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(1) 2013(平成 25 年)3 月 15 日 宮崎保険医ニュース 第 313 号 朝日に浮かぶマッターホルン 撮影/ 松井孝道 発行所 宮崎県保険医協会 (事務局) 〒880-0056 宮崎市神宮東3丁目4-21 TEL(0985) 29 9516 発行人 桑 原 大 祐 2 15 1 4 68 6

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(1) 2013(平成 25 年)3 月 15 日 宮崎保険医ニュース 第 313号

朝日に浮かぶマッターホルン 撮影/松 井 孝 道

発 行 所

宮崎県保険医協会(事務局)〒880-0056宮崎市神宮東3丁目4-21TEL(0985) 299516   発 行 人 桑 原 大 祐

 

政府は規制改革会議を復活させ、

2月15日に第1回目の会合からさ

まざまな分野の規制緩和の本格的

議論が開始されている。「健康・

医療」「エネルギー・環境」「雇

用」「創業・産業の新陳代謝」の

4分野、68項目で構成する論点整

理案をもとに議論がすすめられる。

混合診療の対象範囲を再生医療な

どの先進的な技術全般まで拡大す

ることや、最高裁判決をふまえて

一般用医薬品のインターネット販

売規制の全面的見直し、処方箋を

電子情報だけで可能にすることな

どをテーマに掲げた。

 

保険外併用療養(いわゆる混合

診療)については、「医療技術の

恩恵を患者が受けられるようにす

る観点から、先進的な医療技術全

般(薬剤を用いない医療技術、再

生医療など)にまでその範囲を拡

大すべき」として、患者・国民の

利益になるかのような説明となっ

ている。混合診療の拡大は結局、

保険診療の範囲縮小と経済格差に

よる受診抑制を拡大することとな

る。規制改革会議は、早急に結論

を得て、6月に政府がまとめる成

長戦略に反映する改革案を策定す

る方針である。保団連・協会では、

規制改革会議の「論点」や検討内

容を明らかにしていきたい。

医療をめぐる動きに注視を

 

政府の規制改革会議が

混合診療の拡大を検討

─ !

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2013(平成 25 年)3 月 15 日(2) 第 313号 宮崎保険医ニュース

1〜2面…医療をめぐる動き

3面…公開講演会開催

4面…「女性会員の集い」

   

「休業保障募集再開」

5面…「あざみ」

6面…「診療雑感」

7面…「時にふれて」

8〜9面…TPP交渉参加問題

10面…保団連九州ブロック会議開催

   

「協会行事案内」

11面…文化の森

12面…共済部だより

主な記事のご紹介

 

社会保障制度改革国民会議は8

月中に結論を出す予定で議論が進

んでいる。2月19日、第4回会合

が開催され、経済3団体と連合か

らヒアリングを行った。

 

経団連が提出した「社会保障制

度改革のあり方に関する経団連の

考え方」では、社会保障の給付の

効率化・重点化に向けた具体策の

例では医療分野については診療報

酬・療養費の不正支給に関わる指

導・監査強化、70〜74歳の患者負

担の本則化(1割→2割)、医療

保険の給付範囲の見直し(一部の

高度医療の適用除外・保険免責制

等)、医療の標準化・外来診療を

含む診療報酬の包括払い化の推進、

医療保険給付費の総額管理制度の

検討等々が提言されている。

 

論点には、①保険給付範囲の適

正化(風邪などを「軽い」病気と

して給付から外す減免制度など、

②先進医療など混合診療の拡大、

③介護サービスでの軽度者へのサ

ービス縮小・保険外し、利用料の

引き上げ、などがあげられており、

規制改革会議と軌を一つにして患

者負担を増大させる方向が強まっ

ている。国民にはこの様な医療改

革の動きはわかりにくく、特に混

合診療の拡大の危険性は伝わって

いない。問題点をわかりやすく伝

えながら、国民と共に運動をすす

めていくことが重要となっている。

政府が

 

