取り組んでいるものの,2004 年現在では 1990 年の基準年より約 8%増となっており,目標達成に

は程遠い状態にある.特に民生部門での排出量は基準年よりも 30%も増加しており,個人や家庭での

取り組みをより推進していく必要がある.この点では大学も例外ではなく,一法人としての立場や環

境問題解決に向けた研究機関であるということの他に,実社会に巣立つ学生の最後の教育機関として

の社会的役割も大きい.しかし,大学での講義内容を振り返ると地球環境問題の種類や発生メカニズ

ム,その技術的対応から「Think globally, Act locally」といった考え方など様々な知識を理解,習得させることには熱心ではあるが,「環境に配慮した『行動』を習慣化させるための教育」について

は十分に行えているとは言えない.このことは大学生の環境問題に対する危機感はあるものの,行動

が伴っていないという種々の報告書で指摘されていることでもある.

環境問題と自身の生活との関わりについて,気づき,考え,改め,行動することを促すための環境

教育手法の一つには,『環境家計簿』がある.環境家計簿とは,家庭で使う電気,ガス,水道,ごみ,

ガソリンなどの利用に伴って排出される二酸化炭素を計測し,自身が環境に与える負荷を知ることで,

日常の生活態度を見直し,環境に配慮した行動へと改めるとことを促すことを目的にしたものである.

そこで,著者らはこの環境家計簿を自身らが担当する建設工学科の環境関連の3つの講義で利用し

て,環境に配慮した生活態度を学生に修得,習慣化させることを 4年前から行なっており,本報では

その効果の評価と講義方法について考察を行なう.なお,京都議定書で扱われる問題は正しくは,様々

な異常な気候変動に関する問題であるが,ここでは通称として『地球温暖化』という言葉を使用する.

2. 環境家計簿を用いた講義の概要 2.1 環境家計簿の概要 環境家計簿は 1980 年に大阪大学の盛岡らによって「新しい家計簿」の名称で家庭での環境負荷を

下げる提案がされたことに始まる.環境家計簿の基本的な形式は,家庭で使う電気,ガス,水道,ご

み,ガソリンなどの量に CO2 排出係数を掛けて CO2 の量に換算する形式のものが多く使われている.

排出係数とは,電気やガスなどのエネルギーから,アルミ缶やペットボトルなどの製品にいたるまで,

そのものがどれだけ CO2を排出するかを計算したものである.例えば,電力の場合なら、1kWh の電力

を発電する際に排出される CO2排出量(kg)のことである.

滋賀県大津生協では、この提案を受けて琵琶湖の汚染をなくすことを目標に,1981 年に作成された

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「くらしの点検表」が最初の実用的な環境家計簿と言われている.地球温暖化対策では,1996 年に当

時の環境庁(現環境省)が環境家計簿を希望者に配布され,その後「環境家計簿運動推進全国大会」

が数回にわたって開催されている.現在,家計簿は記録する対象者に応じて,様々な形式のものが提

案されており,図1には本講義で使ったものを一例として示す.

図1 本講義で使用した環境家計簿

2.2 環境家計簿を用いた講義の概要 本講義では,計測方法が比較的簡単で,共通して使用していると思われる電気,ガス,水道を対象

に,その使用量から二酸化炭素排出量を求め,記録させた.また環境家計簿は,月単位で記録するの

が一般的であるが,本講義では講義期間が 4ヶ月と限られていることから,週単位で記録させた.

環境家計簿の実施にあたっては,まず学生を下宿と自宅から通っている学生に大きく区分し,さら

に一班 6名以内となるように班分けを行なった.環境家計簿は各自で記録するものの,週に一度は班

毎に学生が集まり,その週に環境に配慮して行ったこと,班単位での取り組み,結果に対する考察な

どを各自の記録に付けたものを一つのファイルにとりまとめ,教員に提出させるように指導した.教

員と TA は次週までに提出された集計結果やレポートにコメントを加え,返却する.なお,一部の講義

では教員のコメント内容や各班の取り組みを共有させるために,用意した HP や U ラーニングに載せ,

学生が自由に閲覧できるようにもした.

実際の講義では,一コマ 90 分の内,通常の講義を 75 分,残りの 15 分程度を環境家計簿に対する

指導やレポートにあった特徴ある取り組み事例を紹介した.講義の最後には,班単位でこれまでの取

り組みやその成果について発表をさせた.なお,この環境家計簿の取り組みは講義全体 100%の評価の

内,25%を占めることとした.

表 1 に 3 つの講義名と主な目的,開講時期などを示すが,本報では,図 2のように 2007 年度の『環

境を考える』,2008 年度の『資源循環工学』,『環境計画学』の 3 つの講義を対象に考察を行なう.な

お,これら 3つの講義を全て受講し,環境家計簿を 3期にわたって記録した学生は 13 名いた.

表 1 各講義の開講時期と概要

学年 前後期 講義概要

2 前期 環境を考える(必修,昼間,約 90 名)

3 前期,クォーター後 資源循環工学(選択,昼間,約 50 名)

3 後期,クォーター後 環境計画学 (選択,夜間,約 20 名)

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環境を考える

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月

2007年度

2008年度 資源循環工学 環境計画学

環境を考える

4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3月

2007年度

2008年度 資源循環工学 環境計画学

図2 継続して履修する場合のスケジュール

2.3 行動シートと環境カルテ 環境家計簿の計測結果を考察するために,一日間に使用した各種電化製品の使用時間を記録する『行

動シート』を週に一度作成させた.また個人ごとに二酸化炭素排出量の計測結果をとりまとめた『環

境カルテ』も教員とTAで作成した.これによって昨年度との比較や配慮行動の継続性などの評価す

る他,このカルテを使って個人ごとにヒアリングを行った.それぞれの一例を図 3,図 4に示す.

図3 行動シートの一例

3

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図4 環境カルテの一例

2.4 環境家計簿の取り組みの評価方法 次の 4点について適宜アンケートやヒアリングなどで学生の意見を収集し,環境家計簿の取り組み

の評価を行うこととした.①地球温暖化の問題への関心を高めることができたか?(関心向上),②実

際に二酸化炭素排出量を削減する行動ができたか?(行動促進),③環境に配慮した行動を継続するこ

とができたか?(継続性),④教育上,本取り組みは役立ったか?(有効性).

3. 環境家計簿の結果と評価

3.1 環境家計簿の取り組み状況 個人の環境家計簿の提出状況から,提出率を求め,取り組み状況を評価した.その結果(図 5),今

回検討対象とした講義のなかで,記録を 80%以上提出した学生は,必修科目で最も学生数の多かった

「環境を考える(2007)」で約 75%,次年度の選択科目の「資源循環工学(2008)」で 95%,同年後期

で夜間に開講された「環境計画学(2008)」で 85%であった.その他の講義も含めても,いずれの講

義でも大半の学生が真面目に環境家計簿に取り組んでいた様子がわかる.

講義の評価対象の取り組みであるとはいえ,「面倒であるので,続けることは難しい」と言われる

環境家計簿を週単位で,ほぼ完全に記録し続けた学生がいずれの講義でも 8割程度いたということは,

取り組み状況から判断すると本取り組みは学生には受け入れられたと評価できる.

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0 20 40 60 80 100

環境を考える(2007,N=84)

資源循環工学(2007,N=51)

環境計画学(2007,N=13)

環境を考える(2008,N=92)

資源循環工学(2008,N=43)

環境計画学(2008,N=22)

0-20%

20-40%

40-60%

60-80%

80-100%

学生の割合(%)

提出率

図5 環境家計簿のレポート提出率

3.2 地球温暖化の問題への関心を高めることができたか?(関心向上) 関心向上の効果について,2007 年度の『環境を考える』を対象に評価を行った.講義終了直後より

も時間を経過した時の方が,より客観的に評価されると考え,翌年の『資源循環工学』の両講義を履

修した学生 26 名に,第一回目の講義時間に「昨年度の講義を受けたことで,地球環境問題への関心は

高まったか?」について尋ねた.その結果,図 6に示すように,「以前と変わらず関心は無い」という

学生が約 1割あったものの,「以前より関心が高まった学生」は 7割を超えており,関心を高める一定

の効果があったことがわかった.

以前より関心が高まった以前から関心があったので,変わらない以前と変わらず関心は無い関心は低くなったあきらめ,絶望するようになり関心は無い

91873

N=22

図6 地球温暖化の問題への関心は高まったか?

3.3 二酸化炭素排出量を削減する行動ができたか?(行動促進) 講義開始から 3週間,終了までの 3週間の下宿生活をする全学生の二酸化炭素排出量平均値を比較

し,排出量削減効果の評価を行った.その結果,図 7 に示すように『環境を考える』では 4 月から 7

月にかけて二酸化炭素排出量を 16.7%減少(Utest,p.<0.01)させることができた.この傾向が削減

努力によって得られたものであるかについて,検討するために,図 7から電力消費によるものだけを

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抽出し,それと同時期の徳島県民の電力消費に伴う二酸化炭素排出量を図 8のように比較した.その

結果,まず学生の排出量が徳島県民のそれよりも若干少ないことがわかる.これは学生が終日家にい

ないことを反映しているものと思われる.また学生の減少率は 11.3%であったが,県民のそれは 6.1%

と小さく,これは学生が環境に配慮して生活を送った結果として,二酸化炭素排出量が減少したこと

を示唆している.

0

5

10

15

20

開始時 終了時

CO2排出量(kgCO 2/人/週)

N=6716.7%減少

図 7 講義開始時と終了時での学生の CO2排出量変化

0

5

10

15

20

開始時 終了時

CO2排出量(kgCO 2/人/週)

N=65

-11.3%減少

0

5

10

15

20

4月 7月

CO2排出量(kgCO 2/人/週)

9.3%減少

a)徳島大学生 b)徳島県民一人あたり

図 8 大学生と同時期における徳島県民一人あたりの CO2排出量変化の比較

3.4 環境に配慮した行動を継続することができたか?(継続性) (1)排出量削減の継続性(環境カルテ)

環境配慮行動の継続性について環境カルテを用いて考察を加えた.具体的には,両年の同時期に記

録した排出量を比較し,その結果,継続できていたと判断できる学生は図 9a)のように両年の排出量

に有意な差は見られなかった.その一方で,図 9b)のように翌年には増加している学生もあった.な

お,図 10 に気温を示しておくが,破線で囲った比較対象時期では 2008 年度の方が 7月に最高気温を

示し,2008 年よりも高かった.このことからも前年度と比較して排出量が増加しなかった学生はより

配慮して生活を送ることができていたと推察することができる.

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0

10

20

30

40

4/13 5/4 5/25 6/15 7/6 7/27

CO

2排

出量

(kgC

O2/

週)

Utest p.<0.01

a)「環境配慮行動を継続できた学生」の例

0

10

20

30

40

4/13 5/4 5/25 6/15 7/6 7/27

CO

2排

出量

(kgC

O2/

週)

Utest p.<0.01

b) 「環境配慮行動を継続できなかった学生」の例

●:2007 年度「環境を考える」,□:2008 年度「資源循環工学」

図 9 CO2排出量からみた行動継続性の評価

○:2007 年,■:2008 年

図 10 両年の気温の比較

以上の比較を個人ごとに行い,それを図 11 のようにまとめて図示した.これは横軸に平成 20 年度

の平均排出量を,縦軸に図 9で示した両年の変化量を個人ごとにプロットしたものである.また○は

有意に増加した学生(Utest,t<0.01)で,□は逆に減少した学生(Utest,t<0.01)意味する.また

△のプロットは有意差がなく,両年の排出量に変化がなかった学生とした.つまり図中で右上に位置

0

5

10

15

20

25

30

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12月

気温(℃)

7

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する学生は,排出量も多く,かつ前年より増加した学生(○)あるいは依然環境配慮が不十分な学生

(△)で,4 名がそれに該当するとした.一方,左下で△にプロットされる学生は,排出量が少なく,

かつ前年より減少できた学生と評価できる.その他の多くの学生は比較的排出量が少なく,両年で変

化がない,環境配慮行動が継続できた学生と評価した.その結果,22 名の学生の内,4名を除く,18

名の学生が翌年にも継続して配慮行動ができていたと評価することができた.なお,図中で※印の付

いた学生は,翌年の『資源循環工学』の初めの講義でのアンケートで「環境配慮行動を継続できてい

る」と回答した学生の内, 実際には排出量が増加していた学生である.このことは定性的なアンケー

トだけで行動を評価することには限界があり,定量的な検討が不可欠であることを示している.

-15

-10

-5

0

5

10

15

5 10 15 20 25

⊿排出量(kgCO 2/週)

H20年度の平均排出量(kgCO2/週)

継続できている

さらに配慮できた

継続できなかった

○:増加した学生,△:変化のなかった学生,□:減少した学生

図 11 CO2排出量とその排出量の変化

(2)環境配慮行動

『環境を考える』終了後1年間,どのようなことに配慮して日常生活を送ってきたかについてのア

ンケートを行った.結果を実施率としてまとめ,継続できていた学生とそうでない学生に区分して図

12 に示す.この図より,二つのグループの学生に共通して最も多くの人が実施していたのが「不要な

電灯をつけない」ということで,次に「極力エアコンを使わない」,「極力自転車の使用や歩く」という

ことであった.また「買い物」時の配慮や「もったいない」という気持ちは継続できていない学生に

は見られず,さらに少数ではあるが,「友人や家族と環境問題について話をする」という学生も継続で

きた学生にのみ見られた.ただし,講義のない期間中に環境家計簿をつけていた学生はいなかった.

以上の行動が排出量削減につながっているか?について検討するために,『資源循環工学』の講義

での行動シートをまとめた.排出量削減ができた学生の代表的な例を図 13 に示すが,学生生活では,

電化製品の使用に伴う二酸化炭素排出量は,冷蔵庫が最も多く,次いでテレビ,電灯などであった.

実際に排出量が削減できていた学生はテレビの使用を控えていたことがわかった.図 13 をみるとテレ

ビの使用を控えることの実施率は 9番目であるが,これが排出量削減には有効であったと考えられる.

8

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図 12 配慮できた行動項目

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

開始時

終了時

TV冷蔵庫蛍光灯

ドライヤー類PCその他

CO2排出量(kgCO

2/週)

図 13 主な家電製品使用による CO2排出量の変化

このように排出量の変化を把握し,電化製品の使用状況と配慮行動の実態調査を行うことで学生生

活の中で,二酸化炭素排出量削減に有効なことを抽出することが可能であることがわかった.これら

の結果を学生にフィードバックすると,さらに実効性のある行動への動機付けや意欲を向上させるこ

とに効果的に作用することが期待できる.

3.5 環境意識の変化 毎週提出されるレポートでの自由記述から環境家計簿を記録する過程における学生の意識の変化に関するコメントを抽出し,考察を加えた.結果の概要を図 14 にまとめるが,『環境を考える』で始

めた頃は,全員が地球温暖化の問題やそれに対処することについては,「知らない」,「人ごと」,「面倒」

不要な電灯はつけない極力エアコンは使用しない

極力,自転車や歩く極力,エレベータ使わない

エアコンの設定温度に気をつけている環境に関するTV番組やニュースを注目して見聞きする

コンセントをぬいている洗面時,入浴時にこまめに蛇口を閉めている

TVの使用を控える極力,買い物袋をもらわない

毎月の使用エネルギーの量を気にしている「環境に優しいもの」を選んで買っている「もったいない」という気持ちが強くなった

極力,車を使用しない早寝.早起きを心がけている無駄にパソコンを使用しない

友人と環境問題について話をする家族と環境問題について話をするゴミを少なくするようにしている

環境家計簿をつけている

020406080100継続できている人(%)

N=8

0 20 40 60継続できていない人(%)

N=14

9

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と知識や関心が無く,講義なので仕方なく始めたことがよくわかる.その後,徐々に「楽しい」,「気

付き」,「心がけ」などの意識が芽生え,「生活改善」,「行動」,「広くものが見える」,「自分のため」へ

と変化していった様子が伺える.終了時には,「心がけ」,「続けたい」,「習慣」さらに「他者へ伝えた

い」気持ちと環境意識が向上していたことがわかる.その後1年後に再び環境配慮行動についてアン

ケートをした結果,「習慣化した」,「苦ではない」,「簡単」と継続して環境配慮行動を行っていること

を意味する回答があったが,一部の学生は「面倒」,「昨年は無理をしていた」,「心がけているが難し

い」など以前のように行動ができていないことを伺わせるものもあった.

以上のことから,多くの学生には環境家計簿を実施することで,当初は講義の一部であるからとい

った受け身での姿勢であったが,途中で気付き,行動をふり返り,自身の問題であるとの意識に変化

し,環境配慮行動が習慣化されていったことがわかる.

リバウンド(1)

開始時(2007.4)

無配慮配慮できない

知る,気づき

考える

配慮行動

習慣,発展

人事(15)面倒(5)無知(2)

気付き(10)楽しい(8)身近・簡単(4)視野が広がった(1)自分のため(3)生活改善(5)エコの話題に敏感になった(1)効果実感(1)

心がけ(12)意識高まる(1)行動(5)

記録途中 終了時(2007.7)

心がけ(5)努力(2)

減少実感(2)意識高まる(1)

行動(2)

習慣(3)伝えたい(2)続けたい(2)貢献したい(1)環境関連の職につきたくなった(1)

習慣・継続(2)

一年後(2008.6)

面倒,無理していた

夜まで遊んでしまう

心がけるがたまにできない

気にしていない

心がけている

苦ではない

簡単,継続,習慣化

節約

リバウンド(1)

開始時(2007.4)

無配慮配慮できない

知る,気づき

考える

配慮行動

習慣,発展

人事(15)面倒(5)無知(2)

気付き(10)楽しい(8)身近・簡単(4)視野が広がった(1)自分のため(3)生活改善(5)エコの話題に敏感になった(1)効果実感(1)

心がけ(12)意識高まる(1)行動(5)

記録途中 終了時(2007.7)

心がけ(5)努力(2)

減少実感(2)意識高まる(1)

行動(2)

習慣(3)伝えたい(2)続けたい(2)貢献したい(1)環境関連の職につきたくなった(1)

習慣・継続(2)

一年後(2008.6)

面倒,無理していた

夜まで遊んでしまう

心がけるがたまにできない

気にしていない

心がけている

苦ではない

簡単,継続,習慣化

節約

図 14 環境家計簿の記録に伴って生じた意識の変化

3.6 本取り組みは役立ったか?(有効性) 環境家計簿の取り組みが一連の講義の目的である『環境意識を高め,行動し,それを習慣化するこ

とに役立ったのか?』について講義終了後に尋ねた.2つの講義での回答結果を図 15 に示す.

図より,いずれの講義でも環境家計簿を行ったことに否定的な回答は極わずかであったことがわか

る.また自由意見をみても,否定的な意見には「講義時間外での作業が多いこと」に対することがあ

る程度であった.

10

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表 2 回答結果

a) 環境を考える(2007 年度)

大変役立った 25 人(34%)

役立った 46 人(62%)

余り役立たなかった 3 人(4%)

役立たなかった 0 人(0%)

合計 74 人(100%)

b) 環境計画学(2008 年度)

大変役立った 4 人(23%)

役立った 13 人(77%)

余り役立たなかった 0 人(0%)

役立たなかった 0 人(0%)

合計 17 人(100%)

環境家計簿は,一般に環境問題に関心のある人が自主的に行われるもので,ここで行ったように義

務的にやらせた事例は少ない.また毎週記録することやグループでまとめる作業など,手間も多い.

この強制させたことが,かえって講義終了後,環境に配慮することに嫌気を覚えさせることを危惧し

ていたが,排出量の定量的解析や意識調査からそのような反動的な作用が及んだ学生は図 11 から数名

程度であることがわかった.

4. 環境家計簿を活用した最適な講義プログラム 4.1 講義プログラム これまで 4年間にわたって環境家計簿を利用した講義を行ってきたが,その中で環境に配慮した行

動を促すために有効な講義方法を下記に挙げる.

表 3 環境に配慮した行動を促すために有効な講義方法

a) 班単位で環境家計簿をとりまとめること b) 学生と教員での双方向型の取り組みであること c) 個人指導であること d) 個人ごとに継続して記録すること e) 学生間で情報の共有ができること f) 成果発表を行うこと

a)については,多くの場合には「他人にみられている」ことによる張り合いや緊張感などが家計簿

を継続してつけることを促すように作用していた.また互いの気持ちが打ち解けて,議論できるよう

になるためには,時間を要するため,最初にアイスブレイクを行うと効果的であった.

11

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b)については,教員が毎週のレポートをチェックし,コメントを加えることで,学生との信頼関係

が徐々に築かれていくという実感を得ることができた.ある程度の信頼関係ができれば,さぼること

なく真摯に実施するようである.

c)については,環境家計簿をつけ始めてからの時間を経過するほどに,個人差が大きくなっていく.

行動ができる学生には,さらに新しい気付きを促すことも必要であろうし,なかなか行動できない学

生には簡単なことから提案していかなければならない.履修学生が少ない場合には,面接方式のカウ

ンセリングを行なうと教育効果は上がった.

d)については,排出量と意識についての記録(環境カルテ)を 2年間継続できれば,個別の指導に

活かせる.またさらに有効な学習方法について検討することも可能となる上,将来にわたって追跡調

査を実施することもできる.

e)については,グループへのコメントや優れた取り組みなどを HP,U ラーニングや講義中で紹介す

ることで新しい気付きが生まれるようである.さらに発展させて,学生間同士でコメントをし合うこ

とも試みたが,やる気のある学生には高い評価を得ることができた.

f)についても,環境を良くしていくことの仲間意識,新しい方法への気付き,他人との比較,評価

される緊張感,ふり返る機会となることから環境配慮行動をしっかりと根付かせるためには不可欠な

ことと思われる.

4.2 プログラムを進める上での注意点と課題 以上のプログラムを進める上での注意点や課題を表3の項目ごとに挙げる.

a)については,一人暮らし,家族と同居の学生に大きく区分し,その中で一班 5~6 人程度となる

ように学生に自由に班分けをさせた.その結果,他者を意識して相乗的に気づき,動機づけがなされ

た班もある一方で,「他の人がせずに,私一人だけが真面目に・・・」という状態になることもあり,

班単位での取り組み状況の観察には注意を要する.

b)については,これまでの経験上,教員のチェックが甘くなると学生の取り組みとその成果も低調

となるようである.

c)については, 「できている」と思っていることと実際の排出量には乖離がある学生や,適当に記

録する学生もあるので,教員が個人ごとにチェックしていることや,環境カルテや行動シートといっ

た実際のデータを基に個別にカウンセリングを行なっていく必要がある.

e)の効果を高めるためには,取り組みの特徴や問題に関する情報を素早く学生に返してやる必要が

ある.

他にも,「家族の協力を得ることは難しい」,「家族に言うことができない」といった意見は,各講義

で聞かれた.それに対する教員からの指導には限界があるが,「あきらめないこと」を基本に声かけを

していくなど,この対応方法については今後の課題である.またバイクや車の利用による環境負荷も

大きいが,この定量的な評価方法についても課題の一つである.

5.おわりに

従来より,大学生は,知識はあるが,行動が伴わないと指摘されてきた.しかし,その課題を克服

するために,環境家計簿を使った講義を行ったところ,多くの学生の行動に変化が見られるなど,一

定の成果を挙げることができた.講義方法のポイントは学生の行動を丁寧に観察し,適切にアドバイ

12

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スをするなど,手間をかけることでもあった.これらはどのような教育でも基本となる事項であるが,

環境問題の解決意欲を育むための教育方法を具体的に明らかにすることができた点が大きな成果であ

る.

また「環境家計簿を継続し続けるだけか?」といった問いもある.環境家計簿を継続して記録する

行為に意味があるのではなく,それを通して環境に配慮することを考え,気付き,行動し,環境家計

簿が無くとも,日常的にそのような行動ができる学生が数多く生まれ,社会に巣立つことが講義の目

標である.さらに環境配慮行動の具体的な方法とその効果を知り,配慮行動のできるようになった学

生は,周辺の人たちにもこれらの活動を広めることや,学外に出て活動するようになることを支援し

たいと考えており,その具体的な方法も用意しつつある.今後,学外の活動と連携しつつ,さらに教

育効果を高める方法について検討していく予定である.

13

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2.機械工学科における教員相互授業評価について

機械工学科 小西克信

工学部 FD 委員会における教員相互授業評価の年次計画は,平成 18 年度が「調整」,平成 19 年度が

「本導入」,平成 20 年度が「充実」となっている.これに対応して機械工学科では,平成 19 年度と

20 年度に,次の方針で教員相互授業評価を実施した.

(a) 学生による授業評価アンケートの集計結果への各教員の対応策を尋ねる.

(b) 講義・演習・実験・実習の資料(試験問題,試験答案,プリント等)をチェックする.

(c) 多くの教員に授業を参観してもらう.アンケートに記入してもらう.

(d) 授業参観の世話,アンケート集計,資料のチェックなどは学科 FD 委員会が行う.

(a)についてはアンケート調査の結果,ほぼ全教員が何らかの形で,授業評価アンケートの集計結果

を次回以降の講義・実習等に役立てていることが明らかとなった.(b)については,JABEE 対応資料(採

点された答案用紙,レポート等)をチェックしたが,特に問題となるような事柄は見られなかった.

以下では,(c)について平成 19 年度と 20 年度の結果を比較しながら,詳しく説明する.

(1)授業参観の実施

平成 19 年度はあるクオーターで講義科目 10 科目を授業参観したので,平成 20 年度は別のクオータ

ーで講義科目 10 科目を授業参観した.学科内の教員には授業参観の時間割表を配布し,できるだけ多

くの科目を参観すること,及び,現場で教員相互授業評価アンケートに記入することを依頼した.参

観人数は1科目当たりの平均で,平成 19 年度が 6.7 人,平成 20 年度が 5.5 人であった.参観時間は

各自の自由としたが,概ね 30 分から 1時間の範囲であった.

教員相互授業評価アンケートの内容は,次の 12 項目と「この授業に対する感想,要望,意見,ある

いは改善のための提案」とした.

