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くるめサマートリートメントプログラムの効果 ―注意欠陥多動性障害のある超低出生体重児の事例― 1) ,山 裕史朗 2) ,津 3) 超低出生体重児で ADHD がある児童の STP 参加の症例である。本児の生活上の問題は,超低出生 体重児で生まれたことから親の養育態度が保護的であったが,幼稚園までは園の先生から落ち着きが ないという指摘だけであった。しかし,小学校入学後は,学校の準備や日常生活の中での不注意が表 面化してきた。忘れ物が多く,友人関係も仲良しができない状況であった。STP に参加し注意の集中 と自分で行動することが可能になった。また,保護者もペアレントトレーニングで本児の接し方を学 ぶことで対応できるようになった。超低出生体重児の ADHD の出現率は高く,今後も STP のような 地域からの支援が重要である。 キーワード:超低出生体重児,サマートリートメントプログラム,注意欠陥多動性障害,地域援助 Ⅰ.は じ め に 注意欠陥多動性障害(ADHD)のある子どもに対し ては,近年は行動療法と中枢神経刺激薬を中心とした 薬物療法を組み合わせた包括的治療法の有効性が明ら か に さ れ て い る(Pelham, W. E., Schnedler, R. W., Bender, M.E., Miller, J., Nilsson, D., Budrow, M., Ronnei, M., Paluchowski, C. & Marks,D. 1988.)特にニューヨー ク州立大学バファロー校の Pelham らによる研究・実 践によって開発された「包括的夏季治療プログラム (Pelham, W. E. Jr., Greiner, A. R., Gnagy, E. M. 2004.)」 (以下 STP)は,包括的治療法として米国では大規模比 較研究(The MTA Cooperative Group. 1999.)でもそ の効果が認められている。しかしながら,わが国で ADHD のある子どもに対しての効果的な包括的治療 プログラムはまだ確立されていない。 著者らは,臨床の実践現場で ADHD 児の家庭や学 校適応を援助してきた。学校現場では担任らが ADHD 児が学級内でおこす問題に対して,その対応 をそれぞれ考えながら教えていた。さらに病院では小 児科医が,受診した ADHD 児の社会適応を薬物療法 を視野に入れて治療していた。しかし,それぞれの分 野でのアプローチだけでは彼らの心理社会的適応を促 すには充分とは言いがたいものがあった。そのため著 者らは,心理と教育と医療のそれぞれの専門家たちと 臨床現場で出会う ADHD 児たちの心理社会的適応を 目指して STP の実践を試みた。この実践は,日本と アメリカの教育事情が異なるためにバファロースタッ フの了解を得て,日本の教育事情に合わせた変更を加 えた新たなプログラムを作成して「くるめ STP」とし て 2005 年から継続的に実施している(山下・向笠・児 玉・永光・松石.2010)。実践に当たってはバッファ ロー校の本プログラムのスタッフ 3 名から 5 日間の事 前研修を受けた。また,「くるめ STP」の期間中も専 門家 2 名によるスーパーヴィジョンを受けた。 本事例は,1000g 未満で出生したことから生育の発 77 1)聖マリア病院 臨床心理室 2)久留米大学医学部小児科 3)久留米大学文学部心理学科 Kurume University Psychological Research 2011, No. 10, 77-85 原著

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くるめサマートリートメントプログラムの効果

―注意欠陥多動性障害のある超低出生体重児の事例―

向 笠 章 子1),山 下 裕史朗2),津 田 彰3)