マイナンバー法案

  

提出決定

 

政府は3月1日、共通番号制度

を創設するための関連4法案を閣

議決定した。今国会で成立させ、

15年10月に国民一人一人に番号を

通知することを目指す。

 

番号制度は、省庁や自治体がバ

ラバラに管理している年金や医療

費、納税の情報を、全国民に割り

振られる共通番号で一元的に管理

する仕組み。

 

しかしこの共通番号制には大き

な問題点もあり、日本弁護士会等

反対運動の中でプライバシー侵害

の危険性が著しく高くなることを

危惧されている。

 

医療は特にプライバシー保護が

重要であり、注視していくことが

大切となっている。

社会保障制度改革国民会議が

4団体にヒアリングを実施

    

8月中に結論を出す予定

第2回規制改革会議健康・医療分野の課題としてあげられたもの

① 再生医療の推進② 医療機器の承認業務の民間開放の推進③ 治験前臨床試験の有効利用④ 一般健康食品の機能性表示の容認⑤ 保険外併用療養の更なる範囲拡大⑥ 一般医薬品のインターネット等販売規制の見直し⑦ レセプト等医療データの利活用促進⑧ 遠隔診療の普及⑨ 特定健診の保健指導における ICTを活用した遠隔面談の実現⑩ 処方箋の電子化⑪ 電子カルテシステムの普及促進⑫ 医療機関における各種文書の紙媒体による保管の不要化⑬ 介護事業の効率化

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(3) 2013(平成 25 年)3 月 15 日 宮崎保険医ニュース 第 313号

公開講演会開催

 「食べ物の情報ウソ・ホント」

 

講師 高橋久仁子 氏

 

2月16日(土)宮崎市に於いて

会員、会員医療機関スタッフ、県

民を対象とした公開講演会を開催

しました。

 

テーマは「食べ物の情報ウソ・

ホント」で、群馬大学教育学部教

授の高橋久仁子先生に講演をいた

だきました。

 

高橋先生は、日本に「フードフ

ァディズム(食べものや栄養が健

康や病気へ与える影響を過大に信

奉したり評価すること。)」とい

う概念を紹介された方で、健全な

食生活の営みを阻害する要因のう

ち、フードファディズムとジェン

ダーに着目し、研究を続けておら

れます。

 

ヒトは昼行性かつ雑食性の生物

であり、健康の維持・増進に「栄

養・運動・休養」が欠かせない。

その中の運動と休養は代わりはい

ないが、栄養については巷に健康

関連食情報が溢れ、必要な栄養分

を補ってくれる?物があると思わ

れている。しかし、「栄養」すな

わち「食」さえ良くすれば健康は

万全、と考えること自体がフード

ファディズムであるとし、それさ

え食べれば健康が確約される「魔

法の食品」や、逆にそれを食べる

と病気になる「悪魔の食品」はな

い。「体に良い」と言われる食品も

食べ過ぎは禁物である。「体に悪

い」と見なされる食品も節度を持

って楽しむのは悪いことではない。

 

健康情報として取り上げる食情

報は話題性や意外性に重きが置か

れがちで、「健康食品」の食情報

は「これを利用すれば問題解決」

と宣伝するためのものであり、ど

ちらも無責任な情報が多い。

 

ラクをして健康を得たい心理を

揺さぶるビジネスに翻弄されず、

氾濫する情報に惑わされない食生

活を営むために、食情報のカラク

リを見破る目を養うことも必要で

ある。

 

「がまんしないで・食べたいも

のを・飲んでも食べても・太らな

い」という方法はない。「適度に

食べて・適度に動く・健康管理

の・基礎基本」を忘れないでくだ

さい。と締めくくられています。

 

食情報の文句やインパクトに引か

れすぐに飛びつくのではなく、その

商品の表示内容をしっかり読み、カ

ロリーや脂質の量がタンパク質の量

を上廻っていないか等、消費者が勉

強し、基本的な知識を得ていること

が必要だと感じました。

 