1.授業の必要性や位置づけが明確であった. そう思う:5,4,3,2,1 2.授業内容の分量は適切であった. そう思う:5,4,3,2,1 3.授業のレベルは適切であった. そう思う:5,4,3,2,1 4.授業で取り上げられた事柄は興味ある内容であった. そう思う:5,4,3,2,1 5.この授業で学んだことは今後役立つと思った. そう思う:5,4,3,2,1 6.教員の熱意や意欲を感じた. そう思う:5,4,3,2,1 7.説明のしかたは分かり良かった. そう思う:5,4,3,2,1 8.授業の進度や時間配分は適切であった. そう思う:5,4,3,2,1 9.講義はよく聞き取れた. そう思う:5,4,3,2,1 10.板書の字や図は明瞭であった. そう思う:5,4,3,2,1 11.教科書,配布資料などの教材は適切であった. そう思う:5,4,3,2,1 12.学生からの反応や意見を生かした授業であった. そう思う:5,4,3,2,1

このアンケートは,学部学生が講義・演習科目の授業評価に用いるアンケートの A1-A5,B1-B7 と同

じである.内容的に妥当なものであると思われるし,同じものを使用することによって学生による授

業評価と比較できると考えたからである.以下では,アンケートの集計結果について説明する.

14

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(2)教員相互授業評価アンケートの集計結果

表1は,「この授業に対する感想,要望,意見,あるいは改善のための提案」として参観者が自由に

記述したものを,重複の無い様に整理したものである.科目番号はアンケートの平均点(12 項目全部

の評価点の平均値)の高い順に付けている. 参考として学生授業評価アンケート平均点の順位をカッ

コ付で示しているが,科目番号 1,9,10 に着目すると,教員の評価と学生の評価が逆になっている.

表1.平成 20 年度教員相互授業評価アンケートの集計結果

科目

番号

学生アンケ

ート順位

アンケートにおける自由記述

1 (10) 一般的にこの科目の内容は,学生にとって消化不良であるとの印象がある

が,この授業程度のレベルは保ってほしい.配布資料が非常に丁寧に作ら

れている.参観して個人的に非常に面白かった.

2 (1) スライドを準備していて内容がよく分かる.実験装置も持参.実験は後ろ

の席から見えにくかった.中間試験は簡単らしいが,学生はノートを取っ

ていない.数式がない.電子回路の理解は進んでいるのだろうか.

3 (6) 方程式の数値解法を詳しく説明.学生は黒板を丸写しするだけなので,理

解できたかどうか心配がある.教師の声は大きかったが,学生の反応は鈍

かった.実際のプログラミングも必要なように思う.

4 (7) ときどき後ろの席に眼をやるべきである.個人的には必要だと思うが,学

生にとって授業レベルが少し高いと思う.マイクの声が小さい.類似の内

容が数学等の他の講義にもあるので,連携してはどうか.

5 (9) パワーポイントによる説明であるが,学生が受動的になりやすいので,も

う少し工夫が必要でないか.板書がなく,踏み込んだ説明がない.具体的

な例題が必要でないか.

6 (5) 分からない学生を相手に良くやっている.

7 (4) 手作りの装置で実験して見せている.テキストだけでなく研究的なこと,

周辺的なことも説明している.大学の講義として好ましいと思うが,学生

は理解しているのだろうか.黒板を消すときにアナウンスしている.

8 (8) 学生の方を向いて説明すべし.授業内容にあわせた課題が用意されている

こと,前回のレポートを授業前に返却していることは好ましい.テキスト

に沿った普通の内容だが,学生に分かりやすいと思う.

9 (3) 文字が少し大きすぎる.他は妥当な講義であると思う.

10 (2) 計算が主題なのだから仕方ないかもしれないが,内容の説明がなくて,細

かい計算法ばかり説明している.

アンケートの 12 個の項目に対する評価点は表2のようになっている.括弧内の数値は参考として,

学生による授業評価アンケートの評価点を示したものである.

15

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表2.平成 20 年度教員相互授業評価アンケートの評価点

科目番号 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

全項目の平

4.61

(3.20)

4.58

(3.97)

4.45

(3.57)

4.35

(3.43)

4.18

(3.21)

4.17

(3.68)

4.15

(3.72)

4.08

(3.36)

4.08

(3.76)

4.03

(3.79)

(1) 授業の

目的

4.33

(3.29)

4.33

(4.00)

4.10

(3.43)

3.80

(3.40)

4.33

(3.38)

4.00

(3.72)

4.25

(3.84)

4.25

(3.72)

4.00

(4.02)

4.00

(3.94)

(2) 授業の

分量

4.67

(3.12)

4.83

(4.15)

4.30

(3.49)

4.60

(3.60)

4.00

(3.00)

4.33

(3.76)

4.25

(3.68)

4.00

(3.42)

4.00

(3.80)

3.67

(3.94)

(3) 授業の

レベル

4.17

(3.02)

4.83

(4.00)

4.20

(3.36)

4.40

(3.43)

4.00

(2.81)

4.33

(3.48)

3.50

(3.57)

4.00

(3.42)

4.00

(3.82)

4.00

(3.77)

(4) 内容の

興味

4.83

(3.05)

4.50

(3.93)

4.60

(3.15)

4.50

(3.21)

4.17

(2.75)

4.33

(3.66)

4.50

(3.62)

4.50

(3.30)

3.67

(3.57)

4.00

(3.49)

(5) 今後役

立つか

5.00

(3.44)

4.67

(3.92)

4.70

(3.45)

4.60

(3.41)

4.33

(3.00)

4.67

(3.86)

4.50

(3.81)

4.25

(3.65)

4.33

(4.00)

4.33

(3.87)

(6) 教員の

熱意

4.83

(3.45)

4.83

(3.95)

4.70

(3.72)

4.50

(3.51)

4.50

(3.50)

4.33

(3.72)

4.50

(3.78)

4.00

(3.21)

4.33

(4.06)

4.33

(3.64)

(7) 説明の

仕方

4.50

(2.88)

4.50

(4.03)

4.50

(3.85)

4.30

(3.35)

4.00

(2.94)

4.00

(3.93)

4.00

(3.81)

3.75

(2.86)

4.00

(3.73)

3.67

(3.77)

(8) 授業の

進度

4.67

(3.02)

4.67

(4.03)

4.30

(3.49)

4.70

(3.49)

4.17

(3.19)

4.00

(3.72)

4.00

(3.59)

4.25

(3.47)

4.00

(3.41)

3.67

(3.98)

(9) 聞き取

れたか

4.67

(3.29)

5.00

(4.13)

5.00

(3.94)

4.50

(3.29)

4.50

(3.50)

3.67

(3.72)

4.25

(4.03)

4.00

(3.53)

4.67

(3.65)

4.33

(3.96)

(10) 板 書

の字や図

4.83

(3.12)

4.33

(4.03)

4.60

(3.70)

4.50

(3.59)

4.33

(3.63)

3.67

(3.38)

4.50

(3.76)

4.50

(3.02)

3.67

(3.63)

4.33

(3.91)

(11) 教 科

書や教材

4.83

(3.57)

4.17

(3.95)

4.50

(3.66)

4.20

(3.56)

4.17

(3.56)

4.67

(3.48)

3.50

(3.51)

4.00

(3.51)

4.33

(3.80)

4.33

(3.77)

(12) 学 生

への対応

4.00

(3.14)

4.33

(3.53)

3.90

(3.57)

3.60

(3.34)

3.67

(3.31)

4.00

(3.76)

4.00

(3.62)

3.50

(3.19)

4.00

(3.63)

3.67

(3.49)

全項目の平均点と各項目の評価点との関係は,教員相互授業評価アンケートの場合が次ページの図

1,学生授業評価アンケートの場合が図2となっている.横軸の平均点順位は,教員相互授業評価ア

ンケートでは科目番号に等しいが,学生授業評価アンケートでは単なる順位である.したがって,図

1と図2の横軸は必ずしも同一科目を表していない.

図2では回答者の人数が多いためか,平均点のグラフ(太線)と各項目の評価点のグラフがほぼ同

じ傾向を示している.これに対して図1では,回答者の人数が少なく,科目ごとに回答者が異なるた

めに,データのばらつきが大きい.しかし,大まかな傾向は平均値で代表できるように思われので,

以下では,平均点のみを用いて検討する.

16

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

2

3

4

5

(2)(1)

(4)(3)

(8)

(5)(6)(7)

(9)(10)(11)(12)平均

評価点

平均点順位

H19年度

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

2

3

4

5

(2)(1)

(4)(3)

(8)

(5)(6)(7)

(9)(10)(11)(12)平均

評価点

平均点順位

H20年度

図1.教員相互授業評価アンケートにおける全項目平均点の順位と各項目評価点の関係

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

2

3

4

(2)(1)

(4)(3)

(8)

(5)(6)(7)

(9)(10)(11)(12)平均

評価点

平均点順位

H19年度

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

2

3

4

(2)(1)

(4)(3)

(8)

(5)(6)(7)

(9)(10)(11)(12)平均

評価点

平均点順位

H20年度

図2.学生授業評価アンケートにおける全項目平均点の順位と各項目評価点の関係

17

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(3)教員相互授業評価アンケートと学生授業評価アンケートの相関関係

教員相互授業評価アンケートと学生授業評価アンケートにおける各科目の全項目平均点の相関関係

をプロットしたのが図3である.科目数が 10 なので,ドットはそれに対応してそれぞれ 10 個ある.

2 3 4 5

2

3

4

5

学生授業評価アンケート平均点

教員相互授業評価アンケート平均点

H19年度

2 3 4 5

2

3

4

5

学生授業評価アンケート平均点

教員相互授業評価アンケート平均点

H20年度

図3.教員相互授業評価アンケートと学生授業評価アンケートの相関関係

平成 19 年度の 10 個のドットは,完全な直線関係ではないが,相関係数は 0.481 となっている.相

関係数の評価としては一般に,0~0.2 では殆ど相関関係がない,0.2~0.4 ではやや相関関係がある,

0.4~0.7 ではかなり相関関係がある,0.7~1.0 では強い相関関係がある,とされているので,平成

19 年度の場合は「かなり相関関係がある」ということになる.一方,平成 20 年度の 10 個のドットで

は相関係数は-0.121 であり,「殆ど相関関係がない」.平成 19 年度の場合にも,縦軸が 4 以上で横軸

が 3以上の 7科目に着目すれば相関は殆どないので,この条件から外れた左下の 3科目が,教員の目

から見ても,学生の目からもても評価は低いことになり,相関を作り出していると思われる.したが

って,図 3は,この条件から外れることは少し問題があるということ,また,少し奇妙ではあるが,

基本的には教員評価と学生評価の間には相関がないということ,を示していると思われる.

(4)平均点の分布

図1と図2に示した平均点のグラフ(太線)を抜き出して表示すると,図4のようになる.2本の

グラフは,両年度ともほぼ平行になっている.19 年度の場合は,右端の2点は,その左の3点からか

なり低下している.即ち,8 位のところで急激に折れ曲がっている.このような形は成績を表したグ

ラフによく見られるが,折れ曲がり点の右の科目は,左にある科目に比べてレベルがかなり低いとい

うのが一般的な印象であるから,これらの科目は改善の必要があると思われる.一方,20 年度のグラ

フでは急に折れ曲がったところがなく,平均点も教員授業評価では 4以上,学生授業評価では 3以上

であるから,特に問題はないと思われる.なお,教員授業評価と学生授業評価のグラフは平均点の大

きい順にプロットしているので,横軸の同じ位置は必ずしも同一の科目を表していない.

18

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

2

3

4

5

平均点の順位

平均点

教員相互授業評価アンケート

学生授業評価アンケート

H19年度

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

2

3

4

5

平均点の順位平均点

教員相互授業評価アンケート

学生授業評価アンケート

H20年度

図4.平均点の分布

(5)教員の年齢と学生授業評価平均点の関係

学生と教員は一般に年齢が離れているので,学生には年齢の近い若い教員の講義が理解しやすいの

ではないかと思われる.そこで,平成 20 年度の学生授業評価アンケート集計結果の半分(31 講義科

目)について,教員の年齢を 20-29, 30-39, 40-49, 50-59, 60-69 に区切り,各年代ごとにアンケー

トの平均点をプロットしたのが図5である.

20 30 40 50 60 702

3

4

5

学生授業評価アンケート平均点

教員年代

A1–A5平均 B1–B7平均C1–C6平均 全項目の平均

2 111 5 12

図5.教員年代と学生授業評価平均点の関係

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ここで,アンケート質問項目 A1-A5 は,「(1)授業参観の実施」で示した 1-5,B1-B7 は同じく 6-12,

C1-C6 は下記の 13-18 である.

13.この授業を受講するうえで,シラバスを利用した. そう思う:5,4,3,2,1

14.授業への出席を心掛けた. そう思う:5,4,3,2,1

15.授業に集中するように心掛けた. そう思う:5,4,3,2,1

16.予習,復習を心掛けた. そう思う:5,4,3,2,1

17.授業の内容は全体的に理解できた. そう思う:5,4,3,2,1

18.総合的に評価して,あなたはこの授業に満足しましたか.そう思う:5,4,3,2,1

また,各年代の上部の数字は,その年代に含まれる教員が講義した科目数を示している.

この図をみると,質問項目 A,B,C の間には大きな差はなく,黒丸で示した全質問項目の平均点で代

表できると思われる.そして,各年代に対する黒丸の分布は少数の科目を除いて 3以上になっており,

特に顕著な年代間の相違あるいは傾向はないようである.このことから,機械工学科における講義科

目は,学生アンケートの質問項目に対応して,十分な創意工夫の下に実施されていると思われる.

(6)おわりに

ここでは,平成 19 年度と 20 年度に実施した教員による授業参観のアンケート集計結果(それぞれ

10 の講義科目,図 1~図4),および平成 20 年度の学生授業評価における教員の年代別平均点の集計

結果(31 の講義科目,図5)を通して,機械工学科における講義の現状を検討した.その結果,ごく

少数の科目を除いて,機械工学科における講義は,学生アンケートの質問項目に対応して,十分な創

意工夫の下に実施されていると思われる.

20

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3.化学応用工学科のFD 活動

演習授業における習熟度別学習指導の試み

化学応用工学科 西内優騎,岩澤哲郎,平野朋広

1. はじめに

化学応用工学科では、学生が化学の役割と化学者・化学技術者であることに誇りを持ち、育つことを目

指して教育を行なっている。しかし、たとえば薬学部卒→薬剤師、医学部→医師、法学部→弁護士など他

学部では連想されるビジョンが国家資格としてあるのに対し、工学部化学系→?と具体的ビジョンを見出

せない学生が少なからずいるのも事実である。実際、「積極的にもっと学びたい、専門知識を付けたい」と

考える学生だけでなく、講義で学ぶ内容が自らの将来とリンクしているとの意識が薄く、「単に開講してい

るから」、「卒業するには単位が必要だから」程度の意識で受講している学生も散見される。その結果、学

年が上がるにつれて学生の習熟度に大きな差が現れるようになっている。

習熟度別学習指導とは、学生の習熟度に応じてクラスを編成したり、1つのクラスの中でコース分けを

して、学習の効率を上げようとする教授法の1つである。学生を習熟度で分けることによる学生の学習意

欲減退や差別感の付与、習熟度の偏りによる学生相互の活発な議論の減少など、問題点も指摘されている

が、学生の習熟度によって学習内容や学習時間を変えることができ、効率よく学習が行なえるという利点

もある。本学中期計画でもその実施を掲げており、化学応用工学科でもこれまでに、いくつかの授業で実

施している。たとえば化学応用工学実験4では、先行する学生実験での様子を担当教員に聞き、実験が人

より著しく時間がかかる学生、または危険な操作を行う可能性がある学生がいた場合には、教員および担

当TAがそれとなくフォローすることでどの学生も同じ時間内で実験が終了できるようになった。物質機能

化学1及び演習では、毎回3問程度の問題を希望者に解いてもらい、解答した学生は演習問題を説明する

ことでより理解が深まり、演習問題を解けない学生がいたとしても同級生から説明を聞くことによって内

容が理解できるようになる相乗効果があった。本年度は、その取り組みの一環として、2つに分けて行な

っている演習授業でそれぞれ別のやり方で習熟度別学習指導を行ってみた。

2.対象とした演習授業

講義名:物質合成化学1及び演習 対象学生:化学応用工学科3年生 開講期等:後期月曜3・4講時、選択科目 学習内容:有機化学 受講者数:23名(西内講師) 15名(岩澤助教)

化学応用工学科では、学部1年から教科書[マクマリー有機化学(上・中・下)]の主要部分をもれなく

教授し、化学系学科にふさわしい有機化学の素養を身につけた卒業生を送り出すことを有機化学系科目の

教育方針としている。当講義は、これら一連の有機化学科目を既に受講済であることを前提に行っている。

21

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3.実施方法

3.1西内講師

学生の学習への動機付けの一つとして、工学系学科卒業者が大きな割合を占める弁理士の紹介(業務、

平均年収など)を行った。この資格試験で出題される有機化学の問題(学部卒対象、院卒免除)を題材に

して化学系学科卒業者として社会から求められる有機化学の知識レベルや授業内容がダイレクトに将来

(院試や各種資格試験)に直結することを説明した。また、授業を対話形式にすることで、学生に緊張感

を持たせ授業に意識が集中するように図った。

習熟度別指導方法

講義形態は、資格試験で過去に出題された有機化学の問題などを、教員が学生1名(名簿順)に質問し、

その学生が解答する対話方式で行った。また、その問題を学生が単に解くあるいは教員が単に解説するの

ではなく、問題毎にその問題に関係する周辺領域の専門事項の質問・解説を行い、異なる時期に学んだ事

例が密接に関係していることを説明し、有機化学の体系的理解の促進を図った。また、学生が忘れていた

専門知識などを有機化学の基本概念のみを用いて説明し、暗記の学問と誤解されがちな有機化学が基本概

念だけで理解できることを説明し、有機化学を苦手とする学生の習熟度向上も目的とした。

具体的な習熟度別指導方法としては、講義期間初期に行った習熟度判定試験の成績と質疑応答時の学生

の様子を参考に、習熟度の低い学生には有機化学の基本概念を中心に質問し、習熟度の高い学生には対象

問題周辺事項の質問やその場で問題をアレンジし難易度を上げて質問し講義を進めた。

習熟度別指導効果 講義の初期、中期、講義最終日に同一の習熟度判定テストを行なった。各問題についての正解率の変化

から各学生の習熟度変化の評価を試みた。習熟度判定試験問題は、化学全般に共通する基本問題 8 問、有

機化学を理解するために必須の基本概念 15 問、有機化学の基本的な化学反応式 7 問および資格試験や大

学院入学試験などで出題頻度の高い有機化学の主要な事例および合成反応問題を 5 問選び用いた。

右表に第1・2・3回習熟度テストの正解率の変化を示した。学生の表示順は、第1回目テストの正解

率順に並べ以後、固定している。また、正解率0%は試験時欠席を表している。以後、初回テスト正解率

下位グループを低習熟度学生(11名)、上位グループを高習熟度学生(12名)と表記する。23名中

22名で授業期間が進むにつれて正解率が上昇している。第2回目テスト(授業期間中期)では、高習熟

度学生に比べ低習熟度学生は若干正解率が低いものの、第1回よりも大きく正解率が上昇している。第3

回目テスト(最終授業時)では、初回習

熟度に関係なくほぼ全ての学生におい

て同程度で高水準の正解率を示した。

習熟度評価テスト

0

20

40

60

80

100

120

0 5 10 15 20 25

受講生

正解

第1回; 平均点 42 点

第2回; 平均点 59 点

第3回; 平均点 79 点

22

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右表は、第1・2・3回習熟度テストの問題別正解率の変化を示した。第1回テストでは、化学全般に

関する基本知識(問1から8)、有機化学基本概念(問9から24)ですら高い正解率とは言い難く、基

本反応(問25から32)および重要化学反応(問33から37)に至っては理解度の低さが深刻である。

第2回テストでは、化学全般の共通する基本および有機化学基本概念の習熟度が向上している。第3回テ

ストでは、有機化学基本概念を使った個々

の反応の理解に効果が表れ始めるが、重要

化学反応の習熟度にはばらつきが認めら

れる。

右の棒グラフは、第1回から第3回の習

熟度テストの問題分類別に低習熟度学生

と高習熟度学生の正解率平均値をまとめ

たものである。第1回テストでは低習熟度

学生の化学全般の基本知識および有機化

学基本概念の理解度が特に低い。1年から

3年までの講義を“定期試験直前の一夜漬けの暗記”

で乗り切ってきたこと、その結果学年が上がるにつれ

て授業内容がますます理解できなくなる悪循環に陥っ

ていたのではないかと思われる。

第2回テストでは、低習熟度学生の化学全般の基礎

および有機化学基本概念の習熟度向上が著しい。しか

し、習熟度グループに関係なく基本反応および重要反

応の正解率の改善は微小である。これは、授業期間前

半は、低習熟度学生のレベルアップに時間を割いたた

めと思われる。

第3回テストでは、習熟度に関係なく基本反応まで

理解度が劇的に改善された。また、重要反応も、低習

熟度学生の改善率は少し低いものの、講義の始めに比

べて大幅な理解の向上が見られた。

期末試験 ■大部分の問題に有機化学反応を使用し生成物の化学

構造式を解答させた。 ■反応機構を記述し考えて正解を導けるように答案用

紙の半分を余白にした。

約6割の学生が、余白を使い反応機構および各種反応

支配因子を問題構造式に書き込み、考えることで解答

を導き出していた。

第一回:習熟度グループ別正解率

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

化学

全般

の基

有機

化学

基本

概念

有機

化学

基本

反応

有機

化学

重要

反応

出題内容

正解

率習熟度低

習熟度高

第二回:習熟度グループ別正解率

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

化学

全般

の基

有機

化学

基本

概念

有機

化学

基本

反応

有機

化学

重要

反応

出題内容

正解

習熟度低

習熟度高

第三回:習熟度グループ別正解率

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

化学

全般

の基

有機

化学

基本

概念

有機

化学

基本

反応

有機

化学

重要

反応

出題内容

正解

習熟度低

習熟度高

問題別正解率

0

20

40

60

80

100

120

0 5 10 15 20 25 30 35 40

問題分類

正解

第1回; 平均点 42 点

第2回; 平均点 59 点

第3回; 平均点 79 点

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学生にとって、有機化学が暗記から思考する学問として変化していると思われる。

学生の感想 ■期末試験時に答案用紙余白を使用し授業へのアンケートを行った。

①対話式授業方法には、回答者のほぼ全てから肯定的評価が得られた。 ②進行速度には、大多数の回答者から肯定的評価が得られた。遅く感じる者が数名。 ③資格試験問題の教材への採用は、大多数の回答者のから肯定的評価が得られた。

教員の感想 弁理士試験の授業題材への採用および対話式授業の形態は昨年度より取り入れている。昨年度より、授業

中に居眠りや(出席返答のみして)退室する学生は皆無になった。また、学生の授業中への参加姿勢は明

らかに積極的になり集中して教員の話を聞くようになった。 授業終了後、理解しきれなかった事項への質問が増えた。

受講した学生から、弁理士試験および弁理士の業務形態などについて、相談を受けるようになった。

● 習熟度別指導は習熟度促進に極めて効果的である。

● 習熟度促進には、 ① 学生の将来目的意識、論理的理解と思考姿勢の啓蒙、 ②授業参加への積極的緊張感の啓発、③習熟度自己認識の促進

が重要である。

■クラス分けしない習熟度別学習指導のメリット

① 習熟度に関係なく学生の理解に極めて有効な方法である。 ② 低習熟度学生に「劣等感、諦め」を与えない。 ③ 低習熟度学生でも高習熟度学生と同水準まで進歩可能。

■クラス分けしない習熟度別学習指導のデメリット ① 授業期間初期は授業進行速度が低習熟度学生の水準に合わせるため、進行速度が遅くなる。

② 大人数クラスでは、今回のような対話式方法は不可能。 (全ての講義を少人数制・習熟度別にすれば可能だが、非現実的。)

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3.2岩澤助教

☆ 期末テスト前の3回の講義を習熟度別形式で行った

○ 1回目:振り分けのテストを実施

→内容は講義中に出した例題から抜粋

→60点以上が6名、60点以下が9名だった

(但し各学生の点数は公表しなかった)

→60点以上6名をアドバンストクラス、それ以外をベーシッククラスに振り分け

(感想:だいたい予想していた通りの出来だった、うまく点数が散らばったという感じ)

<点数の分布は100, 100, 96, 90, 78, 60, 56, 55, 50, 51, 48, 45, 20, 15, 8>

○ 2回目と3回目

→アドバンストクラスとベーシッククラスそれぞれオーダメードに用意した小テストを実施

*アドバンストクラスは1回目のテストよりも難しい問題を用意

*ベーシッククラスは1回目のテストよりも易しい問題を用意、特にベーシッククラスには1年生、2

年生レベルに関する問題を与えた

→40分間解いてもらい、残り50分で双方のクラスの小テストについて解答解説を行った

(感想:教員の負担は明らかに2倍に増える)