要 約

超低出生体重児で ADHDがある児童の STP参加の症例である。本児の生活上の問題は,超低出生

体重児で生まれたことから親の養育態度が保護的であったが,幼稚園までは園の先生から落ち着きが

ないという指摘だけであった。しかし,小学校入学後は,学校の準備や日常生活の中での不注意が表

面化してきた。忘れ物が多く,友人関係も仲良しができない状況であった。STPに参加し注意の集中

と自分で行動することが可能になった。また,保護者もペアレントトレーニングで本児の接し方を学

ぶことで対応できるようになった。超低出生体重児の ADHDの出現率は高く,今後も STPのような

地域からの支援が重要である。

キーワード:超低出生体重児,サマートリートメントプログラム,注意欠陥多動性障害,地域援助

Ⅰ.は じ め に

注意欠陥多動性障害(ADHD)のある子どもに対し

ては,近年は行動療法と中枢神経刺激薬を中心とした

薬物療法を組み合わせた包括的治療法の有効性が明ら

かにされている(Pelham, W. E., Schnedler, R. W.,

Bender,M.E.,Miller, J., Nilsson, D., Budrow,M., Ronnei,

M., Paluchowski, C.&Marks,D. 1988.)特にニューヨー

ク州立大学バファロー校の Pelhamらによる研究・実

践によって開発された「包括的夏季治療プログラム

(Pelham,W. E. Jr., Greiner, A. R., Gnagy, E. M. 2004.)」

(以下 STP)は,包括的治療法として米国では大規模比

較研究(The MTA Cooperative Group. 1999.)でもそ

の効果が認められている。しかしながら,わが国で

ADHDのある子どもに対しての効果的な包括的治療

プログラムはまだ確立されていない。

著者らは,臨床の実践現場で ADHD児の家庭や学

校適応を援助してきた。学校現場では担任らが

ADHD児が学級内でおこす問題に対して,その対応

をそれぞれ考えながら教えていた。さらに病院では小

児科医が,受診した ADHD児の社会適応を薬物療法

を視野に入れて治療していた。しかし,それぞれの分

野でのアプローチだけでは彼らの心理社会的適応を促

すには充分とは言いがたいものがあった。そのため著

者らは,心理と教育と医療のそれぞれの専門家たちと

臨床現場で出会う ADHD児たちの心理社会的適応を

目指して STPの実践を試みた。この実践は,日本と

アメリカの教育事情が異なるためにバファロースタッ

フの了解を得て,日本の教育事情に合わせた変更を加

えた新たなプログラムを作成して「くるめ STP」とし

て 2005 年から継続的に実施している(山下・向笠・児

玉・永光・松石.2010)。実践に当たってはバッファ

ロー校の本プログラムのスタッフ 3名から 5日間の事

前研修を受けた。また,「くるめ STP」の期間中も専

門家 2名によるスーパーヴィジョンを受けた。

本事例は,1000g未満で出生したことから生育の発

― 77 ―

1)聖マリア病院 臨床心理室

2)久留米大学医学部小児科

3)久留米大学文学部心理学科

Kurume UniversityPsychological Research 2011, No. 10, 77-85

原著

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達が健常児と異なる生育暦をもつ超低出生体重児であ

る。超低出生体重児は,全体に Catch upするまでに

時間がかかり就学までの発達の特徴が独特である(向

笠・山上.2006)。通常学級に在籍する本児の 2週間

の STP参加により行動修正が効果的に認められた治

療経過を報告する。

この研究は,STP 開始前に保護者に STP の目的,

方法,予想される効果と危険性と対策,プライバシー

保護等について説明し,また児童には病院受診時に主

治医から STPの概要を説明し,保護者と児童双方か

ら文書による同意を得た。なお,本研究は久留米大学

倫理委員会による承認を得て行われた。

Ⅱ.くるめSTPの概要

くるめ STPは,小学校の夏休み中の 2週間を日帰

りデイキャンプ方式で行う。参加児は,終日他のグ

ループメンバーとともに日常生活に近い環境下で行動

観察を受け,行動修正に取り組むのである。実践場所

は,K市立 K小学校の校庭,プール,教室である。

1.プログラムの治療の目標

治療の目標は,①子どもたちの問題解決スキル,ソー

シャルスキル,他の子どもたちとうまく過ごすための

必要な社会的行動を育てること,②勉学スキルの改善,

③大人の指示に従う,課題をやりとげることなどの改

善,④対人関係,レクレーションスキル,学業におけ

る生活上の機能を改善し,自分はできるという自信と

自尊心を高める,の 4つである。

2.活動内容

一日の活動内容を表 1 に示す。初日の午前中にプロ

グラムの内容を説明する時間を設けているために表 1

の活動は 2日目から開始する。また,金曜日の活動は

課外活動(お楽しみ会)を行う。

3.実施期間

200X年 8月第 2週〜第 3週の 2週間(土,日を除

く 10 日間)