そして、基本はやはり、魚・野

菜・肉・乳製品等をバランス良く、

適量摂取することに尽きるのだと

感じました。

 

15分間の質問タイムには参加い

ただいた皆様より多くの質問が出

され、中でも健康食品と皮膚疾患

との関連では講師も初めての実情

報とのことで盛り上がり、2時間

という少し長目の講演会でしたが、

多くのためになるお話をいただき、

大変活発な会となりました。

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2013(平成 25 年)3 月 15 日(8) 第 313号 宮崎保険医ニュース

TPP参加で公的医療保険制度が

実質的に機能しなくなる 

(全国保険医団体連合会資料より)

 

TPP参加で公的医療保険制度

の崩壊につながるのではないか、

との懸念が広がっている。

 

キャノングローバル戦略研究所

研究主幹の松山幸弘氏が、「医療

制度は各国でそれぞれ大きく異な

るため、TPPの対象とすること

は不可能と説明した」と報道され

ている(メディファクス2013

年2月27日)。

 

しかし、①「知的財産」分野で

医薬品や医療技術等の特許強化、

②「金融サービス」分野で民間医

療保険の拡大と公的医療保険の範

囲の縮小、③「投資」分野で医療

への営利企業の参入を促される危

険がある。これまでのTPP交渉

で、医薬品については2つの分野

で協議が行われており、公的薬価

制度を含む医薬品が対象となれば、

公的医療保険制度にも波及するこ

とは必至である。

1、医薬品特許、公的薬価

が交渉の焦点に

 

TPP交渉では、「知的財産」

分野で医薬品のデータ保護=特許

保護の強化について協議が行われ

ている。「制度的事項(『透明

性』)」分野でも、政府の医薬品

の保険償還価格の決定過程に製薬

企業を参加させることが焦点にな

っている。

 

アメリカは「一定の規制製品に

関する方策」の条項に、「医薬品

のデータ保護」を盛り込むよう提

案している。▽特別な安全性、質、

効果を有する医薬品についてはプ

レミアムをつけて評価する▽先発

医薬品メーカーが新薬の臨床実験

データの独占権を持つ─などの提

案がTPP交渉で合意されれば、

後発医薬品の開発・生産が封じ込

められる一方で、新しい医薬品の

価格は高騰することになる。

 

TPP参加で、日本の公的薬価

がアメリカ並みに高騰し、公的医

療費に占める薬剤費が膨張する。

公的医療保険財政の悪化を招き、

診療報酬本体=技術料の引き下げ

に向かうおそれがある。

 

上がる薬価への対応として考え

られているのが、医薬品の保険給

付に上限を設け、超過分は患者自

己負担とする「薬剤の差額負担」

の導入であり、警戒が必要である。

2、先進医療技術の保険適用

制限

 

手術方法などの医療技術は、日

本やEUは特許保護の対象として

いないが、アメリカは特許保護の

対象にしている。TPP交渉でア

メリカ通商代表部は、「人間の治

療のための診断・治療及び外科的

方法」について特許の対象にする

よう要求している。

 

厚労省が認めた混合診療(保険

外併用療養費制度)の一つが「先

進医療」である。TPPに参加す

れば、「先進医療」の公的医療保

険の適用が制限され、混合診療の

状態に留め置くことが広がりかね

ない。特許対象となって費用も上

がる可能性がある。

 

※1年間の実績:先進医療分100

億円、保険診療分46億円。146億円

は概算医療費37・8兆円の0・04

%3、営利企業による病院運営

 

TPP交渉に参加しているアメ

リカやニュージーランドなどは、

営利企業病院を認めており、日本

がTPPに参加すれば、営利企業

による病院運営を認めることを促

されるおそれがある。

 

TPP交渉を担うアメリカ通商

代表部(USTR)は、「外国貿

易障壁報告書」等で▽外国事業者

を含む営利企業による営利病院運

営(2012年の「報告書」には

明記されていないが、要求を断念

したわけではない)▽包括的な医

療サービス(混合診療)の提供─

などを求めている。

 