☆ 期末テスト

○ 期末テストは2回目と3回目の習熟度別小テストの問題と似た傾向の問題を出題した

狙いは「復習」してもらうこと

<アドバンストクラスの問題とベーシッククラスの問題をおよそ4:6の比率で出題>

15名中の最低点が70点を記録(この学生は1回目の振り分けテストで最低点の8点だった)。

→ 狙い通りベーシッククラスの学生もしっかり復習して勉強をしてくれたようだ

☆ 感想

今回の試みの長所

1.ベーシシッククラスの学生に対しては基本的な学問的理解が重要であることを繰り返し教えること

ができる利点が感じられた。

2.アドバンストクラスの学生に対してはより一層の応用的な学問的理解が重要であることを繰り返す

ことができる利点が感じられた。

3.各学生がクラス全体でどの程度の理解度に属するのかを知ってもらういい機会であったと感じた。

4.ベーシッククラスの学生に対して勉強させるいい機会になったと感じた。

5.ベーシッククラスの学生が1年生時や2年生時の復習をしてもらうことができた。

6.アドバンストクラスの学生がより一層能力を高め、高いレベルの内容に興味をもたせるいい機会に

なった。

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今回の試みの短所

1.教員サイドの負担は増加、約2倍。

2.ベーシッククラスの学生は当該学問分野において劣等感を持つのではないかと感じた。本講義が範

疇にはいる現代有機合成化学には多様な価値観が混在しており、多彩な個性が活かせる学問領域で

ある。ベーシッククラスにいることで「自分は有機化学に向いていないんじゃないか」と思ってもら

っては困ると感じた。

まとめ

1.習熟度別に講義するやり方がベストかどうかは疑問

2.ただ、多少ともベターであるとは感じた

3.しばらく続ける意義はあると感じた

4.学生がどう感じるか、これも考慮すべきと感じた

4.まとめ

今回、2つに分けて行なっている演習授業で、コース分けを行なわない習熟度別学習指導とコース分け

を行なう習熟度別学習指導を行なった。学生の習熟度を意識しながら演習を行なうことで、いずれの方法

を用いても習熟度に関係なく学生の有機化学に関する理解が深まったと考えられる。この結果から、習熟

度別学習指導が有効であるとも言えるが、教員の負担を考えると今回の2つの方法を単純にすべての講義

に取り入れるのは難しいと考えられる。ただし、今回の習熟度別指導で負担が大きくなった理由の1つは、

化学とりわけ有機化学の基礎的な内容を理解しなくても高学年まで進級できている学生がいることである。

すべての講義において今回行なったような習熟度別指導の「エッセンス」を取り入れて、学生の理解を促

進するような講義を行い、再試験の実施等を通して安直に単位を出さないなどの努力をすれば、このよう

な負担は減ると考えられる。言い換えれば、それぞれの講義単位で習熟度別指導を意識するよりも、在学

期間を1つの単位として習熟度別指導を行なうことが、本当に求められる習熟度別学習指導の姿ではない

かと思う。

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4.電気電子工学科における新入生の学業実態 ~アンケート分析~

電気電子工学科 川上烈生,下村直行,富永喜久雄,井上廉

1.はじめに 昨今,いわゆる,“ゆとり教育”と揶揄される文部科学省の学習指導要領に基づく教育を受けてきた

新入生が,教育・研究の国際的競争力を求められる大学に入学し専門的な教育を受けている.また,

大学での学業生活は,入学以前の受身的な学業生活とは大きく異なり,学習に取り組む自主性や積極

性が多いに求められる.果たして,このような社会的環境および今までに経験のない新しい学業生活

の下で,新入生はどのような意識を持ち,あるいはどのような将来像(キャリアデザイン)を描き学

生生活を充実に過ごしているのか,我々大学教員にとって不明な点があまりにも多い.特に,大学教

員は成績という一面のみで学生に対し教育的指導を行っているが,上述の新入生が抱くあるいは経験

する学業実態などが白日の下に晒されれば,それに応じた個々の学生への多面的で適切で能動的な教

育的指導を丁寧に行う事ができるであろう.更には,個々の学生に応じた学生将来像(キャリアデザ

イン)を明確化させる手助けも可能であり,学習意欲の向上が期待できるであろう. 本学科では,“電気電子工学”とはどうのようなものなのか?という事を分かり易く理解させるため,

新入生の必修科目として,本大学が全学科的に実施している“大学入門講座”だけでなく,“電気電子

工学概論”や“電気電子工学入門実験”,といった入門的あるいは導入的な意味合いが深い科目を設け

ている.これら科目の相乗効果により,新入生の将来像(キャリアデザイン)を描く手助けとなり学

習意欲の向上を期待している.一方,専門分野の広い電気電子工学を真に理解するための基礎的専門

教育科目として,“電磁気学”や“電気回路”といった欠くことのできない,やや専門性の高い必修科

目も1年目から始まる.これらの基礎的専門科目は,数学的教養(微積分や複素数など)や物理的教

養(力学や波動など)を道具として駆使するため,あるいはあまりにも具体性に欠け抽象論的でもあ

り,造詣が浅い新入生にとっては高いハードルであるに違いないであろう(ともすれば,数学や物理

学に興味を抱かない新入生にとって,心に頂く電気電子“工学”のイメージとは程遠いのかもしれな

い).成績上はともかく,このような基礎的な電気電子工学の専門科目の学習を通じて,明確な将来像

(キャリアデザイン)を描き,電気電子工学を正しく理解し,語学力を含めた電気電子工学技術者と

しての国際的に通用する教養を養っているのかのどうか?等の新入生の学業実態を明らかにする基礎

的な教育データがないのが現状である. そこで,本年度の本学科新入生(2008年度入学)に対して,入学から1年間の大学生生活を通じて,どのように新入生の学業実態(学習意欲や将来像など)が変化しているのかどうか,新入生アンケー

トを4月上旬(入学式後の週),7月下旬(前期の最終週),2月上旬(後期の最終週)の 3回実施し,学生一人一人に対応した丁寧で多面的な教育的指導の基礎データを得ることを目的とした. なお,本年度の本学新入生(2008年度入学)は,電気電子工学とはどういうものなのか?直感的に易しく理解させる有効な手段として,本大学で行っている学外研修を積極的に利用し,徳島県が誇る

科学技術を知的に興味深く体験する事ができる常設施設がある“あすたむらんど(徳島県板野郡)”の

科学館へ出向き(4月上旬),電気電子工学的な素養を養っている.紙面数の制限上,このアンケート

結果を載せる事は出来ないが,教員が期待する以上に好評であった事を記すに留める.詳細を知りた

い方は,本年度一年次クラス担任(著者等)へご連絡して頂きたい.

27

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2.新入生の1年目の専門教育科目

まず,新入生が受講する本学科の専門教育科目を紹介する(詳細は表 1を参照).前期には,電気電子工学を分かり易く理解させる科目や学習意欲の向上を狙った科目が並ぶが,後期では,専門教育科

目の学習が始まる.特徴的なのは,“電気磁気学1・演習”は,前期から後期に掛けて行われているこ

とである.なお,各専門教育科目の内容は,本学科のシラバスを参照して頂きたい.

期間 専門科目

前期 電気電子工学概論,電気電子工学入門実験,電気数学演習

後期 解析力学,基礎固体物性論,電気回路1・演習,コンピュータ入門

通年 電気磁気学1・演習

表 1. 新入生の専門科目

3.新入生アンケート実施方法とその内容 新入生の1年間の意識変化のデータを採集するため,①4月上旬,②7月上旬,③2月上旬の計 3回のアンケートを実施した.その詳細な内容を下記に列挙する.

① 第 1回 新入生アンケート 平成 20年 4月 12日実施

No. アンケート内容

(1) 高校で物理を学習しましたか.(どちらかに○) YES NO

(2) 高校で微積分を学習しましたか.(どちらかに○) YES NO

(3) 数学は得意ですか.(どちらかに○) YES NO

(4) 英語は得意ですか.(どちらかに○) YES NO

(5) 電気について,どのくらい知っていますか.(どれかに○)

よく知っている 知っている わからない

(6) 電気について,どのくらい興味がありますか.(どれかに○)

かなり興味がある 興味がある わからない

(7) どのような事を学習(研究)したいですか,具体的に記述してください.

(8)

将来,どのようなことをしたいですか.(どれかに○)

研究者 技術者 公務員 その他

具体的な将来像があれば記述してください.

(9) そのためには,どのようなことをして実力をあげたいですか,記述してください.

(10) 大学院へ進学し研究を行いたいですか. YES NO

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② 第 2回 新入生アンケート 平成 20年 7月 24日実施

No. アンケート内容

(1) 大学生活は充実していますか.(どちらかに○) YES NO

(2) 高校で学習した知識が役立っていますか.(どちらかに○) YES NO

(3) 数学は得意になりましたか.(どちらかに○) YES NO

(4) 英語は得意になりましたか.(どちらかに○) YES NO

(5) 電気について,どのくらい知りましたか.(どれかに○)

よくわかった わかった まだまだ知りたい わからない

(6) 電気について,どのくらい興味がおこりましたか.(どれかに○)

かなり興味がわいた 興味がわいた まだわからない

(7) どのような事を学習(研究)したいですか,具体的に記述してください.

(8)

将来,どのようなことをしたいですか.(どれかに○)

研究者 技術者 公務員 その他

具体的な将来像があれば記述してください.

(9) そのためには,どのようなことをして実力をあげたいですか,記述してください.

(10) 大学院へ進学し研究を行いたいですか. YES NO

(11) 電気電子工学入門実験を通じて,あなたの将来像あるいは電気電子工学について大きなイ

ンパクトがありましたか?記述してください.

(12) 電気電子工学概論を通じて,どのような分野に興味を持ちましたか?記述してください.

* (7)−(10)は第 1回と同じ内容である. ③ 第 3回 新入生アンケート 平成 21年 1月 29日(Aクラス)&2月 3日(Bクラス)実施

No. アンケート内容

(1) 大学生活は充実していますか.(どちらかに○) YES NO

(2) 高校で学習した知識が役立っていますか.(どちらかに○) YES NO

(3) 数学は得意になりましたか.(どちらかに○) YES NO

(4) 英語は得意になりましたか.(どちらかに○) YES NO

(5) 電気について,どのくらい知りましたか.(どれかに○)

よくわかった わかった まだまだ知りたい わからない

(6) 電気について,どのくらい興味がおこりましたか.(どれかに○)

かなり興味がわいた 興味がわいた まだわからない

(7) どのような事を学習(研究)したいですか,具体的に記述してください.

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(8)

将来,どのようなことをしたいですか.(どれかに○)

研究者 技術者 公務員 その他

具体的な将来像があれば記述してください.

(9) そのためには,どのようなことをして実力をあげたいですか,記述してください.

(10) 大学院へ進学し研究を行いたいですか. YES NO

(11) 電気電子工学科の専門科目(後期分)を通じて,あなたの将来像あるいは電気電子工学に

ついて大きなインパクトあるいは興味がありましたか?記述してください.

(12) 来年度の大学生活へ向けての抱負あるいは不安を記述してください.

* (1)−(10)は第 2回と同じ内容である. 4.新入生アンケート結果と考察

4.1 入学直後 第 1回のアンケート結果に基づくと,次のような入学後の新入生像が浮かび上がってくる.高校で物理(95%)と微積分(100%)を学習しているが,どちらかというと数学は苦手であり(57%),英語に関しては十分に得意でない新入生が大多数を占めているという実態が見えてくる(89%).この実態像は専門科目を理解する上での数学的教養について若干の不安を覚える.英語の不得意については,

やはり入試科目が影響しているのだろうか. 電気の知識については,ほとんどの新入生が知らないが(72%),電気そのものへの興味については,大多数の新入生が強い関心を示している事が伺える(87%).具体的には,半導体や電気自動車,電気回路,プログラミングといったものが挙げられているが,図1に見られるように,物性デバイス,太

陽光発電や風力発電などの電気エネルギー,プログラミングや電気回路などのシステム及び知能電子

回路といった幅の広い電気電子分野に均一的に関心を示している事がわかる. また,入学直後に描く将来像(キャリアデザイン)については,研究者を含めると 90%の割合で技術者への道を嘱望しているが,具体的なビジョンを描いている新入生は 30%程度と意外と少ない.この 30%の内で大多数を占めた将来の職業が,興味深い事に,電力会社である.このような結果は,電気といえば電力会社だという社会的な背景によるものであろう. 更に,そのためにはどのような事をして実力を挙げたいか問うたところ,75名からの希望に満ちた,やる気のあるコメントが多数見受けられた.頼もしい限りである.その内のいくつかをここで紹介す

る.キーワードしては,“勉強”,“英語力”,“基礎”といったところで,意外にも“実験”という単語

も出てきている. ・大学の研究によって,技術力を上げたい.・実験,研究をどんどんやっていきたい.・何においても,基礎を磨きあげる.・英語力をつける.・英語や基礎的な教科を確実にやっていき,専門書などを読む.・予習,復習をしっかりし,疑問に思ったことがあればしっかり調べる.・勉強と創成開発にはいったので実際につくってみる.・勉強だけでなく,いろいろな事を学びたい.・授業をまじめに受け,自分から進んで色々なことをする.・自分から進んで情報を取得しに行くような行動.それに関連の本を読むだとか.・日々の授業を大切に暗記するのではなく理解するように心がける.・サークルやバイト,人間性を高める.・先生のはなしをよく聞いて,分からないことは質問する.・基礎をしっかり身に付け,積極的に実験や勉学にはげむ.・実験や,失敗をくり返して学んでいく.・電気についてすみからすみまで全てのことを頭に入れて,また,海外進出したいので,英語や中国語も学ぶ.・まじめに遊んでばかりでなし興味ある事に向かって行きたい.・基礎をしっかり理解する.・基礎をかためたい.・電気に欠かせない半導体について学び,実際に電気回路や半導体を作ったりふれたりしたい.

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図1.新入生が興味を示す電気電子分野別の推移 4.2 入学から半年後 前期科目が終了する時期に行った第 2回のアンケート結果に基づくと,全学共通教育科目が主である事もあり,高校で学習した知識が役立っているようであり(80%),環境の変化にもなれ充実した学生生活を過ごしている事が伺える(90%).しかしながら,数学(60%)や英語(87%)については,不得意のままのようである.これら科目についてはまだまだケアが必要であるように感じられる. 電気についてわかったと回答した新入生は 20%程度であり,大多数の新入生がまだまだ電気のことについて知りたいらしく,依然として電気そのもの対する興味は大変高い(75%).しかしながら,その興味対象が若干であるが,図1に見られるような変化が見られる.つまり,エネルギー分野への興

味が群を抜いているようである.そのような傾向は,設問(11)および(12)のコメントからもうかがい知れる.要するに,電気電子工学入門実験や電気電子工学概論を通じて,エネルギー分野への興味を掻

き立てられた事がわかる.やはり,電気について知らない新入生が多いので,これらの科目による教

育的影響はかなりのインパクト度があるのかもしれない. また,将来像(キャリアデザイン)やそのためのスキルアップ方法等については,入学直後と比べ

て大きな変化は見られなかった.これは,これらの導入的な科目だけでは,カバー仕切れない事を端

的に表しているのかもしれない.例えば,就職活動中の4年次学生が参加するようなOB&OGによ

る就職談話あるいは講演会等などが早い時期に必要なのかもしれない.以下に,スキルアップのため

の新入生コメント 70名のいくつかを紹介する.

・興味のでた分野について,もっと勉強したい.・勉強してその成果を応用できるよう努力する.・英語や基礎的な教科を確実にやっていき,専門書などを読む.・めんどうな仕事を先延ばしにしない.・すさまじい開発.・大学で学べることは自分から進んで学ぶ.・講義をまじめに受け,自分から進んで調べ,基礎知識をかためたい.・実験などで製品を作る上での基礎を身に付けたい.・さらに電気についての知識を増やしていく.・数学などの基礎的な知識.・大学や大学院でたくさん学ぶ.・授業を聞くだけでなく,分からないことは聞いたり,調べたりして実力をつける.・人生の師を見つけたいです.・今は大学の講義で学んでいることをしっかりと理解して図書館などでいろいろな本を読みたい.・数学,物理,英語を頑張りたい.・英語と電磁気の勉強をつむ.・実験をたくさんこなしたい.・実験を多くして,経験を積み

どのような事を学習(研究)したいですか.

0%

10%

20%

30%

40%

50%

物性デバイス エネルギー システム 知能電子 その他

第1回

第2回

第3回

31

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たい.・実験をがんばる.・好奇心を大切にする.・電気技師の資格をとるため勉強にはげみたい.・研究に入る.・モーターの研究はかかせないので力をいれたいです.・ロボコン見学.・勉強だけでなく,興味のあることに積極的に参加したい.・研究のために必要な数学などの知識を十分に得るため積極的な学習をする.・もっと本を読む.・実験と講義.

4.3 入学から1年後 後期科目が終了する時期に行った第 3 回のアンケート結果に基づくと,10%程度減少しているものの,前期と同様に後期も充実した大学生活を過ごしている事がわかる.同様に,依然として,数学(57%)や英語(88%)については,不得意のままのようである. 電気についての興味も,前期末のアンケート結果と同様に,大きな変化は現われなかった.しかし

ながら,図1に見られるように,物性デバイス分野への興味が薄らいでいるようである.この分野は

数学的教養に加えて,物理的教養を必要とするため,新入生が描く半導体のイメージと現実とに存在

する大きなギャップが原因であるかもしれない.これについては,現在の電気電子技術において半導

体は欠かす事の出来ないものであるので,今後しっかりとしてケアが必要であるのではないかと考え

る.将来像(キャリアデザイン)やそのためのスキルアップ方法等についても,1年間を通して大き

な変化は見られなかった. また,後期の専門科目の中で,特に,電気回路に強い興味を抱いた事が設問(11)より伺える.しかしながら,電気磁気学においては,逆の意味でインパクトを受けた新入生が見受けられる.そのよう

な傾向は,設問(12)のコメントからも窺い知る事が出来る.それに関連して,設問(12)では来年度へ向けての抱負も問うているが,現実的になったのかあるいは専門科目の影響なのか,不安を口にする新

入生のコメントが多く見受けられる.この結果は,入学から1年後のケアも必要である事を物語って

いるのかもしれない.設問(12)に対する 70名のコメントの内のいくつかを次に紹介する.

・計画を立てて生活をする.それに尽きる.・二年の授業は一年の授業よりも難しくなるので今以上にがんばろうと思う.・専門科目が増えるので難しくなるのかなと思う.・学年が上がるにつれて勉強が難しくなっていくので,きちんと理解していけるのかが不安である.・難しくなる専門科目についていけるか不安だ.・電磁気が難しい!!・講義についていけるのか不安です.・難化するであろう勉強についていく.・専門科目に力を入れ,予習,復習を行い,習ったことは完璧にしておく.また率先して学業に取り組み,自分の将来の技術者になるための努力を惜しまない.・電気電子が非常に難しく,不安である,努力して理解する.・進級できるよう努力したい.・電気磁気学が明らかに遅れているので春休みに克服したい.今よりもっと勉強して,充実できるようにしたい.でも,来年からの専門科目の授業についていける自信がない.・パソコンが得意ではないのでがんばりたい.・このままで自分の研究したいものが見つけられるのか不安です.・2年生になると専門科目が入ってくるので良い成績で単位をとれるようにがんばりたい.・今,大不況の中ちゃんと就職できるような学力がつくのか不安である.・電気磁気学をあまり理解できなかったので来年度までにはしっかり理解する.・来年度はもっと積極的に勉強していきたい.・何事も進んで努力する.・部活,バイト,勉強を両立する.・電気磁気学がムズかしいのが不安.・単位がとれそうにない.・更に難しくなる授業についていけるのか不安.・上の学年にあがれるかが心配です.・授業についていけるかどうか.・電磁気がとれるかどうか.・1 年間おせいじにもがんばったとはいいがたいので,1年後にがんばれたといえるようにがんばっていきたいと思います.とりあえず今書いている小説はおわらせたい.・卒業できるのかということと,卒業できても仕事があるのかということが不安である・少しずつ難しくなっていき,ついていけるかどうか.・授業についていけるか不安.・基礎数学の力をのばす.・勉強についていけるか不安だか諦めずに頑張る.・来年度になってさらに難しくなる勉強についていけるかどうか不安.だからついていけるように春休みにしっかり復習しておく・来年があるか不安.・授業を毎日集中してきく後期の単位がとれるか.・目標を見つける.・進級できるかどうか不安.・もっと勉強する.・サークル,バイト,勉強を両立できるようにする.・今年度よりも有意義な学生生活を送る.

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なお,大学院への進学を希望する新入生は,後期末で 10%程度低下するものの,入学直後と変わりなく 80%という高い希望を頂いているようである.これは,本学で毎年行っている高校生を対象とした体験大学院講座の賜物であろう.

5.まとめ

新入生に対して,入学直後,前期末,後期末の計3回のアンケートを実施し,その結果をまとめ考

察することにより,次のような新入生の学業実態が明らかになった.電気について知らないが,非常

に興味が高い新入生が入学している実態において,入門的あるいは導入的な意味合いが深い科目は,

非常に教育的効果が高い事がデータ的に確認できた.また,専門科目を理解する上で欠かす事の出来

ない科目の内,数学的教養に加えて物理的教養を必要とする科目については,大きなギャップを感じ

ているようであり,今後,モチベーションを向上させる何らかの対策を打つ必要性を感じる.

謝辞

本アンケートを実施するに際し,ご協力を頂いた本学科教職員に感謝いたします.

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5.知能情報工学科の FD 活動

知能情報システム工学輪講及び演習

~プレゼン,コミュニケーション,英語のスキルアップ~

知能情報工学科 得重仁,寺田賢治

大学院で実施している知能情報システム工学輪講及び演習について紹介する.この講義は大学院生

として取得しておかねばならない能力のうち,研究室では育成することができないものを習得させよ

うとするものである.M1,M2 通年の科目であり,知能情報工学に関するグループ発表,一般教養に関

するグループ発表,小グループのディスカッション,技術講習会,英語のプレゼン,研究に関するポ

スター発表と口頭発表,講演会の聴講と盛りだくさんな科目である.このような 2年間の体験を通じ

て,特にプレゼン,コミュニケーション,英語の技術を身につけることを目標としている.

(1) M1 前期:知能情報工学の知識習得(研究室ごとのチームプレゼン)

毎週,研究室ごとに自分の研究室の研究にかかわるトピックスについてのプレゼンを実施する.ま

ず,最初の 30 分間で講義を行なう.次に,質疑応答をした後に,小グループに分かれてディスカッシ

ョンをする.この際,発表者側はバラバラになってひとつのグループに 1人以上入り,司会を行なう.

そこで全体プレゼンの補足や,デモ,質問に答えたりする.それを45分程度行なったあと,少し休

憩を入れる.この間に発表者側は集まって,各々の小グループディスカッションで出てきた質問など

をまとめる.休憩後,全員の前で,それらの質問と回答を解説して,全員で共有する.最後に 10 問の

クイズを出題する.基本的に選択問題とし,普通に聴講していれば 100 点が取れる問題とする.

ここでは発表者はいろいろな知識をつけてくれるとても偉い人であることとし,また発表者側は,

いかなる手段を使ってでも,聴講者にわからせれば良いこととしている.プレゼンの役割分担,小グ

ループディスカッションの人数分け,デモ内容など全て発表者側に任されている.例えば最初の 30

分の講義において,発表者側は各メンバーが均等に話す必要がなく,的確に役割分担しても良い.こ

れにより聴講者は知能情報工学の知識をえることができる.すなわち 8 研究室ある場合,1 個の知識

を供出することで,7つの知識を得られると言う仕組みとなっている.

また採点は聴講者が解答して提出したクイズの合計点および受講態度として全て発表者が行なう.

ここでのポイントは発表者は採点されないことである.すなわち発表者は偉く,聴講者は教えていた

だくという両者の立場をはっきりと示すためである.

以上が概略であり,知識を得ることを最大の目的とうたって聴講者のための科目としているが,実

は最も身につけるべき技術はプレゼンとチームによる作業をすることのできるコミュニケーション能

力であり,発表者側を鍛えることが本当の目的である.ただこういう能力はいつの間にか身につくの

が理想であるので,このことは一切学生に言っていない.やっているうちに気づいてくれることが最

大の目的である.自分で気づくことが最も大事である.

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以下が平成 20 年度の各研究室のテーマである.

① 5/27 画像処理ってすごいやん?!(B1 講座)

② 6/ 3 自然言語処理 ~機械が言葉を理解するとき~(B3 講座)

③ 6/10 L4U ~いつでも,どこでも~(B4 講座)

④ 6/17 進化計算 ~やっとけ☆コンピュータ~(A4 講座)

⑤ 6/24 いいプログラム悪いプログラム(B2 講座)

⑥ 7/ 1 猿でもわかる符号理論(A5 講座)

⑦ 7/ 8 情報検索のおはなし(A2 講座)

⑧ 7/15 ロボットのための研究(A1 講座)

⑨ 7/22 Akamatsu 生態変換(A3+B5 講座)

(2) M1 後期:一般教養の講義と実技指導

研究室ごとで一般教養にかかわるトピックについてプレゼンと実技講習を行なう.まず 30 分間,講

義を行なう.前期は研究関係であったので発表者と聴講者には知識は大きな差があったが,後期は一

般教養であるので,スタート時点では発表者と聴講者に知識の差がない.すなわち,しっかりと下調

べをして作りこんでこないと,聴講者側は知っている話ばかりのつまらない講義になってしまう.講

義の後,質疑応答をはさんで,小グループにわかれて,技術講習会を行なう.この部分がデモやプレ

ゼンなどを行なった前期とは大きく異なる.すなわち,上述のように一般教養の場合,発表者側に深

い知識がない場合が多い.そこで実技指導という具体的なテーマを与えることにした.そして最後は

10 問のクイズが出題される.

後期も知識と技術を身に付けるためであれば,何をしても良いこととしている.聴講者に満足して

頂けるように最高のサービスをするように指導しており,研究室内の役割分担や道具,場合によって

は場所も変えても良いことにしている.

以上が概略であるが,M1 後期も,聴講者が知識や教養,技術をつけることを前面に押し出している

が,本当は発表者側のプレゼン技術とグループワーキングスキルの向上が目的である.

以下が平成 20 年度の各研究室のテーマである.

① 10/06 手軽にできる健康法(B3 講座)

② 10/20 Let's take a picture!!(B1 講座)

③ 10/27 お金がない(A2+A3+B5 講座)

(a) マンガを使った説明 (b) 配置の指示

図1 M1 前期:最初から最後まで担当学生が仕切る

(C) 10 問クイズ

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④ 11/10 自転車から始めるロハス!!(A5 講座)

⑤ 11/17 ニヤニヤがとまらない自作 PC 講座(B4 講座)

⑥ 12/01 宴会で使える小ネタ(B2 講座)

⑦ 12/08 コーヒー・お茶の入れ方(A1 講座)

⑧ 12/15 今さら聞けない社会生活マナー(A4 講座)

(3) M1 ポスター発表:ポスターによる研究発表と配属前の 3年生へのアピール

M1 の 1 月に 1年間の研究成果の発表をまとめて,ポスター発表をする.まずショートオーラルセッ

ションで,1人 1 分で発表概要を説明する.続いて M1 を半分に分け,90 分ずつ交代でポスター発表を

する.ただ聴講者は,M1 の半分だけではさびしいので,教職員,1年前にポスターを経験している M2,

1 年後にポスター発表をする 4年(進学しない人も含む),そして研究室の配属を控えた 3年生を呼ぶ

ことにした.ただし勝手には来てくれないので,研究室ごとに 1枚ずつポスター(A4版)を作成し,

勧誘することとした.おかげで参加者は約 280 名であり,会場は熱気につつまれ大混雑,小さい学会

並みの聴講者となり,発表者に緊張感をもたせることができた.