4.参加児童

小学 2 年生から小学 6 年生までの 24 名を,ほぼ年

齢が近い児童同士でそれぞれ 12 名の 2 つのグループ

に分ける。

5.臨床活動と学習センター

臨床活動は,著者らと医師の監督下で臨床心理士が

臨床心理学科学生・大学院生と共に ADHD児に行動

療法を実践する。

一日のスケジュールの中では,学習センターが現職

の教師によって運営される。教室を使って子どものそ

れぞれの能力に合わせた課題を解いていく。学習課題

の達成度や正答率に加えて,決まりを守りながら活動

していくことなどを評価する。

6.ペアレントトレーニング

保護者は,子どもを STP に送った後に別会場で

ADHD児の接し方について講習を受ける。5 日間連

続して実施するが,子どもの保護者には必ず参加する

ことを義務付けている。

Ⅲ.STPで用いられる行動療法の概略

1.STPで用いられる行動療法

STPでは,15分間を 1インターバルとして区切る。

インターバルごとにポイントを使って行動のフィード

バックを行う。ポイントシステム(トークンエコノ

ミーシステム),タイムアウト,デイリーレポートカー

ド(以下 DRC)の社会的強化などである。以下に行動

療法手法について説明する。

1)ポイントシステム(図 1)

ポイントシステムは,行動に随伴してポイントを得

る,ポイントを失うというトークンエコノミーを基本

にしている。加点対象の望ましい行動(9項目)と減

点対象の望ましくない行動(16項目)は対象行動が生

起した直後にスタッフが加点や減点を子どもにフィー

ドバックし,その回数を記録する。1 日のポイントの

総数は翌日の表彰と,1週間の累計は金曜日のお楽し

み会の参加の強化子と関連する。

2)タイムアウト

望ましくない行動の内で「意図的な他者への攻撃」

「意図的な破壊行為」「不服従の反復」が起った場合は,

タイムアウトになる。タイムアウトが科せられるとグ

ループ活動から離れて,指定された場所で規定時間を

すごさなければならない。

3)インターバルボーナス

インターバル中に「決まり違反」と望ましくない行

動の頻度が 0回の場合は,ボーナスポイント(「決まり

遵守加点」「行動ボーナス」)を得ることができる。

4)DRC(デイリーレポートカード)

子どもの行動で修正が必要と思われる行動を DRC

目標行動に設定する。保護者が子どもの努力と 1日の

行動に対して報酬を与えることができる。報酬の内容

くるめサマートリートメントプログラムの効果

― 78 ―

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に関しては週の始めに親子が話し合って,達成率 75%

が週のうちに 3日以上あれば金曜日のお楽しみ会に参

加できる。

Ⅳ.事例(守秘のため本質を損なわない程度に改

変している)