厚労省は「剰余金配当について

は、非営利性を損なうものであり

適当ではない」との見解である。

営利企業による病院運営では、出

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(9) 2013(平成 25 年)3 月 15 日 宮崎保険医ニュース 第 313号

資者に対する剰余金の配当が最優

先される。そのため、①コストの

削減で安心・安全の医療が低下す

る、②不採算の医療部門・地域か

ら撤退もしくは進出しない、③所

得によって患者を選別する─など

が懸念される。

4、強まる医療の営利産業化

 

TPPに限らず、医療の営利産

業化を進める動きが強くなってい

る。

 

社会保障制度改革推進法では、

公的医療保険制度の加入を「原

則」とし、例外もあり得るという

条文が盛り込まれた。保険料を払

えない人を排除することや、大資

産家などは公的医療保険から抜け

て民間医療保険で備えることも可

能にするものである。

 

改革推進法は、「療養の範囲の

適正化」の名で、公的保険給付の

範囲縮小を打ち出したが、これは

混合診療の一層の拡大に結びつく

方針である。規制改革会議では、

混合診療の拡大をさらに打ち出し

ており、地ならしが進んでいる。

金融庁は、民間医療保険でも医療

サービスを直接提供できる新商品

の認可を検討しており、民間医療

保険「商品」の市場拡大がねらわ

れている。

5、韓米FTAでISD条

項発動

 

韓米FTAでは、アメリカの

投資ファンド・ローンスターが

ISD条項を発動し、「不利益を

被った」として韓国政府を国際仲

裁機関に提訴。約2兆ウォンの損

害を受けたとして賠償を求めてい

る。ISD条項はTPPに盛り込

まれることが確実視されている。

日本がTPPに参加した場合、日

本の公的医療保険制度が「非関税

障壁」としてISD条項の対象と

なる可能性がある。

6、公的医療保険制度が実

質的に機能しなくなる

 

TPPとは関税と「非関税障

壁」を例外なく撤廃し、国内制度

やルールをアメリカ基準に変えよ

うというものである。

 

アメリカ通商代表部(USTR)

は、日本の公的医療保険制度を

“魅力的な巨大マーケット”と位

置付けて、長年にわたり日本政府

に対して要求を突きつけている。

 

昨年11月に開催された日米財界

人会議では、日本のTPP交渉参

加を支持する共同声明を採択した。

この財界人会議のアメリカ側の議

長は、『アフラック日本』の代表

である。米保険業界が先頭に立っ

ていることは、アメリカが何を最

も目指しているかを示している。

すでにアメリカは、かんぽ生命が

ガン保険などの新規商品を販売し

ないよう要求している。

 

TPP参加で医療の営利化・市

場化がいっそう強化され、「いつ

でも、どこでも、だれでも」受け

られる医療制度が、徐々に実質的

に機能しなくなっていく危険性が

ある。

 

TPP交渉は今年10月には大筋

で合意し、実質的な交渉が終わる

と見られている。交渉参加を断念

させる世論の結集が急務である。

保団連・協会

「首相、TPP交渉参加表明」

交渉断念を求めて緊急要請行動

 

安倍首相は2月22日の日米首

脳会議後、TPP交渉参加に踏

み出す考えを示し、交渉の参加

表明を行うとしております。3

月に入り共通番号法案の再提出

をするなど、安倍内閣は高い支

持率を背景に次第に「安全運

転」から「強い国」へ向けてア

クセルをふみつつあります。

 

医療分野においてもTPP交

渉参加は国民皆保険の形骸化に

つながる問題点を多く含んでお

り、交渉参加には反対します。

 

保団連・協会は緊急要請行動

として、安倍首相・国会議員へ

「国民皆保険制度を崩壊へ導く

TPP参加断念を求める」緊急

要請書を送付しました。