本イベントにおいて採点は行なわない.3 年や 4 年,M2,教職員と知らない大勢の人に質問される

ために十分に緊張感もある.学会気分を味わってもらえば良いと考えている.

図 3 M1 ポスター:個性的な勧誘チラシ(研究室ごとの 1枚ずつ作成,学科内の要所に掲示)

(a) 作製したピンホールカメラの例 (b)ピンホールカメラで撮影された写真

図 2 M1 後期:ピンホールカメラを製作,撮影,現像(②Let’s take a picture! )

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(4) M2 前期:英語スキルの習得

毎週 4 名ずつ,研究に関係する何かひとつのトピックスを題材として,10 分ずつ英語でプレゼンを

していく.また指導の教員や聴講者が英語で質問する.ただ聴講者側もいきなり英語の発表を聴講し,

英語で質問はできないので,発表者は事前にサマリーとキーワードを配布し,予習をしてきてもらう.

また発表者は,あまりにもできが悪い者は再発表となる.

採点は,各発表者に対して,全聴講者によるプレゼンとサマリーに関する採点の平均値となる.M1

とは異なり,ここでは聴講者が発表者を採点する.

(5) M2 後期:口頭による研究発表(中間発表会)

M1では後期にポスター発表による研究発表があるが,それは280名も集めたお祭りに近い形である.

それに対して M2 後期の 10 月に開催される中間発表会は,言うなればプレ修論発表である.発表時間

は 10 分,質疑応答が 10 分間である.M1 と M2 の輪講における採点は学生が行なってきたが,ここで

は教員が審査を行なって合否を決める.その際のチェック項目は 45 項目にものぼり,もし 1個でも不

適合の場合は不合格となり, 12 月に開催される再発表会で発表となる.もちろんここでも不合格の

場合は再々発表,再々々発表と続く.本年度は,再発表が 13 名,レポートが 3名であった.ラッキー

なことに再々発表者はいなかったが,昨年度までは1~2名ずついた.

発表者は修論発表を意識してフォーマルウェアである.また発表時間も厳守させる.10 分に対して,

マイナス 1分からプラス 10 秒に収まらないと再発表となる.発表時間の厳守は練習をつませるための

方策である.また再発表会にも,合格した学生も全て参加である.ただし,質問をすると点がもらえ

る.M2 の前期の英語ではかなり悪い点となる人も居るので,ここで挽回してもらうことにしている.

(6) 通年(特に M2 後期) :お勧め講演会への出席

中間発表が終わると,M2 には各研究室で修論の研究に集中してもらうこととなる.知能情報の教員

主催の講演会などでお勧めのものがあれば,学生を動員する.ただし講演会の内容は吟味し,単なる

サクラでの派遣は認めない.過去にも何度か拒否をしたことがある.教員側としては,50 名程の出席

者が見込めるので主催者として責任を果たせるし,学生側にも,知識や教養が身につくこと,そして

点数では 15 点分になるのでかなり大きなメリットとなる.

本年度は,M2 の後期を対象に 1件の講演会をお勧めした.これは,11 月 7,8,9 日に徳島で開催された「地域未来フェスタ 2008 in とくしま」の行事の一環で,野波健蔵教授(千葉大学副学長)による「近未来の身近なロボット-UAV ワークショップ」であった.これは地雷除去ロボット,無人自動操縦ヘリなどで世界的

権威の野波先生による講演と実演であり,聴講するのに値すると判断してお勧め講演会とした.実際,ビデオを

まじえた講演の後,屋外において最新の無人操縦ヘリによる実演が行なわれ,十分な価値があった.

(7) 評価アンケート

M1,M2 に対して身についたものについてのアンケートを行なった.M1 前期に関しては,チームワ

ークやプレゼン能力が高い値を示しており,狙いどおりだったといえる.M1 後期に関しては,上記に

加え,知識が高い値を示しており,これも狙いどおりだったといえる.ただ学習意欲や探究能力の向

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上にはつながっていないのが残念である.M2 前期に関しては,プレゼン能力が突出しているが,英語

の能力に関しては伸びが少ないことが残念である.今後の課題である.

(8) おわりに

本稿では,知能情報システム工学輪講および演習に行なっている大学院生には必要であるが研究室

では教えてくれない知識と能力を身につける講義について紹介した.

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コミュニケーション

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ない

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話す(英

語)

聴く(英語)

書く(英語)

コミュニケーション

プレゼン

探求能力

学習意欲

その他

(a) M1 前期:研究に関する講義 (b) M1 後期:一般教養の講義 (c) M2 前期:英語のプレゼン

図 4 学生のアンケート結果(身についた知識はなんですか?)

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6.授業評価システムとKJワークショップによるFDの取り組み

-本年度の生物工学科FD活動概要-

生物工学科 長宗秀明

1 はじめに 生物工学科では,FD活動として以下の項目について本年度に実施してきた。

1 学生による授業評価結果の分析とフィードバック 2 学生による授業評価結果の公開 3 教員相互授業評価とそれに基づく教員表彰 4 教育カリキュラムや指導方法に関する改善策の検討

これらの項目において,1-3については学生による授業評価を教員の授業改善へフィードバックするこ

とを基軸として,既に構築された学科における全体的な授業評価システムを活用し,教員の相互評価も含

めて実施を進めた。また1-3において抽出された全体的な問題点や今後の授業/実習を進める上で浮き上

がってきた問題点については,KJ ワークショップにおける検討(テーマは「学部教育カリキュラムの改善

について」)とそれと連動した教育カリキュラム改善に向けての活動など,4の検討を進めたので報告する。

2 生物工学科「授業評価システム」によるFDの取り組み 2.1 学生による授業評価制度 最初に,生物工学科の授業評価制度の骨子を成す,学生からの3つのフィードバック制度について述べ

る。

1 授業評価アンケート:

工学部において共通使用されている授業評価アンケートを若干改変した様式で,講義,実験,演習の全

ての科目についてその授業を終えるに際して学生に依頼し提出を願い,現行の授業実施状況についての評

価と感想,また今後の改善に向けての意見などの吸い上げを行っている。その利用方法は他学科とほぼ同

様なものである。

2 中間アンケート:

これは各講義や実習科目が数回行われた時点で簡略に行う,学生からの授業に対する意見と要望を聴取

するためのアンケートである(図1)。これは授業の実施形態や内容が前年度と変更になった初期に特に生

じやすい様々な問題点をできるだけ早期にあぶり出し,それが授業全体に及ばないよう中間期において改

善が図れるようフィードバックするために活用される。また同じ授業形態や内容であっても,年度毎に現

れる学生側の理解度の違いなどを早期に把握し,講義や実習内容に柔軟に反映して学生の理解度をより高

めるよう改善を加えるためにも利用価値は高い。これを踏まえての授業評価が,1に述べた最終での授業

評価アンケートで得られることになる。

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授業改善のための中間アンケート(講義・演習用) 科目名 回答者氏名 (無記名でも構いません) 下記の設問に対し該当するものを○で囲んで下さい。また,記述のところには率直な意見を記入して下さい。 1 この授業はよく理解できますか? 理解しやすい 普通 難解である

2 授業の進度は適切ですか? 早すぎる 適切 遅すぎる

3 教員の声の大きさは適切ですか? 大きすぎる 適切 小さすぎる

4 板書の字や図は明瞭ですか? 見やすい 普通 見にくい

5 教材(プリント,OHP,PPなど)は適切ですか? 良好 普通 改善の余地あり 改善の余地ありと答えた人は,何をどう改善してほしいか記入して下さい。

6 授業の進め方,教科書,教室など全体について,感想や要望等を記入して下さい。

授業改善のための中間アンケート(実験用)

科目名 回答者氏名 (無記名でも構いません) 下記の設問に対し該当するものを○で囲んで下さい。また,記述のところには率直な意見を記入して下さい。 1 この実験はよく理解できますか? 理解しやすい 普通 難解である

2 教員や TAの説明はわかりやすいですか? よくわかる わかる わかりにくい

3 教員の声の大きさは適切ですか? 大きすぎる 適切 小さすぎる

4 板書の字や図は明瞭ですか? 見やすい 普通 見にくい

5 テキストやプリントは適切ですか? 良好 普通 改善の余地あり 改善の余地ありと答えた人は,何をどう改善してほしいか記入して下さい。

6 実験の進め方,テキスト,実験室など全体について,感想や要望等を記入して下さい。

図1:生物工学科中間評価アンケートの様式

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3 到達度評価:

授業履修の最終段階で,1の授業評価アンケートと同時に,学生自身にシラバスに記載された各授業の

教育目標に対する到達度を自己評価してもらい提出を願うものである(図2)。これについてはさらに,各

授業と JABEE 認定された生物工学科カリキュラムの教育目標との関連性についても,学生側からの認識を

確認することも目的としている。評価は3段階でのものであり,詳細な自己分析を求めるものではないが,

(1)教員が試験やレポートで客観的に評価した結果と学生が自己評価した理解度の間の相関/食い違いの

有無や(2)学生が学科の教育目標における当該授業の位置づけを適格にできているかを示すデータとな

る。これを各教員が分析することで,教員が掲げた教育目標が妥当であり,その授業の履修によって学生

がその目標に到達が可能であるのかの判断材料となり,それは授業内容や実施形態の改善に結びつくと期

待される。またこれはチェック後に学生個人へと返還されることから,(1)については学生も再確認がで

き,双方向性の評価システムともなっている。

平成 20年度 到達度評価

学生番号 氏名

科 目 名:###

担当教官:### 1 この科目では,下記の教育目標を掲げています。

この科目の履修の終了時(現段階)で,どの程度目標に到達しているか 3段階で自己評価して下さい。

目標 自己評価 教官評価(空けておく)

1 細菌の一般的な構造や特徴,また細菌の 増殖の特性や遺伝学的特性を理解する。

1 2 3

2 ウイルスや真核微生物の構造と特徴を理解 する。また遺伝子工学の基礎技術を理解する。 1 2 3

1(目標レベルを下回る) :基礎事項の理解ができていない。 2(目標レベルに到達している) :基礎事項を理解し,ある程度応用できる。 3(目標レベルを上回る) :基礎事項を十分理解し,応用できる。 2 生物工学科では下記の学習・教育目標を掲げています。

この科目は,この目標にどの程度関与していたと思いますか。3段階で評価して下さい。

目標 評価

豊かな人格と教養,倫理観をもった生物工学技術者の育成

1 2 3

国際コミュニケーション能力を持った生物工学技術者の育成

1 2 3

課題解決力を持った技術者の育成 1 2 3

研究開発力を持った生物工学技術者の育成 1 2 3

1:まったく関与していなかった。 2:ある程度関与していた。 3:主体的に関与していた。

図2:到達度評価の様式

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2.2 学生による授業評価結果の公開とフィードバック 本年度も中間アンケートは講義スケジュールの半ばにおいて各教員にフィードバックされ,それを参考

にそれ以後の授業が進められて最終的な授業評価アンケートがとられた。その集計結果に基づき,各授業

の担当教員が自己評価や授業の改善に向けてのアクションについて記載したものを,学生授業評価アンケ

ートの結果と合わせて,機械棟7階の生物工学科事務室前の廊下掲示板に約1週間掲示して学生・教員に

公開した(図3)。このように,全学生が各授業のアンケート結果がどのようであったか,またそれに対し

て教員がどのような改善のアクションを執ろうとしているのかを知ることができる。それは同時に,各教

員間で相互評価されて教員の表彰制度に利用され,また各教員が自らの授業改善のヒントを得るために役

立てられている。

図3:授業評価アンケート公開風景

2.3 教員相互授業評価とそれに基づく教員表彰 教員の相互授業評価を授業参観で行うという手法は生物工学科では採用していない。各授業を全員で参

観することの現実的な時間的困難さと,それ故の各授業における評価側教員母集団のバラツキ,また一回

の講義だけで授業全体を評価することの妥当性への疑問がその理由である。これらの難点をほぼ解決でき

るのがやはり学生による授業評価であると考えられることから,そのデータに基づき,教員がさらに相互

評価を行う手法で教員の表彰制度が行われている。

実際には,公開となった授業評価アンケートは学生だけでなく,教員や職員も閲覧できることから,こ

の約1週間において教員は集計結果や自己評価,また授業改善に向けてのアクションプランを相互に評価

し,またアンケート集計結果にも基づいて教員の授業ランキングが決定される(表1)。このデータを基に,

本年度のベストティーチャー賞が決定された。この教員表彰制度は,当該優秀教員の教育への取り組みの

さらなるモチベーションとなり,また他の教員にとっては次年度のランキングアップを目指しての授業改

善にアクセルを踏む機会となる。この表彰については,各教員の提出した授業改善アクションや授業ラン

キング表,またベストティーチャー賞の選考を議題として議決を行った学科会議議事録を根拠資料として

確認することができる。

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表1:平成19年度後期および平成20年度前期 授業評価アンケート結果(教員評価項目抜粋)

科目名 教員氏名 開講期 教員の

熱意

説明の

仕方

授業の

進度

聞き取れ

たか

板書の

字や図

教科書や

教材

学生への

対応 平均

講義 # H20前 4.33 4.43 4.06 4.31 4 3.97 3.83 4.133

講義 # H19後 4.4 4.08 3.77 4.22 4.18 3.65 3.85 4.021

講義 # H20前 3.9 3.7 3.7 4.2 4.07 3.63 3.33 3.790

講義 # H20前 4.39 3.85 3.51 4.25 3.13 3.64 3.74 3.787

演習 # H20前 3.91 3.85 3.74 3.83 3.75 3.75 3.64 3.781

講義 # H19後 3.76 3.63 3.78 3.57 3.83 4.02 3.39 3.711

実験 # H20前 3.92 3.52 3.85 3.48 3.58 3.89 3.62 3.694

実験 # H19後 3.86 3.92 3.75 3.23 3.74 3.75 3.6 3.693

講義 # H19後 3.76 3.91 3.7 3.8 3.61 3.57 3.33 3.669

実験 # H19後 3.91 3.64 3.59 3.14 3.68 3.8 3.74 3.643

3 KJワークショップによるFDの取り組み 生物工学科では教育に関する問題点については,参加が可能な全教員・職員によってのFDセミナーとし

てKJ法によるワークショップを行い,その結果を授業内容やカリキュラムの改善に役立てている。ここで

重要な問題が提起された場合には,その改善に向けてのワーキンググループの立ち上げなども行われる。

KJ 法とは川喜田二郎氏が考案した「創造的問題解決技法」と呼ばれる学術調査の取りまとめ手法であり,

(1)提起されたテーマに対して,ワークショップ参加者各自が思いついた意見やアイデアなどを一つず

つ書き込んだカードを複数枚作製し,(2)作製したカードの記載内容が近いものを集めて小グループ化し,

さらに(3)その小グループ間での関連性によって大グループとして統合していく方法である。このグル

ープ化したデータの鳥瞰図を基に,意見やアイデアの本質的な関連性/流れを分析して,問題点の明確化や

その解決の方策を見出すためのヒントを得ることができる。

3.1 本年度FDセミナー:KJワークショップ

表2:グループ分け

グループA(第一セミナー室) グループ B(第二セミナー室)

司会者 長浜正巳 友安俊文

記録係 玉井伸岳 佐々木千鶴

発表者 白井昭博 宇都義浩

構成員 堀 均,高麗寛紀,辻 明彦,

大内淑代,田端厚之,三戸太郎,

黒田トクエ,中村真紀

松木 均,長宗秀明,野地澄晴,

中田栄治,湯浅恵造,佐々木由香,

勢川智美,友成さゆり

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本年度は平成20年8月28日(木)13:30から生物工学科第1ゼミナール室及び第2ゼミナール

室において,「学部カリキュラムの改善について」をテーマとして開催された。なお,参加可能な教職員を

2つのグループに分け,それぞれ同じテーマについて表2のように司会者,記録係,発表者の各担当者を

選出して議論を行い,それぞれ独立してとりまとめを行った。その後,両グループで議論の結果を発表し

合い,総合討論を経てテーマについての問題点を浮き立たせ,その意識の共有や解決に向けてのアクショ

ンについて意見を集約した。その概要を以下に示す。

図4:小グループ分け 図5:発表・討論

3.1.1 グループAの討論概要 このグループでは討論のメインテーマ「学部教育カリキュラムの改善について」の基に,4つのサブテ

ーマを設定した。その前提でKJ法を実施した結果について,主な意見の概要をまとめると以下のようにな

った。

(1)「講義の開講時期見直しの必要性」について,以下のような意見が出された。

・基本的に開講時期については,見直しが必要ではあるが,担当教員の意見を聞いての調整を必要とす

る。

・基礎科目の履修を1,2年生までに終えさせるようにする。

・科目を1・2と分けている様な場合は,教科書の構成などから授業時期が同時進行にならないように

配慮する。

・英語科目をもっと早期に履修させる。

(2)「実験・演習の実施時期と内容の見直しの必要性」について,以下のような意見が出された。

・実習と演習は生物工学科卒業生が最低限身につけるべき技術を教育するために非常に重要であり,

ゆとり教育で基礎学力が低下している現状においては,「基礎化学実験」などの基礎実習は存続させて確

実に履修させること。またその他の実習内容もいわゆる「専門学校」レベルより高度にすべきであるこ

と。

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・演習は講義と関連づけ,講義・実習・演習の連携/セットで同時期(講義を先行させて演習/実習がフ

ォロー)進行が望ましい。

・実習と演習については講義との連携で1年次から3年次までの年次進行が望ましいが,実験室のサイ

ズと学生数との都合で,調整を経て最善策を模索することが必要。また分析機器の使用に当たっての配

慮も検討が必要。

(3)「講義科目の見直しと新規科目の必要性」について,以下のような意見が出された。

・科目削除・新規科目設定などの見直しに当たっては,先ず JABEE に反しない範囲で見直すこと。またそ

の際に教員免許や資格免許に関係する科目については熟慮が必要。

・ 見直しの際に,現行カリキュラムの科目間で講義内容の重複の多いものは担当教員間で相談調整の上,

統合・廃止を決める。その空いた枠については,エコ/バイオ系で社会的ニーズの高まった学問領域を新規

科目として考える。

・ 数学,物理,科学,生物などの基礎科目の充実に加え,高大接続科目として基礎生物工学1,基礎生物

工学2は応用的側面を照会する導入科目とする。

(4)「講義担当者(助教の講義分担の可否も含めて)」について,以下のような意見が出された。

・助教も講義を持つべきであるが,但し,責任は教授が持つ(賛成意見)。

・助教は集中講義を受け持つ,あるいは複数人数で一科目を担当し開講する(賛成意見)。

・助教は実習・演習に限定すべきであり,研究成果を上げる方が大事で助教に講義負担をかけるべきでは

ない(反対意見)。 3.1.2 グループBの討論概要 このグループでは討論のメインテーマ「学部教育カリキュラムの改善について」に対して意見を述べる

形で,オーソドックスなKJ法を実施した。その主な意見の概要をまとめると以下のようになった。

先ず全体的結論として,「現行の学部教育カリキュラムは見直しが必要ある」との統一的認識を得た。そ

の見直しに際しては,以下に例示するようないくつかの注意点が指摘された。

(1) 開講時期の見直しについて,以下のような意見が出された。

・ 基礎科目優先をベースに再編成する。

・ また専門科目についても,他科目との関連性において履修順序の優先度を決めて再編成する。

・ 講義→実験(実習)という流れを念願においた改善が必要。

(2) 実習・演習について,以下のような意見が出された。

・実験室や他の講義との関連で,2年後期から開始する方向で検討が必要。

・編入生にも対応できるようにカリキュラムを改訂する注意が必要。

・ あまりに特殊な実験項目は控えて,より基準的な項目に的を絞って実習を行う。

・ 実習項目を厳選・固定化し,それを教員が分担する。

・ 創成実験の位置づけを再検討する。

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(3) 科目の見直しについて,以下のような意見が出された。

・必修科目数の見直し。

・ 生命科学の基本となる,物理化学,有機化学,生化学,分子生物学系などの科目バランスを再検討す

る必要性。

・ ネイティブスピーカーを導入しての英語教育の充実化。

・ カリキュラムの履修をスムーズに進行させるよう,基礎科目の充実,関連講義の連携を図るために講

義の系別をする,関連講義担当者での系別ワーキンググループによる教材選定や講義分担会議の恒例

化が必要。

・ 現代の生命科学や社会的ニーズにマッチした新設科目の設置を検討。

・ 学生の視野を広げるために企業や他大学からの非常勤講師の増員。

(4)講義担当者の最適化について,以下のような意見が出された。

まず助教の講義担当についてであるが,以下のような条件付の賛成意見が大勢であった。

・助教の講義は希望者のみとする。

・助教の講義参加については,2人1科目等,無理のない範囲で認める。

・一部の教員への負担を軽減する意味でも,助教も一部講義を担当しても可。

・集中講義などの特殊な講義でのみ対応。

・講義の練習になるので助教の講義分担には賛成。

(5)持ち回り/オムニバス授業の見直しについて,以下のような意見が出された。

賛成意見として,

・できるだけ,専門の合った科目を担当する。

・多少不均等になってもその講義に一番適した人が担当するべき。

・担当者は少ない方が学生にとって良い。

逆に反対意見として,

・教員の専門性よりも学生に習得してもらいたい科目を適正配分してカリキュラムを作成すべき。

・基礎科目は教員が連携して学生の知識の穴を少なくするのが良い。 3.1.3 両グループによる総合討論:総論 最後に,上記の2つのグループに分かれて行われた討論の結果を持ち寄って,両グループでの総合討論

が行われた。その結果,各論的な点ではさらに検討を要することになったが,以下の問題点の共有,また

その是正に向けてのアクションを起こすことが必要であるとの方向性が了承された。

1. 現行のカリキュラムは改訂すべきである。

2. 新規科目は多岐に渡るため,設定に際しては時間をかけて慎重に検討を行う。

3. 教育をレベルアップし,良い学生を育てる大学教育体制を作ることが必要。

4. 特に実習・演習の開始時期や内容については現行では問題があることから,助教を中心

としたワーキンググループでの早急な再考が必要。

この結論を得て,1-3の方向性で平成 22 年度のカリキュラム改正を目指し,教務委員を中心にして各

教員が現行カリキュラムの見直しと新規科目の設定に向けての検討に入った。また4の要請を受けて,助

教による実習改善のワーキンググループが立ち上がり,平成21年度中に新実習スケジュールの答申を出す

ことになった。

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4 総括と展望 本年度は,本学科の FD 活動の基軸となる授業評価システムと KJ ワークショップによる教員のティーチ

ングスキルアップと学部教育カリキュラムのブラッシュアップの取り組みが成され,各教科の授業改善や

JABEE 再審査(平成 22 年度予定)へ向けての準備が進められた。教育のスキルアップについてはより高い

到達点を目指し,今後とも学科内の活動に加えて,工学部あるいは全学的なFDセミナーへの積極的参加を

教員各人に働きかけてその向上を図っていく。また本年度は2005年にJABEE認定を受けた学部教育カリキ

ュラムの改善という,大きな問題が提起された。現在,カリキュラムを巡って起きている問題の大きな原

因は,(1)認定時点での教員構成と現在の教員構成が大きく異なること,(2)定員削減などの影響によ

る学科の講義担当者の減員,また(3)生物工学を取り巻く社会的ニーズの変化である。本年度はこれら

の問題点を踏まえた上でKJワークショップを行い,その改善の方向性を全教員で認識して共有することが

できた。その結論として,現カリキュラムを世界的に認められるより良いカリキュラムに更新していくた

めには十分に時間をかけて綿密な議論が望まれることから,現在活動している上記ワーキンググループに

加え,新規科目の設定や講義の系別などを検討するワーキンググループの立ち上げも計画している。これ

らの取り組みを伸展させ,早期に学部教育カリキュラムの改善を目指す。

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7.JABEE継続審査を終えて

光応用工学科 陶山 史朗

1.JABEE実地審査までの日程

4月22日 JABEE認定継続審査申請書提出

5月中旬 関連の先生方への依頼

(教員個人データ,講義に関する根拠資料など)

5月28日 学科FD会議開催(自己点検書作成などに関して)

5月30日 申請受理

6月 9日 実地審査候補日の通知(2通り)

7月 9日 学科FD会議開催(自己点検書)

7月19日 審査チーム構成メンバーの通知

7月23日 学科FD会議開催(自己点検書)

7月30日 自己点検書送付

8月 5日 実地審査日確定

8月12日 オブザーバー(3名)の通知

9月17,18日 学科FD会議(実地審査資料の整理)

10月27日 自己点検書に関する問い合わせ

10月30日 審査委員長より,実地審査スケジュール(案)連絡

10月31日 学科FD会議(問い合わせへの回答,実地審査)

11月 5日 問い合わせに対する回答送付

11月 6日 実地審査に関する事務方との打ち合わせ

11月 6日 JABEE審査日程表作成

11月13日 再度,自己点検書に関する問い合わせ

11月14日 学科FD会議開催(問い合わせへの回答)

11月16~18日 実地審査日

12月12日 一次審査報告書

2.関連する先生方への依頼

今回は、半年前に依頼 今回は、認定時と同様に全教科に依頼

データが必要な2年前より、依頼を開始すべき

必要な資料が散逸 必修などの重要な科目に絞って依頼すべき

重要科目の根拠を、履修の手引き などに記載するともっと良い

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3.講義に関する根拠資料

【今回】

☆試験などのコピー

・ボーダーライン全員の回答

・不合格者、優秀者の回答サンプル

・模範解答

☆成績原簿(シラバスに則る)

☆ 教科書、講義中の配布資料

ボーダーラインは、60~70点程度

資料を残すのは、その時々の者で良い

シラバスに成績評価基準を定量的に未記載

成績原簿とシラバスが離反

⇒ 根気よく、個別に、先生方に依頼する必要

4.自己点検書 プログラム概要

【プログラム概要】が追加 1.プログラムの沿革 2.修了生の進路と育成する技術者像、学習・教育目標の特徴 3.関連する他の教育プログラム 4.カリキュラムの特色 5.その他の特色

5.自己点検書 基準1

【今回】 ☆認定時と、ほぼ同様な内容で記述 ☆ 「表3:学習・教育目標とその評価方法」が改訂

表1における学科の目標と基準1との関係を詳細にチェックする必要

⇒ 対応関係に関して、問い合わせあり 表3: 各講義の単位習得で評価すると記述

⇒ 講義内容と基準1との関係に問い合わせあり ⇒ 講義が選択の場合の基準満足に関する問い合わせあり

全て本文にある内容なので、適宜、本文より抜粋

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6.自己点検書 基準2 【今回】 ☆認定時に準じて、記述 ☆学習・教育目標と各講義の関与の程度を見直す ☆卒業研究従事時間の根拠資料の収集 各講義の関与を、全体から眺めて微調整する必要 ・各目標間にアンバランスが生じる危惧 卒業研究におけるコンタクトタイムは重要 ⇒ どのように保証しているかの問い合わせあり

7.自己点検書 基準3

【今回】 ☆認定時に準じて、記述 ☆??を見直す ☆?? 教員間のネットワーク(学科内、学科間、学部間) ⇒ 具体的システムに関する問い合わせあり 学生支援の仕組み (TA、オフィスアワー、学びの相談室、学年担任制) ⇒ 実施状況についての問い合わせあり

8.自己点検書 基準4

【今回】 ☆認定時に準じて、記述 ☆現状に合わせて改訂 ☆機械工学科と共同なため,共通部分を共有化 事前に,共通施設等への根回しが必要

卒業研究のコンタクトタイムは、講義と同様に考えてよい ⇒ 仕組みがあれば、各自の根拠資料は不必要

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9.自己点検書 基準5

【今回】 ☆認定時に準じて、記述 ☆現状に合わせて改訂 ☆卒業研究に関して、見直しを加える デザイン能力に関する評価基準が変更 ↓ 卒業研究でのデザイン能力の評価が、審査のターゲットに

10.自己点検書 基準6

【今回】 ☆認定時に準じて、記述 ☆「教育点検システム自体の機能を点検できる構成」が追加 「教育点検システム自体の機能を点検できる構成」 ⇒ 学会会議、学科FD会議などにこの機能があると記述 点検・改善活動の具体例を、実地審査に用意しておく ⇒ 点検結果、改善提案の各会議などへのフィードバックの実例 (アンケートなどの分析を少しでも良いのでやっておく) ⇒ 継続的改善のシステムだけでなく、 改善例あるいは改善しようとした実例が必要

11.実地審査 面談

【今回: グループ面談】 ☆卒業生に関しては、趣旨と予想される質問内容を送付 ☆在校生(指名)に関しては、趣旨、質問内容、やってはいけないことを、事前に集めて、レクチャー ☆ 他学科の先生(科目を指名)には、訪問して趣旨などを説明

デザイン能力を具体的にどう育成してどう評価しているかが重要 ⇒ 卒業研究において、各学生のデザイン能力育成項目の明確化、 その学生との共有化、到達度の具体的な評価 ⇒ 問題は、システム化されているかということ (実質的にやられていることは承知している) ⇒ デザイン能力育成のための実験、演習などが別にあると有利

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在校生: JABEE関連の色々な事柄の存在を認識させておく必要 ⇒ 事柄の存在を知らないと、「C」になる可能性が増大 ⇒ 直前のレクチャーだけでは無理があり、普段が大事 他学科の先生: 趣旨を説明し、理解を得ておく ⇒ 他学科の先生が熱心に話してくれるとかなりプラス印象 ⇒ 審査員は、英語教育にかなり関心を示した グループ面談の場合、JABEE担当ではない詳しい人物が一人必要 ⇒ 指名されたとき以外は、誰が答えてもよい雰囲気であった

12.実地審査 その他

全体会合 ⇒ 顔合わせ 受信校側のプログラム説明 ⇒ いきなり質問事項に入った ⇒ 自己点検書はよく読んできているため、その説明は不要? 会食 ⇒ 普通の世間話で、JABEE関連のことはあまりでなかった 施設見学 ⇒ 本質的な質問がされた

13.最 後 に

学科の事務職員では無理がある 学科は、もっと本質的な部分に労力を割ける

【全体としての印象】 ◇ 自己点検書を読んで、攻める点は事前に決めてくる模様 ⇒ 最初の問い合わせの時点から、明確に分かる

【もっとも労度がかかるのは】 ◇ 他学科の先生の説得 ◇ 根拠資料の収集 ◇ 根拠資料の整理 ◇ 根拠資料のシラバスとの辻褄合わせ

工学部全体として、 専属の担当者が欲しい (兼務でも良い)

多少権威ができて

説得しやすい?

共通化と 慣れにより、 効率化される

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14. JABEE実地審査までの日程概略

4月22日 JABEE認定継続審査申請書提出 5月中旬 関連の先生方へ教員個人データ,講義に関する根拠資料などを依頼 5月28日 学科FD会議開催(自己点検書作成などに関して) 5月30日 申請受理 6月 9日 実地審査候補日の通知(2通り),関係者の予定確保 7月 9日 学科FD会議開催(自己点検書) 7月19日 審査チーム構成メンバーの通知 7月23日 学科FD会議開催(自己点検書) 7月30日 JABEE宛てに,自己点検書送付 8月 5日 実地審査日確定 8月 7日 自己点検書の差し替え送付 8月12日 オブザーバー(3名)の通知 8月19日 オブザーバーに関する意見具申 8月22日 JABEEより,オブザーバーに関する回答 9月17,18日 学科FD会議(実地審査資料の整理) 10月27日 自己点検書に関する問い合わせ 10月30日 審査委員長より,実地審査スケジュール(案)連絡,卒業生手配 10月31日 学科FD会議(問い合わせへの回答,実地審査) 11月 5日 問い合わせに対する回答送付 11月 6日 実地審査に関する事務方との打ち合わせ 11月 6日 JABEE審査日程表作成 11月11日 ホテルへの機器設置の依頼 11月13日 再度,自己点検書に関する問い合わせ 11月14日 学科FD会議開催(問い合わせへの回答) 11月16~18日 実地審査日 12月12日 一次審査報告書

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8 Moodle を用いた e-Learning の試験的実施と検証工学基礎教育センター 岡本 邦也

本学のトップページへアクセスすると,u-Learningシステム「u-Campus」や「徳島大学お知らせシステム」等,学習支援のためのシステムが整然と用意されていて,いまや受講生側から情報を得るための手段に不自由することなど無いように思われる。学習環境的には (少なくとも技術的側面に限れば),一昔前では想像もできないような体制が既に構築されているといえよう。このような時代背景の下,マスプロ授業が一般的である基礎科目群を担当する工学基礎教育センターにおいても,学力の多様化等の状況に対応するべく,近年の e/u-Learning技術を導入することが試みられてきた。本稿では筆者がここ数年間の講義で不定期に行った e-Learningの事例を検証し,実際に運用するにあたって把握できた問題点の分析を行う。

1 経緯改めて言うまでもなく最も効果的な学習方法は,じっくりと腰を据えて内容の理解に努めることであろう。そのためには,学習者自身が何を考察の対象としているのかを先ずは把握し,その上で納得行くまで考え抜くという地道な作業を繰り返すことに尽きる。その過程で,自身で解消されない疑問点があれば担当教員に訊いたり友人に意見を求めることや,理解度を深めるために関連する問題演習を適宜こなすことも必要であろう。しかし受験勉強で手っ取り早く点数を稼ぐことのトレーニングを積んできた学生に対して,手間暇を惜しんではいけないと今更説いてみたところでその効果は期待できない。さらに,半期をかけて理論構築が行われるという様式に適合できない学生が大多数を占めてきた現状も見過ごせない。いまや 16

回分の講義は,各トピック毎に 2,3回で区切りがつき,その都度小テストなりレポートで評価し完結するものでもなければ,とても最後まで息が続かないのである。小刻みに課題を課したり評価を行うとなると教員側にも一工夫を要する。100名程の受講生を対象とした場合,単純にレポート課題を与えるにしても,回が増えると採点やフィードバックに費やされる時間増や,管理の面での問題も起こりうるであろう。しかし次節で述べるような学習支援システムを導入することで,この類の負担は軽減可能とされている。

2 Moodle

Moodle1) (Modular Object-Oriented Dynamic Learning Environment)とは,高機能な e-Learningシステムを容易に構築可能とするソフトである。広い意味でCMS (Course Management System)に分類されるこのソフトは,Martin Dougiamas氏らにより 1999年頃から開発された。従来,この種のソフトで実用に耐えうるものは商用に限られており,しかも極めて高額なライセンス料がかかるものに限られた。これに対してMoodleは,フリー且つオープンソースであること,さらには GNUの GPLライセンスに基づくためユーザは自由に使用,変更,配布することが許されている。欧米では既にかなりの実績と信頼を得ているこの方面の代表的なソフトであり,国内でも全学規模で運用する大学が徐々に増えつつある。

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2.1 導入MoodleはWEBブラウザを介して操作するためWEBサーバは必須であるが,それは Moodleの開発言語である PHP (Hypertext Preprocessor)を解釈できる必要がある。さらには,データを格納するために適当なデータベースサーバとの連携をも必要とする。筆者の Moodleは,Linux上の Apache/2.2.11,

PHP/5.2.8, MySQL/5.0という環境で現在は稼働している。Moodleの導入自体は極めて容易である。事前にMySQLサーバに接続し管理者権限でログインした後,データベース moodleを作成しておく。Moodleのソース 2) moodle-VERSION.tgz を展開したWEBディレクトリにブラウザでアクセスすればほぼ自動的に設定が進みものの数分でインストールは完了する。

2.2 主な機能通常は年次・学期ごとにコース (授業科目)を開設し,コース毎に教師,学生の登録が必要となる。Moodle

には e-Learningを行うための様々な機能が標準で装備されていて,それらは リソース (Moodleで提供される教材のこと)と 活動 (学習を行う過程で学生が行う行動のこと)に大別される。リソースでは「テキストページ」や「ウェブページ」,「ファイルアップロード」等の一般的なWEBサーバが持つコンテンツ管理機能が提供され,これに対し活動ではより実際の学習活動に直結した以下の機能が用意されている:

「SCORM/AICC」「Wiki」「チャット」「データベース」「フォーラム」「レッスン」「小テスト」「投票」「用語集」「課題」「調査」

本格的に運用する場合は別として,個人レベルで特に関係するものは「課題」と「小テスト」であろう。Moodleの公式サイト http://moodle.org/ によると詳細は以下の通りである:

課題モジュール

• 課題モジュールでは,提出期限および最大評価を設定することができます。• 学生は提出物 (どのようなフォーマットでも)をサーバにアップロードできます。アップロードしたファイルの提出日が記録されます。• 提出期限をすぎた提出は許可されますが,どの程度遅れたか明確に教師に提示されます。• 各提出物に対して,1ページ内でクラス全体を評価 (採点およびコメント)することができます。• 教師のフィードバックは,各学生の課題ページに追加され,その旨が学生にメール通知されます。• 教師は,評価後に (再評価のため)課題を再提出させることができます。

小テストモジュール

• 教師は,異なる小テストで再利用するため,データベースに質問を登録することができます。• 簡単なアクセスのために,質問をカテゴリ内に保存することができます。サイト内のすべてのコースからアクセスできるように,カテゴリを「公開」することができます。• 小テストは自動的に評価され,質問が修正された場合は再評価させることができます。• 小テストには,期間外の利用ができないように制限時間を設定することができます。

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• 教師のオプション設定により,小テストを複数回受けさせることができます。また,フィードバックや正答を表示することもできます。• 不正行為を減らすため,小テストと小テストの答えをランダムにシャッフルすることができます。• 小テストでは HTMLとイメージを使用できます。• 外部のテキストファイルから小テストをインポートすることができます。• 必要に応じて,小テストの結果は蓄積され,複数回の実施で終了させることができます。• 多肢選択式問題には,単一または複数の答えを用意することができます。• 記述問題 (単語またフレーズ)

• ○/×問題• 組み合わせ問題• ランダム方式問題• 数値問題 (許容範囲)

• テキスト内に答えを入れる穴埋め問題 (clozeスタイル)

• 説明のためにテキストとグラフィックを埋め込むことができます。

この他にも,Moodleはモジュールやプラグインによる機能拡張が容易である。例えば後述するMoodle Lite

では携帯端末を介した「出席管理」が可能である。

3 実施と検証前節で述べたMoodleの機能「課題」を,開講年次も講義科目も異なるような二つの場合を対象に試行した。以下では各々の事例について,実施結果と検証を記す。

3.1 一年次生に対する実施工学部生は初年度に,全学共通教育にて数学系科目「微分積分学 I,II」,「線形代数学 I,II」を必須科目として学ぶ。入学したての前期はまだ大学での生活や講義に慣れていないこともあり,e-Learningには時期尚早かと考えていた。後期も一ヶ月ほど過ぎた辺りの講義中,テキストのある簡単な例題を取り上げて以下のように説明していると,学生の反応が鈍く理解に至っていないような印象を受けた。babababababababababababababababababababab

A = [a1, a2, a3, a4] :=

2

6

4

1 2 −1 01 1 1 1−2 1 2 03 0 −1 1

3

7

5

−−−−−→行基本変形

A′ = [a′1, a

′2, a

′3, a

′4] :=

2

6

4

1 2 −1 00 −1 2 10 0 10 50 0 0 0

3

7

5

.

明らかに,rank A′ = 3 である。よって,dim〈a1, a2, a3, a4〉 = rank A = rank A′ = 3 を得る。また,{a′

1, a′2, a

′3} は線形独立ゆえ,{a1, a2, a3} は線形独立となり,{a1, a2, a3} は 〈a1, a2, a3, a4〉 の基底を

成す。

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そこで,レポートを課すまでもない内容と思いつつも,行間を各自で埋める訓練とMoodleを紹介する機会を兼ねて,以下の要領によりMoodle上で課題を提示した。

課題例 1� �• [科目] 全学共通教育開講科目 「線形代数学 II」 (後期必修 2単位)

• [対象] 受講生全員 (受講登録は 91名)

• [期間] 開始日時: 2006年 10月 30日 (月) 16:30, 終了日時: 2006年 11月 6日 (月) 14:30

• [問題] テキスト p.113例題 6.3の解答に記述されている以下の事項の理由を述べよ。

(1) a′1,a

′2, a

′3 は一次独立である。

(2) a1,a2, a3 は一次独立である。� �先述したように,Moodleには活動に課題モジュールが用意されているので,それを利用する。様式は目的に合うよう幾つかから選択可能なので,今回は学生側の提出方法を想定して

• テキストエリア版として「オンラインテキスト」• ファイルアップロード版として「ファイルの高度なアップロード」

を採用した。コース内で編集モードを開始すれば,プルダウンメニューから希望する様式を選択することで課題を容易に作成できる (図 1)。

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作成した課題は実際のブラウザ上では図 2のように表示される。

図 2: 課題

設問の内容は極めて平易で時間を要するものでもないことから問題はないであろうと楽観視していたら,結果はこちらの予想を全く覆すものとなった。

コース参加者: 24名 (登録率 26.4%)

提出形式 提出数テキストエリア版 11

ファイルアップロード版 13

この科目に対して採られた授業アンケート (中間)に自由意見として記された内容のうち,Moodleでの課題に関するものを集約すると以下のように否定的なものばかりであった。

学祭のある週に課題が出されたのは正直困りました。準備や片付けなどで忙しい人も多く,週の前半しか時間がとれませんでした。課題の出し方が良くないと思う。大学内からしかつながらないし,問題の出し方も悪い。スケジュール的にももっと状況をよく考えて提出期限を設けてほしい。← 実質 2日間しか期間がなかった。レポートをオンラインで提出するのは止めてほしい。(家からゲストログインできない。)課題の提出が家からでも出せるように改善してほしい。モーグル (?)は学内以外からでもアクセスできるようにしてほしい。

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課題をネットで出すなら学校外から見れるようにして下さい。でなければ,あまりネットでやる意味がない。ホームページ上での課題提出など。直接の提出より便利で良いけれど,学内しか使えないのが少し不便。学外からも使えるようにして欲しい。ネットを使った宿題とかはやめてほしい。(出しにくい,難しい)Web課題はもうしないでほしい。

Moodleへのアクセスを学内からのみに制限したことに不満があったことは明白である。出題側としてはセキュリィティを考慮したことも勿論あるが,自宅におけるインターネットへの接続環境の有無による不公平が生じることを懸念してのこともあった。また,今回の課題程度の数式でも手書き以外で書くことに相当苦労したようで,事実テキストエリアに書き込まれたものの多くは数式としての体を成していなかった。ファイルアップロードにより提出したものは,Word形式が 8件,PDF形式に変換したものが 3件,テキストファイルが 2件であった。

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提出された課題に対し,教師側はMoodle上で評価やフィードバックを行う。結果は各学生の課題ページに追加され,その旨が学生にメールで通知される。図 4はある学生の提出課題に対する管理者側の画面の様子をキャプチャーしたものである。下半部がオンラインテキストとして学生の記した部分となっていて,その記述内容に対する教師側のコメント編集領域が上半部となっている。図 4ではやや見づらい形で表示されているが,これは当該学生がログインすると,LATEX フィルターがかけられて正しく表示される仕様である。尚,課題の出来具合如何によっては,教師側はMoodle上で学生に対して再度の提出を要求することも可能である。

図 4: 教師によるフィードバック

3.2 二年次生に対する実施

課題例 2� �• [科目] 工学部専門科目 「複素関数論」 (後期必修 2単位)

• [対象] 受講生全員 (受講登録は 94名)

• [期間] 開始日時: 2006年 12月 8日 (金) 18:00, 終了日時: 2006年 12月 15日 (金) 18:00

• [問題] 極座標版の Cauchy-Riemannの関係式 ∂f

∂r(z) =

1ir

∂f

∂θ(z) を導出せよ。� �

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受講者側も幾つかの専門科目を経験しているせいか,コースへの登録率は 6割となり,Moodle上で課題を課すことについて一年次生のような拒否反応は感じ取られなかった。(但し,授業アンケートがかなり時間を経て採られたので書かれなかっただけの可能性もある。) また,提出方法がファイルアップロードであるものが増えた理由として,学年が上がることで PCによる作業経験が増加したことが考えられる。

コース参加者: 56名 (登録率 59.6%)

提出形式 提出数テキストエリア版 4件

ファイルアップロード版 22件

しかしながら,提出数をみる限り,前例と同様な割合 (1/4 強)しか提出されていない。これはある意味妥当な数字かもしれない。確かに,課題内容に手が着かなくて提出を見送ったという可能性もあろうが,寧ろ成績評価に直接影響するものでもない (事実,シラバスの成績判定基準に明記されていない) ような強制力を伴わない課題を,さほど重要視しない学生が全体の 3/4 弱という状況は,十分納得できる。実は筆者は講義関連の資料を集約したWEBサイト 3)を 5年前から開設しているが,昨年度の SEE2008における香田先生の報告と同様に,アクセスは期末試験直前に集中していて (図 5),しかもログを解析するとその大半が過去の期末試験の解答例に向けてであり,本当に読んで欲しい内容の解説等は実際には殆どがアクセスすらされていないことが判明した。即ち,理解よりも単位という姿勢が見て取れる。

図 5: 2008年のアクセス状況

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4 問題点4.1 コース登録

Moodleによる e-Learningを開始するにあたって,学生のコース登録作業が予想外に困難であった。二重登録や間違った情報で登録していた場合に,管理者側が手作業で修正を施す必要があった。また,Moodle

の仕様上,連絡先メールアドレスが必要であるが,フリーのWEBメールや携帯メールのアドレスを指定した学生が多く,送信に失敗することもあった。個人情報管理の観点からも,学部や学科等で与えられるメールアドレスの使用が望ましい。その際,例えば学生番号から一意に算出されるような形でメールアドレスが大学側から付与されていれば,管理者側での一括登録も可能かと思われる。

4.2 携帯情報端末最近は板書された内容をノートをとる代わりに携帯電話のカメラで撮影して済ます学生も目にする。前述した筆者のWEBサイトにも携帯電話からのアクセスが多く,PDFファイルも携帯電話内蔵のビューアーで閲覧しているようである。いまや学生が日常的に使用する携帯機器は PDAよりも圧倒的に携帯電話であることから,e-Learningも携帯電話に対応する必要があろう。仕様上セッション管理に Cookieが必須であるMoodleは,Cookie非対応の携帯電話が多い現状に適しているとは言えない。これに関しては,Moodle

開発者のフォーラムでも議論された「Moodle for Mobiles」や,鹿児島大学教育センターにより開発された機能限定版の「Moodle Lite」という試みがあり,実用化に向けて今後の改良が期待されている。

4.3 レポート紙媒体に因ろうが電子形式であろうが,レポート自体の内容が乏しければ意味がない。実際,今回のような簡単なものでも論理的に正しい推論を行ったと判断できる内容のレポートはごく僅かであった。それ以前に,何を仮定して何を導いたかが不明なものが多数を占めた。根本的に演繹についての認識を改めさせる必要があろう。その後の問題として,数式を多用する課題にどう対処するかの問題がある。副次的ではあるものの,数式表現が障害となって作成意欲が低下し,結果として提出率が下がることもある。理想を言えば早い段階で数式表現の技術を身に付けておくべきであろうが,卒論で必要に迫られてが精一杯な現状の学生に,それを強いるのは酷といえる。

この他にも,丸写しの問題がある。自身でレポートを作成せずに仲間内で流用するケースが後を絶たない。課題が与えられると兎に角提出したという事実を残すことにだけ関心が集中する。これは講義に出席したことに異常に拘る傾向と同じである。勿論,手書きのレポートでも不可避なことであったが,e/u-Learning

による遠隔講義で単位認定を行うような場合はこの問題は見過ごせない。第 3節の例でも,ファイルのアップロードで提出されたものの中に,ファイルの hash値まで一致するものが確認された。

9

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5 結び情報リテラシーに疎い筆者が行った今回の試行はとても評価に値するものではなく,これをもってMoodle

の真価が計られるようなことはないと思う。周知のように本学部では知能情報工学科が e/u-Learningの実践に先んじていて,一連の FD活動に対する実績は平成 16,17年度の FD研究報告書に詳細な報告があるので是非そちらを参照されたい。

今回,この報告を纏めるにあたって,過去に行われた授業評価アンケートで寄せられた自由意見に改めて目を通した。アンケート結果から見て取れる要望は大別すると,

• 高等学校のように繰り返し教われるよう,もっと教科内容を減らして欲しい。• 授業時間内で全て理解させてくれるよう,もっと講義内容を簡単にして欲しい。• 定理や命題の内容説明よりも,数多くの問題をいろんな解法で解いて欲しい。

となっていて,新たな理論体系を学び取ろうという姿勢よりは,目先にある期末試験の対策としてしか捉えていない姿がみてとれる。当然ながら論理的な推論を行うプロセスは蔑ろにされ,そのために費やされる時間や労力は厭われる傾向が強まる。このような状況で学生に主体性を求める近年の「学生参画型授業」への安易な同調は大きな危険性をはらむ。

結局は遠回りで無駄なようでも自身で試行錯誤しながら理解に至ることに勝る方法はない。その意味では,学習支援システムの描く理想像を追うあまり,結果として手を出しすぎることとなり,この貴重なプロセスを訓練する機会を奪ってはいないか,との懸念が残る。数学系の基礎科目群で e-Learningが効果的に機能するためにはどうすればよいのであろうか。

10

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9.地方の一次産業振興と自然環境の保全に関する学外実習の取り組み

エコシステム工学コース 八房 智顯

1.はじめに

平成21年度から実施を計画しているエコシステム工学コースの特徴的な講義科目の創出を目指し,本

年度コース内でワーキンググループを発足させ準備に取り掛かった.本講義では徳島県内の林業を通じて

一次産業の重要性を再認識し,また現在一次産業が抱える問題点を認識することを目的とする.本コース

在籍の学生は,今後エンジニアとして一般社会の中で相対的に影響力の大きな人材になると考えられる.

こうした学生に対して,一次産業の重要性・問題点に関する問題意識を,本講義を通じて明確に認識させ

ることは,将来の社会の健全な発展のために少なからず良い影響を与えると考えられる. 2.一次産業について

一次産業の重要性(①~②),および現在の問題点(③~)は以下のとおりである.

① 農業・漁業・林業などの一次産業は我々の生活を支える上で不可欠な産業である.また,これらの

産業を他の二次産業で代替することはできない. ② 一次産業は自然環境を利用して生産を行う産業であるが故,自然環境の保全と産業の持続性は不可

分である. ③ 特に日本の一次産業は,経済性が最重視される昨今の情勢により収益性が非常に悪くなってきてい

る. ④ 一次産業は「きつい・汚い・危険」のいわゆる 3K労働が多く,さらに収益性の悪化(現金収入の減少)などが手伝って,後継者不足に陥り衰退の一途を辿っている.

⑤ 一次産業,特に農林業の衰退により,これらの産業によって保全されてきた農地・森林の荒廃が問

題になってきている. ⑥ 食糧生産は一次産業の最も重要な部分であるが,技術立国を目指す日本は一次産業の重要性を過小

評価してきたため,現在の非常に低い食料自給率を招いた.今後予想される,温暖化による世界的

な食料生産の低下,人口増加による食料需要の増加,グローバル化による日本の相対的な技術力優

位性の低下などにより,今後食料自給は国家安全保障上最も重要で緊急性の高い課題となる. 3.一次産業に対する学生および一般市民の認識

昨年から問題になっている中国製食品の安全性問題で,安全な日本産の食品が見直されてきている.し

かし一般市民の感覚では,スーパーで食料品を手に取る際に,同じ国産品であれば,より低価格なものを

選択する人が多いのが実情であろう.したがって,農漁産物も一般の工業製品と同様に厳しい価格競争に

曝されている.

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しかし農業に限って言えば,多くの農産品で農産物の生産コストが販売価格と同程度か,場合によって

は高くなっており,自立的な産業としては完全に崩壊していると言える.このような状況で日本の農業が

辛うじて成り立っている理由として,農家のほとんどが兼業農家であるためである.多くの農家は農業以

外の収入で農業の赤字を補填しているのである. 市場の厳しい価格競争が一次産業の持続性を損なっているという現実を考えた場合,一般市民は,スー

パーで食品を手にする際にその価格が適正なものであるのか,再考する必要があろう.ひたすら低価格を

追求する一般市民の現在の姿勢が,厳しい価格競争を生んでいるのである.一般市民でもある本コースの

学生は本講義を通じてこの問題を認識して欲しい. 4.講義の概要

4.1 講義の目標 座学のみの授業形態,もしくは単なる体験型野外学習のみから構成される授業形態では,一次産業の現

状を生きた知識(経験)として学ぶことはできない.したがって,本講義では,半期で包括的に一次産業

の重要性,および現状と問題点を学ぶため,まず講義前半を座学の授業形式で行い,後半で実際に一次産

業を体験するものとする.前半の講義形式の授業には,講師として本コース教員の他,現役で一次産業に

携わっている方に参加して頂く.後半では,1日,もしくは1泊2日で実際の一次産業の現場に参加し,労

働の過酷さ,生産効率,一次産業の現状を,身をもって体験する.このように講義形式での学習と現場で

の労働の両方を行うことで,単なる体験活動ではなく,一次産業に対し現状の問題点を含めて実体験とし

て理解し,知識を得ることを目標とする.

4.2 講義を実施するにあたる問題点と解決策 本講義は現場での労働活動を含むため,学習する一次産業分野を選択し,さらに学生・教員合わせて約

30 人を受け入れてもらえる場所・組織を探す必要がある.本講義は半期で行われ,さらに講義前半は座学

形式で授業が行われるため,実際に現場での労働活動時間は限られる.したがって,授業で行う労働活動

は短期間である程度完結する必要がある.候補として考えられる分野を以下に挙げる.

・ 農業(米作)

主食である米をテーマにする点で我々の生活と直接・密接に関連しており,授業を構成しやすく,

学習効果も高いと考えられる.しかし,労働の完結性という点から考えると,育苗,代掻き,田植,

草刈,防除,稲刈,乾燥・脱穀・精米まで含めて7~8ヶ月を要する.工程の一部のみ(例えば,田植・

稲刈りなど)行うことも考えられるが,単に農業に触れる“体験活動”になってしまうことが危惧さ

れる.

・ 漁業

短期間で労働活動を完結するという点では,最適な産業であると思われる.しかし,エコシステム

工学コース内にこの分野に精通した教員がいない.また,労働参加の経費が他に比べて高くなると考

えられる.

・ 林業(森林整備:下草刈)

日本の国土の約 7 割は森林であり,森林資源の利用,および国土保全の観点から林業は非常に重要

な産業である.ただし授業として林業にテーマをあてる場合,学生にとってあまり身近な産業ではな

いため,授業の構成を工夫する必要がある.一方労働活動の観点からは,林業の中でも最も労力の要

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る作業の一つに,初夏に植林した苗が草に負けて枯死するのを防ぐための下草刈があるが,短期間で

労働を完結するという点から見ると,授業での労働活動に適していると考えられる.

以上の 3 つの分野から,講義のテーマには林業が適していると考え,これに決定した.幸い徳島県は林

業が盛んであり,本コース上月教授と人的にも繋がりのある上勝町に,本講義で行う労働活動が可能な「千

年の森」が挙げられた.

4.3 事前の課外活動視察と検討 実際に課外授業として森林整備(下草刈)が可能であるかどうか,H20年 6月に本コース教員5人で,上

勝町千年の森にて実際に作業を行った.まず,千年の森について以下に示す.

図1 千年の森(上勝町,URL: http://www.1000nen.biz-awa.jp/)

千年の森 事業概要 森づくり事業: 29 組のボランティアグループが平成 16 年から苗木の植樹をスタートさせ,育成の為の

草刈り作業等を継続的に実施している.

環境教育事業: 高丸山千年の森を中心とした豊かな自然環境をフィールドにした体験活動の企画・運営

と,体験活動を担う人材育成をテーマに活動している.

参加交流事業: 森づくりの活動を通じ,地域内・地域外との交流を目的としたイベントの企画・運営を

行っている.

H20年 6月の事前視察では,千年の森,森づくり事業に参加した.各ボランティアグループが管理する区

画のうち,草刈作業に参加できないグループの区画について草刈作業を行った.作業内容としては,植林

後2~3年程度までの苗木に対して,草に負けて枯死しないよう苗木の周囲の草刈をし,苗木が倒れないよ

うにプラスチック製ポールで添え木を行った.

千年の森

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図2 草刈後の様子.苗木と倒木防止用のポール.

図3 草刈後の様子.苗木周辺は基本的に手刈り.

図4 草刈参加者

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4.4 実施内容の詳細(予定) シラバス

教員: エコシステムエ学コース教員,非常勤誹師 単位数: 6単位 形態: 講義,実習形式とポートフォーリオ形式の併用 目的: 様々な分野での最新のエコシステムエ学に関する事例を学び,研究遂行能力を高める. 概要: 学内外の教員および学外の専門家によるエコシステムに関連した最新のテーマの講述と

社会・環境実習を行う.本科目は,工業に関する科目である. 注意: 単位を取得するためには,全ての講義,実習を受けなければならない 目標: 研究テーマに関する課題の発見および解決方法を修得する 評価: 毎授業毎に課すレポートで評価する. 対象学生: 開講コース学生のみ履修可能.

計画 1.ガイダンス 2.最新のエコシステムエ学(1) 3.最新のエコシステムエ学(2) 4.最新のエコシステムエ学(3) 5.最新のエコシステムエ学(4) 6.最新のエコシステムエ学(5) 7.エコ社会・環境実習(1) 講義 8.エコ社会・環境実習(2) 講義 9.エコ社会・環境実習(3) 講義 10.エコ社会・環境実習(4) 講義 11.エコ社会・環境実習(5) 学外実習 12.「エコ社会・環境実習」について

①実習の概要と目的 社会の発展とその持続可能性を高めるためには,先端科学技術とともに,地方における地域産業と,

その基盤となる自然環境が健全な状態で維持されていなければならない.本実習では,地域の特徴ある

産業や環境保全に関する活励体験を通して,過疎・高齢化する地域の現状とそこでの取り組みを学び,

地方を含めた社会全体を維持,発展させるための技術や施策,さらに市民,技術者として「何をすべき

か?」について考え,それを実行する能力を高める. ②形態

a)識義 千年の森づくり活動について(勝瀬など),過疎,問齢化社会の将来展望(近藤) 地方行政の取り組み(上月),一次産業・森林管理と環境問題(八房) b)学外実習 上勝町にある「県民参加の森づくり活動」に参加し,植樹後の下草刈りなどの森の育成作業を行う.な

お,「県民参加の森づくり活動」とは,上勝町・高丸山の貴重なブナ林の保護や新たな森を育成する活

動のことで,地元産の苗木約 32種類を植栽・育成・草刈りする作業を県民の手で実施している.

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10.サイエンス・エンジニアリングクラブ構想について

工学部創成学習開発センター 続木章三,英崇夫

1. はじめに

世界的な傾向の「理科ばなれ」や「科学技術ばなれ」について,わが国のマスコミは挙って世論を煽り,まる

で「殆どの大学生が分数の計算さえもできない」というような虚構のイメージを無批判な国民にたれ流していた

一時期のブームが去り,ようやく鎮静化してきた。これら一連のマスコミ報道は,極度に偏在的な知見であり,

実態を包括的に捉えたものとはいい難いものであった。

児童・生徒の「科学ばなれ」の原因の1つに,学校現場で学習する内容が日常の生活からかけ離れていて,児童

や生徒にとって興味や関心を引くものでないものが多いことが指摘されている。

また,現代のグローバル化した世界の中で,安全で安心できる社会で生きていくためには,科学技術について

の基礎的な知識と科学技術のあるべき姿を科学的に考えることができる科学的素養(科学リテラシー)をもつこ

とが不可欠である。

そんななか,イギリス物理学会(IoP)は大学進学を目指すAレベルコースの高校生用のテキストとして 2000年12月に約2億円の資金を投入し,『Advancing Physics』を完成させた。『Advancing Physics』は従来のテキストの内容を刷新し,“物理学が社会の中でどのように生かされているか実例を示す”,“純粋物理学の傾向を減らし,

工学的な応用への理解を育てる”ことを開発の理念としている。物理学の成果が現実の社会でどのように生かさ

れているかを実際の応用例で示すことで,学習者の興味や関心を導き出すねらいがある。また,米国では 1985年に,国民全体へ拡大しつつある「科学技術はなれ」に対し,「全米科学振興会」(AAAS:American Association for the Advancement of Science)が民間の資金で「Project 2061」を立ち上げた。次のハレー彗星の地球への接近が2061年であることから,その前年までに米国の科学技術教育の水準を世界のトップレベルに引き上げることを目指している。その事業の一環として1989年には『Science for All Americans』(SFAA)を刊行し,高校卒業までに全ての米国民が身につけるべき科学リテラシーをテキストの内容に盛り込んでいる。内容には,自然科学,数学,

技術に加え,政治や経済などの社会システムにまで及んでいる。

2007年の暮れOECDによる2006年国際的生徒学習到達度調査(PISA)の集計分析結果が発表された。この調査には日本の高校1年生6,000人(185学科)が参加したが,「現象を科学的に説明する能力」については上位者5%の割合の順位が世界の 12位という低い順位であった。この結果について文部科学省はHP上で『学習環境における“対話を重視した理科の授業”や“モデルの使用や応用を重視した授業”が活発に行われていないと認識する』とコメントしている。平成 14 年(2002 年),文部科学省は“科学技術・理科に対する関心を高め”,“学習意欲の向上を図り”,“創造性・知的好奇心・探究心を育成”の実現を目指し,「科学技術・理科大好きプラン」を策定し,9つのプラン(サイエンス・パートナーシップ・プログラム,スーパー・サイエンス・ハイスクール,目

指せスペシャリストなど)を施行・実施している。また,上記 SFAAに倣い,平成 18年から 2年間,科学技術リテラシー像の作成を目指し,公的資金による「科学技術の智(2030年までに日本の全ての成人が身につけて欲しい科学技術の素養)プロジェクト」(Science for All Japanese)が発足し,2008年の3月には報告書が提出されている。 「科学技術創造立国」を目指すわが国にとって科学技術教育は国家の大計であり,国民的科学リテラシーの普

及もその重要課題の1つである。サイエンス・エンジニアリングクラブ(以下SECと略記する)は学生の自主

的な教育実践活動を通し,学ぶ側の児童・生徒も,教える側の学生も科学技術について共に学ぶ(共育)ことが

できる新教育システムである。

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2.「ゆとり教育」から生まれたもの

2004年12月、物理教育関連の各学会は中教審に対し,「ゆとり教育」カリキュラムの改編について提言を行った。その提言には, ・科学的知識の理解を疎かにし、子どもたちの「思いつき」を重視することは「教育の否定」であり、「科学

の否定」につながる。(中略)子どもたちの活発な意見は(中略)正しい科学的知識の積み上げと両立して

いなければならない。 ・科学教育の目的は、人類が築き上げてきた科学的な知識や基本的な考え方を教え、教えられたことに基づい

て、自ら考える能力を育成することにある。 のように,科学的なものの考え方は,単なる「思いつき」や「空想」からでは育たないことを強調している。

また,現行の「科学知識の切り売り」的な学習内容を改め,子どもの発達や成長に配慮した基礎・基本の定着と

系統的学習内容に改めることを要請している。子どもたちは系統的な学習を経験することで,学んだことが確か

な知識として定着し,この過程を経ることによって初めて,その知識の応用や発展的な学習が可能であると提言

している。 文部科学省は中教審の答申を受け,小中学校の新学習指導要領(平成20年3月 告示)の改訂では、「観察・実験や自然体験、科学的な体験の一層の充実を図る。」,「学ぶことの意義や有用性の実感、科学への関心を高める

観点から、実社会・実生活との関連を重視する内容の充実を図る。」,「ものづくりなどの科学的な体験の充実を図

る。」ことが盛り込まれた。

「ゆとり教育」の洗礼を受けた生徒たちは既に,高校や大学に在学中であり,理系大学へ進学した学生も多く

在籍している。彼らは高等学校で選択科目の理科しか履修しておらず,本学に限らず,全国の大学では多様な学

生の履修実態に対して,その対応と学習支援に余分の労力と時間を費やさざるを得なくなっている実情がある。 一方,「理科ばなれ」や「科学技術ばなれ」が拡大するわが国では,理工系学部への志願者数が減少傾向にあり,

入学志願者確保も今や大学経営上の難題になってきている。

3.「教えること」,「学ぶこと」

以下の文は新人のスポーツアナウンサーを指導した経験のある先輩アナウンサーのブログからの一部引用で

ある。 いやいや、A を教えることで、結構、俺自身の勉強になってるんだよ。A のへたな実況をリスナーの立場で聞くだろ。そうすると、何が足りなくて、何が過剰なのか。この場面で求められる情報は何か。その仕込

みをどうしよう。どのタイミングで解説に振ればいいのか。情景描写の入れどころ。同じことを別の表現で

言うと、何があるのか。いろんなことが見えてくるんだ。

また,或るキャリア塾講師のブログでは,

人に教えることを逆に言えば自分が試されることでもある。いい加減な知識で説明しようとすると分かり

やすいことが分かりにくくなってしまう。分かりにくいことを易しく教えるのには深い知識と理解が必須な

のである。教えることは学ぶことでもある。どうしたら理解してもらえるか。常に教え方にも改善が必要で

あり、そのヒントは現場での経験から生まれるというのを実感した。 (下線・・・筆者)

この2つのブログに共通するものは,「教えることは学ぶこと」を自認していることと,「どうすれば分かり易

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く相手に伝えることができるか」という教え方の工夫の必要性を説いていることである。また,後者のブログで

は,学習者の反応などを直接,経験することで,教え方の改善方法のヒントが見つかることを述べている。 第三者に対してものを「教える」という行為そのものは教育現場に限らず,社会生活の中で日常的に行われて

いる行為であるが,とりわけ,社会生活と直接関わりのない,概念理解では伝達方法の工夫がなければ,うまく

相手に伝わりにくい。特に,学校教育の現場では,児童・生徒に対して,より効果的に教えるためには,指導内

容についての広範な予備知識の理解と探究,正しい教育理念に基づく授業の展開,適切な教具・教材の選択,学

習者の反応についての分析と評価などが重要であり,それらは全て授業担当者である教師に委ねられている。 教育方法について,基本的な原理はあるものの,環境(生徒の質や指導要領など)に応じてフレキシブルな対

応が求められる。このため,現場の教師は絶えず,教育方法の研鑽を重ね,より良い教育方法を目指し,模索を

続けている。

4.新教育システムとしての「サイエンス・エンジニアリングクラブ(SEC)」

「徳島大学工学部創成学習開発センター」は平成16年,学生の自主的創造性を育む実践施設として開設した。爾来,学生自ら立ち上げた自主プロジェクトの支援を行っている。センターは創造的学習手法の開発を目的とし,

「自主」,「共創」,「創造」の3つの理念を掲げ,開発,支援業務を

展開している。センターでは現在,課外活動である学生自主プロジ

ェクトが14件活動しており,これらの活動をハードとソフトの両面から支援を行っている。センターでは上述の「理科ばなれ」,「科学

技術ばなれ」の現状を鑑み,19 年度から,「サイエンス・エンジニアリングクラブ(以下 SECと略記する)」プロジェクト構想に着手

し、その設立に向け,準備を行っている。

本構想の先行的活動として,学生の自主プロジェクトである「た

たらプロジェクト」が3年前から貞光工業高校で,出前授業と「たたら製鉄」操業を行っており,平成20年度には、それに加え、「科学体験フェスティバル」をはじめ,工学体験大学講座,SPP講座型

学習活動,あすたむらんど「ファミリーサイエンス教室」への参加

など,学生の自主的教育実践活動をセンターが支援しながら,学生と共にイベント等の企画や実線を行っている。

SEC活動の基本理念は,「ともに学ぶ(共育)」ことであり,それに基づく「科学技術リテラシーの普及と啓発」

を実践目標としている。

4.1 SECのめざすもの

SECは次の2つの目的を掲げている.

① 科学技術の役割や,確かな科学知識を学ぶための環境を提供し,個性と創造性豊かな科学志向の人材を

育成する。

② 学生および院生の自主・自律の精神と企画力および科学技術コミュニケーション能力を育成する。

また,目標として次の3つを掲げている。

① 「科学イベント」や「出前授業」などを通し,児童・生徒や社会人に対し,科学技術理解の普及と啓発を推進す

る。

図1 創成学習開発センター(イノベーションプラザ)

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② 系統的内容に基づく実験・実習・観察を実践し,学校教育における補完的教育活動を実施する。

③ 教育体験学習を通して学生・院生の自ら学ぶ意欲や,学問研究への動機付けを喚起する。

4.2 SECの活動理念=「知のフィードバック」(共育)

昨今,盛んに行われている「出前授業」や「科学イベント」は主催者側の一方的な主導で行われ,その内容も

一過性のものやバラエティー的なものが多い。その事後アンケートには,月並みな「おもしろかった。」,「楽しか

った。」という感想が多く寄せられ,主催者側ではその結果に一抹の不安はあるものの,一応満足し,安堵してい

るに過ぎない。 自然界の法則性や,事象の解明を探求することは,決して「おもしろい」とか「楽しい」ものではなく,「地

道」で,「苦しい」,「探求の努力」の結果,それまでの疑問が明らかになった「喜び」が「面白く」,「楽しい」の

である。 図2は,SEC 活動における基本の学習形態を示している。このシステムの主体は学生であるが,「教える」側

(学生)も「学ぶ」側(児童・生徒)も共に学ぶ(共育)ことができる。指導者としての学生は,少なくとも学

習者である児童・生徒より知識や技術,技能に優れており,未熟な児童・生徒に対して指導することは可能であ

るが,結果の是非はともかく,ひっつ全的に児童・生徒から指導者に対して,反応や成果,評価を受けることに

なる。職業としての教師ならば,それまでの経験や知識を生かし,それらに対処することはできるが,教育体験

の未経験の学生には経験者の助言を受けるか,自学で対処法の知識を求めるしか方法はない。 SECが実施する科学教室イベントや出前授業の学習内容,教育方法については SEC所属の担当教員が指導者

としての学生に適切な助言を与え,同様に

企画・立案・実施や評価についても,担当

教員からアドバイスを受け,学生自らが教

育体験を実践する。このサイクルを反復す

ることによって,学生の知識や技能は向上

し,児童・生徒への教育効果は増長される。

この学習サイクルを「共育」と呼称し,一

連の認知過程を「知」のフィードバックと

捉える。 SECが実施する企画上の重点は,第1に科学技術に関する系統的な学習ができるような実施時間を確保するこ

と,2つ目は実験・観察・実習に基づく科学的探究活動を通して,科学的思考力や態度の育成,科学的方法の習

得ができるような内容の企画にすることである。

また,将来,社会生活におけるさまざまな問題に直面したとき,それを正しく捉え,適切に対処できる能力も

身に付けさせることも重点の1つである。

教育方法論「自己活動の原理」の提唱者であるF.A.W. Diesterweg(1790~1866)は、「科学は学習者に与えられるべきものに非ずして、生徒自身によって発見され、彼自身によって自己活動的に獲得されるべきものである。」

と述べ,生徒の主体・自主的学習を重視しており,SEC活動理念に共通する。 図3は,2008 年 9 月 27 日・28日に実施したSPP講座型学習活動の事後アンケート結果の1部である。上段は

参加した高校生(15名)への設問:「今回のSPP講座を受講する前後では,理科・数学に対する意識はどう変わりま

したか?」に対して,1名を除いて,「好きになった。」と回答している。また,この活動にTAとして参加した学

生(6名)への設問:「また,このような機会があったら,TAとしてご協力いただけますか?」に対して,1名

共 育 知識 手段 分析 経験 創造

理解 認識 操作 体験 発想

(学習者)

児童・生徒

知識 技術 技能

「知」のフィードバック

反応 成果 評価

(指導者)

学 生

学 校(教育的) 大 学(専門的)

教える側 学ぶ側 図2 知のフィードバック

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教育委員会

連携

連携

科学技術リテラシーの普及と啓発 連携

連携

参加者募集

周知・広報

協力依頼

講師依頼 教員・生徒参加 企画と提言など

イベントの共同企画と実施

教材・教具等の共同開発

県教育委員会 市教育委員会

活動の実施 講師・学生派遣

徳島大学

学校 小・中学校 や高校など

工学部 創成学習開発センター

四国大学

徳島文理大学

鳴門教育大学

阿南高専 総合教育センター

SEC

あすたむらんど

阿南市科学センター

学校 小・中学校 や高校など

学校 小・中学校 や高校など

学校 小・中学校 や高校など

の学生を除き,残りの学生は「協力する。」と答えて

いる。 今回の,SPP講座型学習活動では,TAの学生に参

加した高校生に直接指導する状況を設定し,教育体

験をさせた。学生の事後アンケートの感想には,知

識や方法について「教えることが難しかった」と全

員が書いており,新たな学生の変容が期待される。

4.3 SECの組織と連携機関

図4のように,SEC は活動の拠点を創成学習開発

センターに据え,センター教員と工学部、総合科学

部などの教員有志,学生・院生などによって構成さ

れた組織を母体とし,SECの理念を共有する連携機

関として,県内の大学,高専,小中学校,高等学校

の各学校および,あすたむらんど徳島、阿南市科学

センターなどの科学館に加え,県教育委員会,市教

育委員会など,行政とも連携しながら事業を展開す

る。

図4 サイエンス&エンジニアリング・クラブ(T-SEC)

Q2今回のSPP講座を受講する前後では,理科・数学に対する意識はどう変わりま

したか?

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1

① 受講前から好きだったし,受講後はより好きになった。

② 受講前から好きだったが,受講後もあまり変わらない。

① 受講前から好きではなかったが,受講後は好きになった。

① 受講前から好きではなかったし,受講後もあまり変わらない。

Q13 また,このような機会があったら,TAとしてご協力いただけますか?

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

1

①協力する

②どちらかといえば協力する

③どちらともいえない

⑤協力しない

図3 SPP講座型学習活動に参加した高校生とTA学生のアンケート

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5.おわりに

2008 年度には先行実践事例として実施した工学部創成学習開発センター関連の科学イベント9件と昨年度より毎月実施している「インターネット市民塾」を含め,サイエンス・エンジニアリングクラブの基礎的環境は概

ね完了している。2009年2月22日には,本学からセンター関連の7名の教員と連携予定の大学,鳴門教育大学,四国大学をはじめ,阿南高専,県教育委員会,県総合教育センター,阿波西高等学校,付属小・中学校,阿南市

科学センター,あすたむらんど徳島から代表者を招き,「サイエンス・エンジニアリングクラブ設立懇談会」を開

催し,設立に向けた今後の計画について協議した。 吹き荒れるグローバリズムのなか,「科学技術創造立国」を目指すわが国が,国際競争力をつけるには科学技

術の振興以外に道はない。また,平和で豊かな社会を建設するためにも科学技術リテラシーの普及と啓発は欠か

せない。おわりに Issac Asimovのことばを引用する。 もし,科学を継続し,知識を集積しなければ,われわれは難問の中に埋もれてしまい脱出口を見いだせな

くなるであろう。今日の科学は明日の解答であり,同時に明日への問題提起である。科学はなにはともあれ,

ここより永久にわたる人類のもっとも偉大な冒険なのである。(『人間にとっての科学』より)

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11.工学教育の連携 ~これまでとこれから~

工学部創成学習開発センター長 英 崇夫

1.はじめに

工学部では山形,群馬,徳島,愛媛,熊本の 5大学の工学部の連携による工学教育シンポジウムを 2004

年から開催してきた。また,工学部創成学習開発センターは韓国海洋大学校の教育革新センターと協力し

て工学教育に関する国際シンポジウムを 2006 年および 2008 年に開催した。これらのシンポジウムでは,

他大学の教員と学生の集まりにより,教員の目からは多面的に教育を見ることができ,また,学生たちに

対しても学習についての動機づけに大きく貢献する。これらの活動を基盤にして,さらに参加者の拡大と

工学教育の国際連携の強化をめざして日本と韓国による工学教育に関する国際会議を2009年 10月に開催

する計画をしている。

本報告では,工学教育に関する他大学との連携構築に関する経緯を紹介し,将来の国際連携への発展へ

の夢を紹介する。

2.創成学習開発センターの役割

徳島大学工学部創成学習開発センターの歴史は 2004 年にさかのぼる。文部科学省が初めて募集した特

色ある大学教育,いわゆる特色 GP に「『進取の気風』を育む創造性教育の推進」が採択されたのを機会に,

全学の教育関連組織として設立された。その後,2007 年に工学部組織として改組されたが,設立当初の

目的はそのまま引き継いでいる。(1)教育および学習に関する創造的な手法の開発,(2)学習達成度の評

価方法の開発,(3)センターの活動の成果の発信,そして(4)他大学等との教育に関する連携の構築が

その目的である。

創成学習開発センターの特色は学生の自主的なプロジェクト活動を通して,その中から出てきた問題点

に基づき新しい学習手法を学生とともに開発することである。したがって,当センターでは学生の自主的

なプロジェクト活動の支援を大きな柱としている。ここでは,「自主」,「共創」,「創造」を活動の理念と

して意欲のある学生に活動の空間を提供している。「自主」は自らの意見を持ち,自ら行動し,それを表

現すること,「共創」は異なる分野の人々が集まり,互いに影響しあい,それぞれの意見を遙かに超える

ような大きいものをつくり上げること,「創造」は自主と共創の思想に基づき,新しいものや考え方を生

み出すことと定義している。学生はそれぞれのプロジェクト活動を行うとともに,創成学習開発センター

を主催する各種の行事,たとえば,プロジェクト中間報告会および最終報告会,和歌山大学との合同プロ

ジェクト発表会,社会で行われる各種の科学イベントなどを一つひとつのプロジェクトと考えて自主的に

事業計画を立てそれを実施している。

3.5大学教育連携

徳島大学は 1998 年度から山形,群馬,徳島,愛媛,熊本の 5 大学間で協定をむずび教育・研究で連携

を図っている。特に,工学部では SCS の講義に引き続き,2004 年から5大学連携教育シンポジウムを開

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催してきた。このシンポジウムでは各大学から教員 2名と学生 2名の講演参加を求め,共通の話題につい

て討論を重ねた。学生たちは「大学で学んだこと」をテーマとして,さまざまな観点から大学教育,大学

生活など自分たちの学んだ体験を話し,また大学教育への提言も行った。2007 年のシンポジウムからは

学生たちのワークセッションを設け,5つの大学の学生たちが一つのテーマで議論し,意見をまとめ上げ

る試みも行っている。5大学連携教育シンポジウムは他大学の学生が集まって討論すること,また他大学

の教員とも交わって同じレベルで教育の議論をすることを可能にする空間である。最近の学生はコミュニ

ケーションに疎いとされるのが平均的な見方である。しかし,このシンポジウムに集まる学生たちは,2

日間の短い期間であるが,新しい出会いに新鮮なまなざしを向け真剣な議論をしている。図1は昨年 9月

に熊本大学で開催されたシンポジウムの様子である。

図1 5大学連携教育シンポジウム,平成20年9月25日,熊本大学工学部

4.韓国海洋大学校教育革新センターとの連携

4.1.連携とその目的

他大学等との教育に関する連携の構築には極めて大きい意義がある。加えて,海外の大学との連携が図

れるなら,学生の国際力養成に大きく貢献する。創成学習開発センターでは 2004 年に韓国海洋大学校の

教育革新センターと教育に関する連携協定を結んだ。この目的は,(1)教員および学生の交流,(2)創造

性教育についての新しい教育プログラムの開発,(3)学生の共同プログラムの推進がある。

4.2.相互訪問

この協定に基づいて,両センター間では 1年に 2回~4回の相互訪問を繰り返している。2006 年からは

学生の訪問も始まり定例化した。徳島大学からはプロジェクト活動のメンバーたち,また韓国海洋大学校

からはキャプストンデザインのグループのメンバーがそれぞれの活動報告をし,交流を図っている。また,

無人ソーラーボートの製作プロジェクトが両大学の学生の共同プロジェクトとして立ち上がっている。さ

らにプロジェクト交流を図るため,両大学では可能なプロジェクトを提案し,平成 21 年度以降の合同企

画の検討が始まっている。

学生たちはこれらの交流を通して,まず韓国の学生たちの英語能力の高さに驚くとともに,海外のメン

バーとコミュニケーションを図るために,まず英語力の必要なことを痛感することになる。英語力も重要

であるが,交流を図るためにはそれ以上に何を話すかということをしっかり持っていなくてはならない。

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4.3.徳島大学/韓国海洋大学校連携の工学教育に関するシンポジウム

2006 年に徳島大学のメンバーが韓国海洋大学校を訪問したとき,両大学間の国際シンポジウム

International Exchange Conference between Tokushima University and Korea Maritime University

が企画・開催された(図2)。徳島大学からは 2名の教員からの創造性教育に関する報告と 2名の学生の

プロジェクト報告,韓国海洋大学校からは 3名の教員からの報告と学生による 9件のキャプストンデザイ

ンプロジェクトのポスター報告があった。

図2 韓国海洋大学校/徳島大学工学教育シンポジウム, 2006 年 9 月 19 日, 韓国海洋大学校

その後,両大学間のシンポジウムの形を検討した結果,上記のシンポジウムを 1st KMU/TU Symposium on

Engineering Education と名付けることとし,2008 年 9 月 20,21 日に徳島大学において 2nd TU/KMU

Symposium on Engineering Education を開催した(図 3)。学生セッションでは 13 件の学生プロジェクト

報告,また教員セッションでは 8件の報告がなされた。2日目は交流会を開催し,参加者全員で阿波人形

浄瑠璃および藍染体験を楽しんだ。

図3 第 2 回韓国海洋大学校/徳島大学工学教育シンポジウム,2008 年 9 月 22 日,徳島大学

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5.日本/韓国連携の工学教育に関する国際会議に向けて

上記の徳島大学と韓国海洋大学校の連携シンポジウムと並行して,5大学連携教育検討委員会では 2006

年から日本の 5 大学連携および韓国釜山近郊の 4 大学(韓国海洋大学校,釜山大学校,釜慶大学校,東義大

学校)のキャプストンデザイン連携の枠組みの中で工学教育に関する国際シンポジウムの開催を模索して

きた。

2008 年 11 月 12,13 日に韓国済州島において韓国工学教育協会の年次大会が開催された。この前日に

おける韓国海洋大学校側との検討で,上記枠組みにとらわれない日本および韓国の国際会議に拡大するこ

とを決定した。韓国工学教育協会年次大会で,筆者は Current International Relationship between The

University of Tokushima and Korea Maritime University and the Future Development の題目で講演

報告を行った。これまでの教育連携の経緯と 2009 年 10 月に韓国釜山で開催を計画している Korea/Japan

International Conference on Engineering Education(KJICEE)の開催案内とそれへの参加要請を行った。

KJICEE は 2009 年 10 月 28 日~31 日に韓国海洋大学校で開催される予定である。

6.まとめ

近年の工学教育への関心は大変高いと言える.日本工学教育協会の年次大会での講演数はここ 3年間ほ

ぼ 400 件であり,さまざまな問題についての討論がなされている。本文でも述べた昨年 11 月の韓国工学

教育協会では 150 件ほどの講演に対して約 600 名の参加者があった。大学がユニバーサル化された今日,

学生の多様化とレベル低下が大変大きな問題になっている。このような現状にあって,旧来の教育方法で

教育が成り立たないことは周知の事実であり,教育に携わる者は常に学生集団を見ながら新しい方法を編

み出す必要がある。他機関で考えられ実行されているすぐれた教育手法を常に参考にすることは大きな発

展になる。国内外のすぐれた手法を相互交流やシンポジウムなどを通して互いに参考にすべきである。

また,教育は教員のものだけではなく,その対象としての学生が存在する。教育を考える場合,教員の

側のみの検討では片手おちになる。学生も討論の場に含め,教員は学生の目線から見た教育を真摯に受け

入れる必要がある。

このような意味で,5大学連携教育シンポジウム,韓国海洋大学校との国際シンポジウムは大変有効な

交流であり,それを発展させる形の日韓の工学教育に関する国際会議はさらに大きな成果が期待される。

夢は Asia International Conference on Engineering Education の創設にある。

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12.工学教員に対する英語支援

国際連携教育開発センター 勅使河原三保子

1. はじめに

徳島大学大学院先端技術科学教育部では、2005 年度の文部科学省の大学教育の国際化推進プログラムにおいて提案した「複数学位を与える国際連携大学院教育の創設―協定大学間ネットワークを活用したメジ

ャー・マイナー履修制による実践的教育―」の採択を受け、学術交流協定を結んでいる中国、韓国、ニュ

ージーランド、アメリカ、フランスの 11大学との共同学位プログラム(国際連携大学院プログラム、英語では International Affiliated Double-Degree Program)を翌 2006年度より順次開始している。この共同学位プログラムは、本学先端技術科学教育部と海外連携大学院の間の学生の相互交流を促進するためのもので、

両方の大学院生がそれぞれ受入先の所定の審査を経て入学する。プログラムに入学した学生は両大学院に

在籍し、派遣先・受入先それぞれで所定の期間、指導教員の指導を受けながら研究活動を進める。 本プログラムによる海外連携大学院からの学生受け入れに際し、本教育部では日本語能力を要求しない

代わりに、学業の遂行に必要な英語力を要求する。すなわち、学生を受け入れ指導に当たる教員にも必然

的に英語での教育指導力が求められる。その教育指導には学生を個別に指導するだけでなく、受入学生が

受講できる(つまりカリキュラム上国際連携大学院の修了条件を満たす科目として開講されている)授業

を英語で行うことも含まれる。国際連携大学院を担当する教員(以下、国際連携大学院担当教員)には海

外での留学・研究経験のある者もいるが、1学期 15コマ分の授業を英語で行うことにとまどう者は少なくない。これらの国際連携大学院担当教員には、英語で教育指導を今よりも円滑に行えるようになるための

英語教育・支援が必要である。なお、本教育部では 2009年度、全ての課程を英語による講義・セミナー等の受講と論文執筆によって終えられる「グローバル大学院工学教育プログラム」を新たに創設することが

決定しており、教員の英語による教育研究指導力がますます求められることとなる。 本稿では、そのような海外からの学生を受け入れる国際連携大学院担当教員に対して本国際連携教育開

発センターが 2006年度前期より行ってきた英語支援の実施状況について簡単にまとめ、今後の課題について述べる。(以下、類似の取り組みの紹介および本取り組みの第 1~5 回の実施状況の詳細については、勅使河原[2008a]参照。) 2. 類似の取り組みの調査

英語による講義を目指す教員に対する語学支援の取り組みは、国内外でも比較的例が少ない。以下、筆

者が参考にした既存の取り組みを簡単に紹介する。

国内の取り組み 文献等で調べられる限りでは、英語による講義を目指した非母語話者教員に対する語学支援の取り組み

は少なく、ほとんどが一回完結型である。たとえば中村(2003)、近藤・北浜(2004)に報告されている取り組みは、どちらも半日の研修の形で行われ、主に学内外の英語での授業の経験者による、授業の実例や

良い授業を行うためのコツなどをテーマとしたいくつかの発表と、総括的な討論から成るものである。(ま

た、筆者は、2008年 3月に横浜国立大学で行われた非母語話者教員に対する英語による授業を行うための

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研修会に学外からの参加者として参加する機会があったが、やはり一回完結型であり、講師による講演と

より実践的なワークショップから成るものであった。) 以上と異なる形式で行われたものには、2006 年度に電気通信大学を初めとする短期交換留学生に英語で授業を提供する(通称「短プロ」)国立大学のうち 8 大学が共同で行った、「英語で開講する授業の国際水準化支援事業」がある(電気通信大学 2007)。1この事業は欧米での授業法の研修(FD)から英語による授業の質向上の手法を学び、短プロでの英語による授業に生かすことを目標とした。

海外の取り組み ヨーロッパではエラスムス事業(ERASMUS)という高等教育交流プログラムの推進により、短期交換留学がさかんになるにつれて、非英語圏でも留学生のために英語による教育プログラムを開設する大学が増

えている(堀田 2001)。このような動きを受けて、語学以外の科目を外国語で教育・学習するという、教えられる内容(科目)と伝達手段である外国語の両方の習得に焦点のある教育・学習形態である Content and Language Integrated Learning(CLIL)がヨーロッパを中心に最近特に注目を集めている(Wilkinson 2004)。(しかし、特別な準備もなく英語で語学以外の科目を教育する形態を取るだけで自動的に科目の内容と英

語の両方の学習が望めるわけではないことに注意を喚起したい。2)CLILが広まるにつれて、特に CLILがさかんな国(オランダ、北欧諸国等)では CLILで教える教員への研修も定期的に行われるようになっていることが調査の結果わかった。たとえば、オランダのデルフト工科大学では教員の教育能力一般の向上の

ための体系化された取り組み(FD活動)の一部として、英語での教育指導に必要な能力の向上を目指す取り組みも行っている(de Graaff et al. 2006)。3その他、筆者の聞き取り調査により、フィンランドのユヴァ

スキュラ大学(Räsänen 2000)やヘルシンキ大学4でも CLILに携わる教員に対する研修が定期的に行われていることがわかった。 最後に、英語圏の大学における FD活動の一環としての、英語を母語としない教員に対して行う支援活動も参考となるので言及しておく(Gareis & Williams 2004)。Gareis & Williamsが勤務するニューヨーク市立大学バルーク校では非母語話者教員を対象とした特別な FDプログラムを設立し、運用している。このプログラムが提供する数種類のサービスのうち参加者から最も人気が高かったのは、週 1回 1時間、1対 1で行われる発音矯正だったと報告されている。

以上、筆者が担当する「国際連携大学院担当教員を対象とした英語コース」の開始前から現在までに情

報を収集してきた、英語による講義を目指す教員に対する英語支援の取り組みを概観した。これらを参考

にして、筆者は担当するコースのシラバスを決定した。

1 http://www.fedu.uec.ac.jp/~fd/参照。 2 学習者の母語以外の言語を媒介語とした教育・学習形態が無条件でCLILになる(すなわち、科目と英語の両方の習得が可能となる)とは限らない(Tudor 2006; Marsh & Laitinen 2004)。Tudorによると、外国語を媒介とした教育・学習形態がCLILとしての機能を果たすには、専門授業担当教員と受講生の語学力が十分であること、専門授業担当教員と語学教員の協力(内容と語学の両方の学習を目指すCLILでは専門教員と語学教員が組んで教えることが多い)、そして担当教員の教育力の向上が必要である。さもなければ、このような外国語を媒介とした教育・学習形態はその質の低下につながる(勅使河原・上田[2008]、勅使河原[2008b]参照)。 3 http://www.tudelft.nl/live/pagina.jsp?id=9d3261ea-a168-474f-be48-fb84a680b4b1&lang=en参照。 4 Teaching through English at the University of Helsinki: http://kielikeskus.helsinki.fi/tte/参照。

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3. 国際連携教育開発センターの取り組み:国際連携大学院担当教員を対象とした英語コース

当センターが開講する「国際連携大学院担当教員を対象とした英語コース」は、2006 年度前期に始まり2008 年度前期までに計 6 回開講された。各回の実施状況の詳細については他稿に譲るとして(勅使河原 2008a)、本稿では6回の実施状況の概要と、3年間の実施状況を振り返っての反省点や今後の課題について、筆者の私見を交えて述べる。

主な目的 このコースでは、英語で 1コマ 90分から成る授業を継続して行えるようになる素地を身に付けるため、英語による口頭発表の技術や聴解能力の向上を主たる目的としている。しかし、英語による口頭発表の技

術向上の仕方についていくら講義を聞いても、聞くだけでは技術は身に付かない。そこで、筆者が今まで

に担当したコースのうち第 2~4回およびグルシナ教員・コインカー教員が担当したコース(第 6回)では、各受講教員による模擬授業を取り入れた(3.2 節参照)。そして、各々がコースで学習したことを生かして実際に英語による講義を体験し、主体的に授業に参加することにより、学習効果を高めることを目指した。

模擬授業の後には必ず受講教員全員で模擬授業を批評する機会を持つことにより、受講教員同士からも学

ぶ機会を増やすようにした。なお、受講教員への英語のインプットの量を増やすため、授業はすべて英語

で行い、配布資料も英語で作成した。(筆者が担当したコースのうち 1回は、それまでと趣向を変え、学術論文の読み書きで重要になりそうな文法事項を日本語で解説し、演習問題を行うことのみに焦点を絞って

行った。) その他、①英語で読む・書く能力の向上も目指す、②受講教員自身がコース終了後も意欲的に効果的な

英語学習を続けていける足がかりとなるような、英語学習に対する気づきや自覚を促す、③日本語と英語

の文章構造や論理の組み立ての違いを認識させる、④CLILに関する理解を深めることも目標として掲げた。

概要 表 1に 2006~2008年度に行われた「国際連携大学院担当教員を対象とした英語コース」計 6回の実施概要をまとめる。コースでは毎回、ほぼ 1 週間前に開講連絡を行い、受講希望者から申し込みを受け付ける形式により、事前に受講者数と出身分野の把握を行っている。また、このコースでは国際連携大学院の指

導を担当する教員を主な対象とするものの、余裕があればその他の一般教員も受け入れることとし、現在

までのところ希望者はすべて受け入れている。忙しいスケジュールの合間を縫って参加する受講教員は、

国際連携大学院担当教員であるなしにかかわらず一様にモチベーションが高く、積極的な姿勢が目立った。

表1 「国際連携大学院担当教員を対象とした英語コース」6回の実施概要

第 1回 第 2回 第 3回 第 4回 第 5回 第 6回

担当教員 母語話者 日本人 日本人 日本人 日本人 母語話者・

インド人

使用言語 英語 英語 英語 英語 日本語 英語

受講者数 8 8 10 4 11 6

総時間数 (時間×回)

16.5 (1.5×11)

18 (2×9)

22.5 (1.5×15)

16 (4×4)

9 (1.5×6)

6 (1.5×6)

授業形態

2006.6~7 週 2回 (月・木) 12:50–14:20

2006.8 9日間 集中

10:00–12:00

2006.10~12週 2回 (火・金) 16:20–17:50

2007.4~7 月 1回 土曜日

10:00–15:00

2007.11~12 週 1回 (月)

16:20–17:50

2008.5~6 月曜日

16:20–17:50

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これまでのコースで試行錯誤を重ねていることの一つとして、授業を行う時間帯が挙げられる。コース

の告知をする時点で教員にはすでにその学期に担当する授業の時間割が決定されている。筆者も工学部・

大学院先端技術科学教育部の時間割を参考に、できるだけ多くの受講希望者にとって受講可能な時間帯を

選ぶよう努力してきたが、個々の教員には時間割からは把握できない研究室での教育指導などもあり、な

かなか達成されていない。本学工学部では夜間主コースの授業も平日毎日開講されているため、夕方から

夜の時間帯に本コースを開講しても希望教員が受講できるとは限らない。表 1の 2回目と 4回目ではそれぞれ夏季集中コース、月 1 回土曜日の開講としてみたが、受講者数を見る限り後者の試みは本教育部ではあまり成功したとは言えなさそうである。(第 4回では、1ヶ月に 2回同内容が繰り返され、受講者が自分にとって都合の良い 1回を受講した。) 次に、各回の実施状況を簡単に述べる。「国際連携大学院担当教員を対象とした英語コース」初めての試

みとなった第 1回(中西‐リンド教員担当)では、英語の 4技能のうちの一つを扱う回、教授法に関する回、口頭発表に関する回を交互に繰り返し、バランスの取れた授業を心がけた。口頭発表に関する内容で

は、ジェスチャー、姿勢、アイコンタクトなど日本人が普段苦手とする事項も扱った。中西‐リンド教員

は、どの回でも必ず受講教員自身が英語を主体的に使う活動(ペア活動、ミニ・プレゼンテーション等)

を盛り込むことを目標にしていた。 第2~4回は筆者が類似の内容を様々なスケジュールを用いて繰り返した試みであるのでまとめて報告する。ここでは、模擬授業に関係する授業内容に焦点を当てて報告する。 まず、模擬授業の前に、合計 3 時間ほどを割き、英語による口頭発表の準備の仕方、実際の発表で気をつけること(英語の語アクセント、イントネーション、フレージング)、口頭発表や英語による授業での有

用な表現などを扱った。英語による専門授業について考える時間も 1 時間ほど設け、母語で授業を行う時との違いに注意を向けるよう促し、CLIL に関する文献から得られる知見にも言及した(Airey & Linder[2006]参考)。さらに、第 3回以降は、英語のリズムの聞き取りおよび発音に関する講義・練習の時間も盛り込んだ。 これらの主に筆者主導で行われた授業で扱ったことを踏まえ、受講教員は学期の半ば(第 2 回ではコースの終盤)に模擬授業を行った。以下のような指示を与え、各自模擬授業を準備してもらった。目的は、

コースで学習したことを統合して自分の現在地点(何ができて何が課題なのか)を知ることであった。そ

して、修士課程 1年生に何か新しい学習事項を導入するという設定(難しければ各自適宜設定を調整する)の下、扱う内容に応じて 10~20分の模擬授業をしてもらった。また、必須事項として、①ただ口頭による説明だけでなく何らかの視覚補助(板書、配布資料、パワーポイント、模型等)も用いて説明をすること、

②設定に応じた語句の説明(たとえば修士 1 年生が対象ならば、その学生の背景知識に応じた説明)を行うことの 2点を盛り込んだ。 各受講教員による模擬授業が始まる前に、クラス全体に他の教員による模擬授業を聞く際に注意すべき

点を説明し、各模擬授業後はそれらの点について一つずつ振り返った。①話の構成(要点、内容が整理さ

れているか)、②用語の定義(説明されているか)、③視覚補助(見やすいか)、④話し方(フレージング、

抑揚、音量)、⑤ノンバーバル(視線、ジェスチャー)。受講教員もこれらの点について振り返り、筆者に

促されて、模擬授業を行った教員に対し積極的にフィードバックを与えていた。 模擬授業からわかる各受講教員の到達度や課題は様々であったが、ここでは全体的な傾向を挙げる。パ

ワーポイントを用いて授業を行った教員は概ね内容を詰め込みすぎ、どうしても進度が速くなりがちであ

った。一方、話しながら板書をした教員は、比較的ゆっくり授業を進めるので、非母語話者の聴衆にとっ

て適切な情報量に抑えることができ、この方が非母語話者の学習には効果的であるかもしれないことがわ

かった。特に本教育部の国際連携大学院では、受講生も中国、韓国の留学生と日本人が大多数を占める非

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母語話者ばかりの集団になる可能性が高い上に、授業に臨む学生は背景知識において国際会議に集う専門

家とは大きく異なる。したがって、パワーポイントを用いる教員は、学会発表のような速いテンポで話を

進めるのではなく、1枚 1枚のスライドにゆっくり時間をかけ、噛み砕いて説明することが求められる。この点は、第 3回以降は予め受講教員に指摘したため、改善されている。 また、筆者からのフィードバックでは筆者の専門を生かし、模擬授業で出てきた用語等の発音指導も行

った。模擬授業では、文法・語彙力が比較的高く流暢に話せる教員の中にも、英語の強勢に関する知識が

ほとんどなく適切なフレージングが行えないため、日本人英語の発音に慣れていない聞き手には困難な発

音をする話者が意外に多いことがわかった。単音よりも韻律(語アクセント、イントネーション)の誤り

の方が聞き手の理解に深刻な影響を与えることを示唆した研究(Anderson-Hsie & Koehler 1988)もあり、学習者への適切な韻律指導の必要性を改めて実感させられた。第 3 回以降は、キーワードなど発音を誤るとコミュニケーションに支障をきたす恐れが特に高い語の発音を、強勢の位置を中心に復習させ、日本語母

語話者以外の聞き手にもできるだけわかりやすい発音をすることを意識させるよう心がけた。 第 5 回はそれまでと趣を変え、学術論文執筆のための文法コースとして日本語で開講した。扱った内容は、冠詞と名詞、時制とアスペクト、受動態、(縮約)関係節などであった。より英語力の低い教員が受講

できるようにし、文法用語を英語で導入することによる混乱を避けるため、本コースで初めて、日本語を

用いた。受講教員は自分の分野の書き物を、習ったことを基に分析する宿題を与えられたものの、提出義

務はなかったため、積極的に宿題をした受講教員は特にいなかったようである。 この 3年間で最後の開講となった第 6回(2008年度前期)は、英語教育を専門とする教員ではなく当センターに所属する 2 人の工学を専門とする外国人教員(グルシナ教員・コインカー教員)が担当した。内容的には本コースの第 2~4 回の英語による口頭発表・授業教授の部分のみに焦点を当てたものとなった。担当教員が交代で授業を行い、最後の回に受講教員による模擬授業とその批評を行った。担当教員の感想

としては、受講教員の受講目的や需要がはっきりと示されず、自分たちで準備した支援内容が役に立った

か否か、またその他にどのような支援を行ったらよいかなどがよくわからなかったとのことだった。担当

教員が日本語・日本文化に精通していない場合は、受講教員にもより積極的に意思を伝えようとする姿勢

が必要なのかもしれない。

今後の課題 最後に第 4回終了後に行われたアンケート結果(詳細は勅使河原[2008a]参照)を踏まえながら、本教員対象英語コースの今後の課題を述べたい。現在までの実施状況を振り返って第一に挙げられることは、

できるだけ多くの受講希望教員に合う開講スケジュールを見つけることである。開講時期、頻度、総回数、

受講教員が選んで受講できるよう同じ授業が別の日にも開講されるようにすべきか、などの点について考

える必要がある。 次に課題として挙げられるのは、目的別コース、習熟度別コースの開設など、受講教員の様々なニーズ

に応えることである。第 5 回で試みながら希望者が少なくて断念した、目的別コースの開設(たとえば模擬授業に特化したコースと学術英語に特化したコースに分離)は今後是非とも試してみるべきであろう。

前述したデルフト工科大学では英語力向上のためのコースの他に、英語による教育入門、教育現場での英

会話、発音、英語での教材作成、教育現場での異文化コミュニケーションなど独立した有料のコースがい

くつか提供されている(de Graaff et al.[2006]および脚注 3参照)。また、これらが教員の教育能力一般の向上のための体系化された FD活動の一部として取り込まれている。このような多様なコースが難なく開講できれば良いが、人的資源も限られた当センターの教員のみで担当する場合は、本教育部教員からの需要

を調査し、まずは優先順位の高いものに開講をしぼる必要がある。しかし、de Graaff et al.(2006)が指摘

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するように、非母語話者の場合英語力よりも授業教授に関する技術の方が授業の成功にとって大切である

ならば、本学大学開放実践センターとも連携し、コースの内容も補い合うような形を取るのがふさわしい

のではないだろうか。また、このような支援はたとえば英語による講義の経験豊富な工学教員でも行うこ

とができるはずであるので、そのような教員にも協力を要請したり、今まで当センターが行ってきた形式

ではなく一貫した講師を持たない勉強会の形式にして行ってみたりするのも検討しても良いのかもしれな

い。 その他、筆者自身が担当者として感じる今後の課題としては、CLILに関する授業の時間をより多く取るようにし、CLILに対する受講教員の理解の向上を目指すことである。CLILの条件が満たされない場合(たとえば教員・学生の語学力が不十分)に、高度に専門的な授業を外国語で行う影響は、日本ではまだよく

調査されていない(勅使河原・上田 2008)。今後の研究動向にも注目しながら、担当教員も CLILに対する知識を深める必要がある。 上記と関連して、今後本教育部では新たに「グローバル大学院工学教育プログラム」が創設されること

により、ますます英語による開講科目が増えるだろうが、英語を媒介語として教育を行うということに関

して教員間はもちろんのこと、教員と受講生の間でも議論を深める必要があるのではないだろうか。たと

えば、国民が一般的に高い英語力を持つとされるスウェーデンの大学で英語を媒介語として行った物理学

の授業(すなわち専門授業担当教員と受講生の英語力が十分であると想定される)を観察・記述したAirey & Linder(2006)でさえ、スウェーデン語(母語)による授業との違いを報告している。学生は母語による授業におけるよりも質問をしないし、教員の問いかけにも答えない傾向がある。このような違いを教員・

学生が互いに認識し、互いが母語での授業とは異なる努力を加えることにより、教育・学習効果が改善さ

れる可能性が示唆されている。また、英語圏であるオーストラリアの大学で一般の授業を受ける母語話者

と非母語話者のアンケート結果を比較したMulligan & Kirkpatrick(2000)の調査では、「よく理解できた」と回答した非母語話者は全体の 1割を切り、1/4弱の学生が「ほとんど理解できなかった」と回答した。(ちなみに母語話者では「よく理解できた」が 3割強、「ほとんど理解できなかった」が 1割弱だった。)それを補うため非母語話者が予復習を徹底したり、授業中は講義を聞かずにノートを取るのに専念したりする

行動についても言及している。これらの文献で共通する、担当教員が非母語話者を対象とする講義の際に

気をつけるべき点としては、たとえば口頭による説明だけでなく、スライドや配布資料、板書などの視覚

補助も十分用いること、講義の流れを冒頭に明示し、講義中も冒頭で示した流れに立ち返って講義の仕組

みを理解させること、学生に予復習を徹底させることなどが挙げられる。英語で行う専門授業をより効果

的なものとするためには、教員・学生の双方が母語での授業よりもこのような意識的な努力を重ねること

が必要不可欠であろう。また、今後当センターが提供する「国際連携大学院担当教員を対象とした英語コ

ース」でも、このような点をより強調するようにしていくべきであろう。

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参考文献 Airey, J. & Linder, C. (2006) “Language and the experience of learning university physics in Sweden.” European

Journal of Physics, 27, 553–560. Anderson-Hsie, J., & Koehler, K. (1988) “The effect of foreign accent and speaking rate on native speaker

comprehension.” Language Learning, 38, 561-613. de Graaff, E., Andernach, A., & Klaassen, R. (2006) “Learning to teach, teaching to learn the impact of a didactic

qualification programme on university teachers careers.” Proceedings of the 10th IACEE World Conference on

Continuing Engineering Education, pp. 1–6. [http://www.iacee.org/wccee/2006/papers/381.pdf] 電気通信大学(2007)『英語で開講する授業の国際水準化支援事業―短期留学プログラムの授業を手本にして国際的教育能力の向上を目指す―成果報告書』文部科学省平成 18 年度大学教育の国際化推進プログラム(海外先進教育実践支援).

Gareis, E., & Williams, L. (2004) “International faculty development for full-time and adjunct faculty: A program

description.” Journal of Faculty Development, 20 (1), 45–56. 堀田泰司(2001)「ヨーロッパのエラスムス(ERASMUS)による高等教育交流制度の実態とその特徴」『広島大学留学生センター紀要』, 11, 31–45.

近藤佐知彦・北浜榮子(2004)「大阪大学短期留学特別プログラムOUSSEPの現状と英語授業普及・大学国際化への提言」『大阪大学留学生センター研究論集 多文化社会と留学生交流』, 8, 137–159.

Marsh, D., & Laitinen, J. (2004) Task Group 4 Medium of instruction Discussion Brief. [http://userpage.fu-berlin.de/%7Eenlu/downloads/ENLUreport1TaskGroup4UNICOM.doc]

Mulligan, D. & Kirkpatrick, A. (2000) “How much do they understand? Lectures, students and comprehension.”

Higher Education Research & Development, 9, 311–335. 中村和泉(2003)「岡山大学短期留学特別プログラム EPOK―『英語による授業』改善への取組みと課題―」『岡山大学留学生センター紀要』, 10, 61–77.

Räsänen A. (2000) Learning and teaching through English at the University of Jyväskylä: Evaluation Survey.

(Jyväskylän yliopiston kielikeskus raportteja 4.) Jyväskylän yliopisto: Finland. 勅使河原三保子(2008a)「英語による専門授業の質向上を目指して―専門授業担当教員を対象とした英語授業の実施状況」『大学教育研究ジャーナル』, 5, 68–82.

勅使河原三保子(2008b)「工学系学生と教員に対する英語支援」『工学教育』, 56 (3), 49–55. 勅使河原三保子・上田哲史(2008)「英語による大学院レベル工学系授業の質向上を目指して―授業受講支援の実施状況とアンケート調査結果―」 『大学教育研究ジャーナル』, 5, 123–127.

Tudor, I. (2006) “Trends in higher education language policy in Europe: The case of English as a language of instruction.” ECORE Conference, Challenge of Multi-Lingual Societies, Brussels, June 9–10, 2006. [http://www.ecare.ulb.ac.be/ecare/ws/lingual/papers/tudor.pdf]

Wilkinson, R. (ed.) (2004) Integrating Content and Language: Meeting the Challenge of a Multilingual Higher Education. Universitaire Pers Maastricht: Netherlands.

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13.学生力育成のためのSNS推進プロジェクト

~キャンパスSNS「さとあい」を活用したキャリア開発支援~

徳島大学大学院ソシオテクノサイエンス研究部 1),高度情報化基盤センター2)(uラーニングセンター)

嵯峨山和美 1),金西計英 2),松浦健二 2),久米健司 1),光原弘幸 1),矢野米雄 1)

1.はじめに

FD(Faculty Development)とは,主に教員が授業内容,方法を改善し,向上させるための組織的な取組みの総称であるが,ここでは,こうした教育面にとどまらない研究や社会貢献を含む広範な活動の紹介を

する. 徳島大学工学部の u-Campus構想(Ubiquitasの略:いつでもどこでも利用者が意識することなく,コンピュータやネットワークなどを利用できる状態)は,(1)効果的な教育実践を行う e-Learning,(2)新しい教育の提案・開発を行う u-Learning,(3)学内サービスの向上を行うキャンパスの電子化(デジタル化)の 3つの取り組みを柱とし,情報の利便性を活用できるキャンパスの実現を目指してきた(1).u-Learning は,平成 16 年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択された(2).ここでは,キャンパス SNS(Social Networking Serviceの略)を用いて,人と人との繋がりを促進・支援することを主目的としたコミュニティ型の会員制サービス(3)の取組について実践報告する. 現在,経済状況の悪化などにより,学生を取り巻く環境は一層深刻な影響を及ぼしてきているなか,依然,

若者のひきこもりや意欲喪失,そしてコミュニケーション能力の低下などが社会的問題となっている.また,

これらは大学生の勉学に対するモチベーションが弱いことや中途退学に至るケースが増加していることな

どの教育的問題と繋がっている.本学のラーニングライフ(2008)では,卒業後の職業に直結した免許・資格を取得できる医学部,歯学部,薬学部の学生と比較し,総合科学部・工学部の学生は将来の実現に不安を

持っている学生が多いと報告されている(4).一方,社会のニーズは ICTの発展と普及とにより,学生は PCや携帯電話にみられるような ICTの利用が日常化している.文部科学省平成 19, 20年度「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」では,大学生のコミュニケーション不足等を補うために様々な ICTを活用した学生の視点に立った取組がいくつか選定されている(5).我々はこのような動きに先駆け,これま

で知育中心の学習支援であった ICT を,大学内の新たな人間関係を構築しコミュニケーションを円滑にする手段や場として活用することを試みた.平成 19年 1月 23日より工学部知能情報工学科を中心に大学版SNS となる「キャンパス SNS」の運用を開始した.このことは,本学の中期目標における教育の情報化に沿うものである.学生だけではなく大学に関わる多様な人材の出会いによりコミュニケーションの質に変化

を持たせ,また,趣味・嗜好が合った様々な世代の仲間が自発的にコミュニティを形成するよう支援してい

る.時間的地理的に制約のないコミュニティから,学生を現実の世界へ導き,個々の学生が魅力を感じる修

学や進取の気風にあふれた学生生活を送るための支援である.特に,コミュニケーション能力の開発と出会

いの支援とから,キャリア開発力の育成を目指し,下記のような成果を目標に掲げた(図 1). コミュニケーション能力の向上 自発的に行動を起こす態度を身につける

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教養・専門知識の必要性を自覚 勉学意欲の向上 課外活動等も活性化 大学全体の活力が向上 今回,学生の視点に立った学生支援の在り方を探求

するため,本 SNSのログデータから学生行動を分析した(6).さらに,これらの分析結果を活かした支援活動

の試みから,本 SNSを活用したキャリア開発支援,あるいは,FD活動の一環として今後の可能性について紹介する.

2.概要と方法

本 SNSは,参加資格を四国の大学生,教職員,卒業生,地域や企業の学生支援者であるサポータに限定した安心・安全な「会員制」サービスである.初期登録 IDを大学発行のメールアドレスとし「招待制」を採用した.参加は強制ではなく自主的な参加とした.本 SNSのシステムに関しては,株式会社富士通四国システムズ(香川県高松市)との共同研究として実施し,OpenPNE(2002-2008)をベースにした(7). 具体的には,以下のような特徴を持たせ,学生力育成キャンパス SNSを創出した(図 2). ①徳島大学に関わる多様な人材が出会うコミュニティを開設し,メンタリングを通じて学生のキャリア開

発を支援する.②学習や学生生活,地域に関する情報提供をする情報発信コミュニティを開設する.③就

職関連の「キャリア情報掲示板」を設置する. 運用には SNSファシリテータを置き,コミュニティのモニタリングとコミュニケーションの促進を行った(8).①本 SNS内の情報を収集・整理し,「information」に公開,②コミュニティや各種イベントにおける活動の支援,③OB/OGの登録の促進,④本 SNS上のイベント(就職活動講座,キャリア講演会など)の実施,⑤本 SNS内のイベントだけではなく,現実の世界のイベントも実現させるため,学内外の組織との連携におけるマネジメント等の活動支援などに従事した(図 3).

図2.キャンパスSNS「さとあい」

図1.キャリア開発力育成の概略図

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2007年1月から2008年12月までの2年間に登録した全参加者のログデータを学生,教職員,卒業生,サポータに分類したうえで,アクセス件数とアクセス人数とを求めた.同一参加者が,1日に1度以上アクセスした件数を1件,1ヶ月に1度以上アクセスした人数を1名とし集計した. 日記の内容に関する調査では,運用初期の2007年1月から9月までに書き込まれた2,878件の日記について

MeCab(日本語の形態素解析器)を用いて頻出単語を抽出した.内容を属性ごとに11の話題(日常の出来事,世間話,趣味,仕事,勉学,天気,紹介,街情報,SNS,健康,家族)に分類した.

3.利用状況

運用を開始した2007年1月-2009年1月の約2年間の参加者は928名で,その属性の内訳は図4に示した.本学工学部を中心に学生が68%を占めた.参加者のプロフィールにおける実名率は平均84%(非公開も含)と高く,性別では男性が多かった.一般に,SNSは友人から友人へ招待状を発行することで参加者を増やすが,本SNSの参加者は,「さとあい」事務局の招待者数が384名で全体の約41%を占めた.単独でWeb上に招待状を事務局へ依頼し,参加する学生が多かった.学生から学生への招待は特定の学生に限られ,わずか142名(約15%)であった.それに対し,教職員の招待は389名(約42%)と高く,トップダウン的に広がったSNSであると言える.2004年3月に開始した株式会社ミクシィ(9)運営のmixi (2008年9月30日現在,参加者数1,568万人を超える国内最大規模のSNS)は,友人から友人へ参加者を増やし2005年8月1日に100万人,その後12月6日には200万人を突破した「知り合い系」SNSとは,異なる性質を有する. また,2004年2月にアメリカのハーバード大学の学生が初めて開始した大学版SNS「Facebook」によると,

2005年6月時点での参加4,540名の内訳は学生80.5%(学部生74.6%,大学院生5.9%),教職員1.2%(教員0.4%,職員0.8%),卒業生18.8%と報告されている(10).学生が開始したため,ボトムアップ的な広がりであったと

考えられる.大学版SNSを開始する者が,学生であるか,教職員であるか,あるいは,卒業生や企業であるかにより参加者の属性は異なり,その後のSNSの性質に大きな影響を及ぼすことに間違いはないであろう. 本SNSの2年間の総アクセス約100万件を機能別にアクセスの割合を算出した.「あしあと」(自分のページの訪問履歴)機能のアクセスが全機能の28%を占め最も高かった.これは自分に関心を抱いている他の

図3.本プロジェクトのモデル図

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参加者を気にしている参加者が圧倒的に多いことが示唆された.「最新日記」(不特定多数の参加者の全

体公開された日記を新着順に表示)機能19%,「日記」(特定の参加者の日記を読む)機能11%と上位を占めた.アクセスをする利用者人数の割合では,「あしあと」機能14%,「メッセージ」(1対1のやり取り)機能12%,「日記」機能10%であった.さらに,これらの結果を属性別に割合を調べた.学生は「あしあと」や「マイページ確認」機能へアクセスする件数の割合が他の属性の参加者に比べて高く,特に自

分への関心が強いことが分かった.各機能の利用者人数に対する属性別の割合では,学生は「あしあと」,

「メッセージ」,「マイページ確認」,「プロフィール」機能を利用する割合が他の属性に比べて高く,「最新

日記」や「メンバー検索」機能を利用する割合が低かった(図5).属性間の差が大きかった「最新日記」機能について詳しく調べたところ,学生の「最新日記」を確認する参加者の割合が期間を通して顕著に低

かった.「最新日記」機能とは,不特定多数の参加者の全体公開された日記を新着順に表示している.つま

り,この結果は,学生は特定の参加者との1対1のコミュニケーションを好み,他の参加者には興味を示さない傾向が示唆された.川浦ら(2005)のmixiユーザに対するアンケート調査では,コミュニケーションを目的に「日記」機能を利用するユーザが80%を占めると報告されている (11).本SNSは,「あしあと」を確認したり,1対1での「メッセージ」機能を利用したりする参加者の割合が高く,mixiユーザの結果とは異なる特徴を示した.しかし,「日記」関連の機能が上位を占めることから,mixi同様,日記を書き込んだり,読んだりすることが一種のコミュニケーションの場として存在していることが分かった.以下,日記関連

の機能について詳しく調べた.

4.日記

運用開始から2年間の「日記」作成と日記に対する「コメント」の追加の平均件数を属性別に算出した.学生利用者1人当たりの月平均書込み件数は「日記」1.5件,「コメント」3.5件と他の属性の2分の1以下であった.しかし,ログイン数や「あしあと」機能の利用状況は高いことから考えれば,学生は「文章を記述

する」,あるいは,「自分の考えを公開する」という行為に対して消極的であることが推測された. 次に日記の内容では,日常の出来事,世間話,趣味に関する書き込みが全体の65%を占めた(表1).学生のみ勉学に関する書き込みが12%あった.また,趣味の話題に対しては,25%に画像が添付され,日記

図4.参加者928名の内訳 図 5.属性別利用者の割合

学生628名68%

教職員109名12%

卒業生59名6%

サポータ132名14%

0%

5%

10%

15%

20%

利用の割合

学生 教職員 卒業生 サポータ

89

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に対するコメントでは,6,625件のうち日常の出来事に関する話題に47%のコメントが追加された.軽い話題で参加者同士が交流する様子が伺えた.村田(2003)は,Web日記のコミュニケーションのもたらす心理的効用として,自分に向けられるものが多いと述べている(12).「日記」機能は,参加学生にとって自己の感

情や問題を整理する自己開示の場となっていると考えられる.日記には,明るい話題が多く,日常の活動

や感情がオープンに書かれており,参加者の憩いの場として活用されていることが確認できた. 我々は,予想外に教職員,卒業生,サポータの安定的・積極的な利用が確認されたことより,学生を取り

巻く他の属性の参加者と連携を取りながら,運用側が学生に対して積極的に働きかけることが有効である

と考えた(13).そこで,当初の目標であるキャリア開発力の育成を目指し,様々な組織と連携し就職関連の

イベントや多様な参加者が交流できるイベントの支援に取り組んだ(14). 我々は,予想外に教職員,卒業生,サポータの安定的・積極的な利用が確認されたことより,学生を取

り巻く他の属性の参加者と連携を取りながら,運用側が学生に対して積極的に働きかけることが有効であ

ると考えた(13).そこで,当初の目標であるキャリア開発力の育成を目指し,様々な組織と連携し就職関連

のイベントや多様な参加者が交流できるイベントの支援に取り組んだ(14).

表1.日記の内容による分類

5.イベントの実施

①毎日コミュニケーションズ株式会社の協力により,自己PRコンテストとエントリーシート添削会とを

実施した(2008年2月,2009年2月).コミュニティ内で専門講師による指導を公開と非公開とで実施し,優秀者の自己PR文を発表した.学生には好評であった. ②株式会社NTTドコモ四国の協力によりフォトコンテストを実施した(2007年8月,2008年3月,2009年1月).学生の長期休暇の思い出を「俳句つきの写真」で募集し,様々な世代の参加者が交流できるよう和やかな

話題を提供する場に努めた. ③「移動社長室」や「社長室へのパスポート」等の地域企業への就職支援活動を推進してきた実績と県内

企業への人的なネットワークを有している徳島商工会議所と連携することを試みた.地元企業の良さを発

カテゴリ 日記の件数 日記合計 画像添付 コメント

学生 教職員 卒業生 サポータ モニタ 件数 割合(%) 件数 割合

(%) 件数 割合(%)

日常出来事 440 208 82 56 177 963 33.5 69 20.5 3,100 46.8世間話 116 226 24 38 60 464 16.1 31 9.2 778 11.7趣味 204 47 25 49 94 419 14.6 83 24.7 822 12.4仕事 0 177 27 34 27 265 9.2 16 4.8 354 5.3勉学 138 3 4 1 21 167 5.8 28 8.3 370 5.6天気 54 50 15 12 23 154 5.4 14 4.2 269 4.1紹介 54 23 12 6 31 126 4.4 22 6.5 244 3.7街情報 13 11 2 70 10 106 3.7 61 18.2 209 3.2

SNS 47 35 12 1 6 101 3.5 4 1.2 235 3.5健康 29 18 2 7 12 68 2.4 4 1.2 136 2.1家族 12 7 1 0 25 45 1.6 4 1.2 108 1.6合計 1,107 805 206 274 486 2,878 - 336 - 6,625 -

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見してもらうことで,学生が地域に目を向けることを目的とし,我々は平成 20年度徳島県就活ルネッサンス!アイランド「とくしま」企業クルージングプロジェクトとして,徳島商工会議所のミステリーツアー

を支援した(表 2).本 SNSや本学就職支援室,本学の学生グループの協力を得て参加者を募った.本 SNS内にはミステリーツアーの参加者向けコミュニティを開設し,情報交換を行った.第 1回は 2008年 8月 18日に実施し,計 29名の学生が地元の元気企業 4社をバスで巡回した(図 6,7).参加学生からは,「名前も知らない県内企業にも素晴らしい商品を開発している企業があることを知った.」等の意見が寄せられた.

好評のため,本年度 7回実施予定である.

表2.ミステリーツアー in 徳島

日程 参加人数 見学先企業名

2008.8.19 29 藤崎電機㈱ 日亜化学工業㈱ ㈱マストミ ㈱阿波スピンドル

2009.1.7 25 ㈱阿波銀行 ㈱高橋ふとん店 ㈱イシイ

2009.1.8 7 ニホンフラッシュ㈱ 大塚製薬㈱板野工場 社会福祉法人健祥会

2009.1.9 15 四国化工機㈱ ㈱松村農園 ノヴィル㈱

2009.1.13 8 ㈱大一器械 徳島合同証券㈱ 四国進学会㈱ 三協商事㈱

2009.2.25 15 シティハウジング㈱ ㈱秦商事 市岡製菓㈱ ㈲竹内園芸

2009.2.26 ㈱和合 ㈱あわわ 四国化工機㈱

④学生グループ主催の就職関連のイベントの告知を行った.イベント参加者の中には,本掲示板で情報を

得て参加した学生も確認された.特定の学生グループだけではなく,様々な学生から寄せられる活動の情

報をできる限り発信した. ⑤コミュニティ「海部川風流マラソン」を走ろう(現在 152 件のコミュニティが存在)では,県内や近県のマラソン・駅伝大会の情報など計 34のトピックが更新されている.学生,留学生,教職員,卒業生が実

図6.徳島新聞2008年 8月 19日(火) 図7.徳島新聞2008年 8月 20日(水)

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際のマラソン大会に参加しており,Web内だけではなく,現実の世界での交流に繋がっている(図 8). ⑥2009年 2月 17日には,本 SNSの参加学生を中心に「さとあい」発展のための意見交換会が開催された.知能情報工学科のプログラミングが得意な学生から,システム改善や新しいコンテンツの開発を含めた積

極的な意見が出された. 以上の例のように,本 SNSを通して現実の世界の交流や活動へと動き出し始めているところである.

6.おわりに

本SNS上において参加学生が積極的に書き込む割合は低く,Web上においても学生は自ら積極的な行動を起こさないことが推測された.しかし,定期的にログインをしており,受け身的ではあるが記事を読んで

いることが分かった.なかには,本SNS内の日記やコミュニティを通して,学生と学生,学生と教職員,学生と卒業生,学生と地域のサポータとがふれあう事例や現実の世界への交流に発展した事例が幾つかあっ

た.また,対面での会話が不得意な学生が,本SNS内の日記には日頃の出来事を細かく公開している事例もあり,新たな側面を知るきっかけともなった. A.N.ジョインソンは,Web上でのコミュニケーションも人間関係における信頼や親密性の発展と密接に関係しており, Web上での行動を理解し,適切な道具や状況を設定することによって肯定的な行動が促進されうると述べている(15).我々は,学生の視点に立ち,Web上での大学に関わる多様な人材との関わりのなかから,自己を見直すきっかけとなったり,新鮮な経験,

あるいは,実践的な学びの場に発展したりする可能性があることを確認した.このような大学版SNSの特徴を活かせば,多様な個性を有する学生支援の一つのツールとして有効であると考える(16). また本プロジェクトの「SNS」と「キャリア開発力」という二つのキーワードは,地域や企業の就職活動関係者と自然な繋がりを生んだ(図9).学生が地域や地元企業の社会人と交流し,地域の良さを発見し,地域に目を向ける良い機会となった.今後は,これまでの活動関係者との繋がりを大切に,様々な組織と

連携して学生のキャリア開発力支援を継続していく予定である.これらの活動を通して,学生が地域社会

でコミュニケーション能力,自己管理力,チームワークなどの社会人力を身につけ,磨くことを支援して

いく.同時に,学生の地域志向の高まりや地域活性化,あるいは,徳島大学工学部の発展に貢献できれば

幸いである.

図9.本プロジェクトから生まれた繋がり 図8.現実の世界での交流

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謝辞 本取組は,平成 19-20年度徳島大学パイロット事業支援プログラム(教育改革支援事業),平成 20年度徳島大学先端工学研究プロジェクトとして援助を受けて行ったものである.本取組にご理解,ご協力をいた

だいた本学工学部を中心とした多数の教職員,学生,卒業生,地域・企業のサポータの方々に心より深く

感謝する.

参考文献 (1) 平成16年度FD研究報告書,徳島大学工学部FD委員会,pp.221-229,2005年3月 (2) 平成16年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」徳島大学工学部現代GP成果報告書(-ユビキタス技術による新しい学習環境の創生-, 2007

(3) 総務省,ブログ・SNS(ソーシャルネットワーキングサイト)の現状分析及び将来予測,http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050517_3.html, 2005

(4) 徳島大学,ラーニングライフ,第1回学生の学習に関する実態調査報告書(平成20年3月) (5) 文部科学省,平成 19, 20年度「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」

http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/gakusei.htm, 2007-2008 (6) 嵯峨山和美,久米健司,金西計英,松浦健二,三好康夫,松本純子,矢野米雄,学生支援キャンパスS

NSと学生の動向,日本教育工学会論文誌, Vol.32, No.Suppl, 53-56頁, 2008年. (7) OpenPNEサイト,http://www.openpne.jp,2002-2008 (8) Kazumi Sagayama, Kenji Kume, Kazuhide Kanenishi, Kenji Matsuura, Yasuo Miyoshi, Junko Minato and Yoneo

Yano, Characteristics and Method for Initial Activity on Campus SNS, Proceedings of ED-MEDIA2008, pp.936-945, Vienna, June 2008

(9) 株式会社ミクシィ,http://mixi.co.jp/, 1999-2008 (10) Gross, R. & Acquisti A., Information Revelation and Privacy in Online Social Networks (The Facebook case),

Proc. of WPES'05 (pp.71-80). Alexandria, VA: Association of Computing Machinery, 2005 (11) 川浦康至,坂田正樹,松田光恵,ソーシャルネットワーキング・サービスの利用に関する調査,コミュニケーション科学,18:91-110, 2005

(12) 村田佳世子,Web 日記コミュニケーションのもたらす心理的効用に関する研究,大阪大学人間科学部卒業論文,2003

(13) Kazumi Sagayama, Kazuhide Kanenishi, Kenji Matsuura, Kenji Kume, Yasuo Miyoshi, Junko Minato and Yoneo Yano, Application of Campus SNS for Supporting Students and Their Behavior, Proceedings of ICCE2008, pp.581-586, Taipei, Oct. 2008

(14) 嵯峨山和美, 金西計英, 松浦健二, 久米健司, 矢野米雄 : キャンパスSNSにおける学生行動の分析と支援活動, 日本教育工学会第24回全国大会講演論文集, 801-802頁, 2008

(15) A.N.ジョインソン著,三浦麻子,畦地真太郎,田中敦訳,インターネットにおける行動と心理,pp.1-215,㈱北大路書房,京都,2004

(16) 嵯峨山和美,金西計英,松浦健二,久米健司,光原弘幸,矢野米雄,キャンパスSNS (Social Networking Service)「さとあい」における学生行動の分析と学生支援の可能性,大学教育研究ジャーナル,第6号, 2009年3月,印刷中

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