本事例は,著者が勤務する病院の新生児科で長期

フォローを受けている超低出生体重児である。4歳の

ときに ADHD の診断を受けた後に,小学 3 年生で

STPに参加した。

事 例

A君 男 小学 3年生 8歳

診断名:ADHD,超低出生体重児。

薬物治療:既往無し

家族歴:両親と A君。母親の既往歴に糖尿病と肥満

がある。

発達歴:出生体重:860g,身長 34.5㎝,在胎 25週 3 日

で生まれる。入院日数は 160 日,退院時体重 3765g,

身長 49.2㎝。退院後は当院の保健師の訪問指導を受

ける。処女歩行は 1歳 6月,発語は 2歳 0月であった。

4歳で幼稚園に入園した。4歳 0月時の津守式乳幼児

発達検査によれば運動 4歳 6月,生活習慣 4歳 0月,

探索・社会・言語はいずれも 3歳 0月であった。DA3

歳 6月,DQ88 である。5歳 0月時では運動 6歳,生

活習慣 6歳,言語 5歳まで catch upしたが,探索と社

会は,3歳 6月と 4歳 6月で catch upには至っていな

い。DA5歳 0月,DQ100 である。探索と社会が年齢

相応に追いついたのは 6歳時である。また,知能検査

では,3歳 0月時の田中ビネーはMA1歳 5月,IQ46

であった。6歳 0月時のWISC-Ⅲは,言語性 IQ104,

動作性 IQ80,全 IQ92,言語理解 102,知覚統合 84,注

意記憶 121,処理速度 86 で catch upした。

現病歴:生まれてから入院期間が長く,養育に手のか

かった子どもである。身体的に同年齢の子どもたちに

追いつくのに時間がかかり,親と一緒に過ごしている

時間が長かった。同年齢の子どもと過ごすのは 4歳か

らである。入園後は小さいことで特別扱いをされてい

たが,一つのことに集中できる時間が短くて落ち着き

がない児であった。集団行動はできるが周囲から促さ

れて行動することが多かった。小学校入学後は,落ち

着きのなさは依然として問題であったが,離席する事

はない。しかし,エプロンの紐が結べない,オセロゲー

ムの駒を返すことがうまくできない等不器用さが目

立った。また,友人関係は仲良しとクラス替えで分か

れてからは,特定の仲良しができない。話題があるが,

相手とうまく話を繋げることが苦手で,コミュニケー

ションスキルの問題が見られた。さらに,母親が衣服

の着替えや準備,時間割など細かく日常生活を手伝う

が,置き忘れなどが多く不注意さが目立っている。

1.行動療法実施中の経過

構造化したポイントシステムによって変化した加

点・減点行動を図 2.3 に示す。A君は小学 2 年生か

ら 4 年生の ADHD児 12 名のグループに所属してい

る。なお,統計上のグループ平均は A君のデータを

除く 11 名をグループ平均とした。

1)A君の参加前の問題点

A君の日常生活で困っている点を母親のアンケー

トから以下にまとめた。

①友達との関係:クラス替えによって,仲良しと別の

クラスになった。新しいクラスで友達を作って仲良く

遊びたいのだが,同級生に合わせて会話を進めること

が苦手で,うまく溶け込めない。②大人との関係:人

見知りがない。知らない人にも話しかける。③感情

面:マイナス思考で少しのことでも叱られたと思うと

久留米大学心理学研究 第 10 号 2011

― 79 ―

図 1 ポイントシステム概要(山下・向笠編,2010)

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「どうせ僕なんか」といって周りの人の話を受けつけ

ずにふてくされる。④日常的に困ること:忘れ物が多

い。

2)ポイントシステムにおける初日の行動

初日は全てのグループに子ども用のマニュアルの説

明をするが,まだ,参加児は,スケジュール表(表 1)

にある活動一つ一つに「活動の決まり」があること,

例えば “グループの話し合いの決まり” は,①みんな

に聞こえるぐらいの声で話す。②自分が話す時や,人

から話しかけられた時は相手の目を見る。③物や道具

を正しく使う等,を「決まり」として行動するとは理

解していない。しかも,「決まり」が 30項目近くある。

しかし,彼らはこれらを憶えていく過程で「望ましい

行動」と「望ましくない行動」の加点・減点行動がど

のようなことであるかを理解していく。はじまりの頃

は,ADHDの特性である不注意や衝動性をコントロー

ルすることはまだ困難である。

以下に初日の行動をA君と彼以外のグループと比較

し検討した。

A君とグループのデータの推移(表 2)から初日の

A君以外のグループ全体の行動をみると,活動の決ま

りを守る「決まり遵守率」の平均は 62%と低い水準で

ある。また,「決まり違反」の平均回数は 8.6回である。

ひとつの活動の中で減点がなければボーナス得点を得

る事ができる「行動ボーナス率」の初日の全体平均は

74%であった。「スポーツ中の態度が良かった率」は

91%,「DRC達成率」は 100%である。学習センター

の得点は「活動の決まり」が守れずに減点行動が生起

したときに減点となるが,その「学習センター得点」

のグループ平均は 50%と低水準の状態の初日であっ

た。なお,タイムアウトは出ていない。

このようなグループの全体と比べて,初日の A君

の「決まり遵守率」は 60%でグループの全体平均より

も更に低く,「決まり違反」の回数は 8回である。「行

くるめサマートリートメントプログラムの効果

― 80 ―

-250

-200

-150

-100

-50

0

Day1 Day2 Day3 Day4 Day5 Day6 Day7 Day8

Aくん グループ平均

図 3 減点

表 1 くるめ STP 1 日のスケジュール

活動時間活動時間

午後の活動午前の活動

移動とトイレ10:15-10:25

※昼休み13:05-13:20朝の会10:00-10:15

昼食12:45-13:05※登校9:30-10:00

サッカー又はキックベースボール

スポーツ試合13:30-14:30スポーツ練習10:25-11:25

移動とトイレ13:20-13:30

水泳14:40-15:40学習センター11:35-12:35

移動とトイレ14:30-14:40移動とトイレ11:25-11:35

サッカー又はキックベースボール

※自由時間15:50-16:05

移動とトイレ15:40-15:50移動とトイレ12:35-12:45

※下校16:05-16:35

※構造化ポイントシステムが適用されない活動

0

500

1000

1500

2000

Day1 Day2 Day3 Day4 Day5 Day6 Day7 Day8

Aくん グループ平均

図 2 加点

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動ボーナス率」は 87%でグループ全体平均より高い。

また,「学習センター得点」が 27%とグループ平均と

比べて極端に低くなっている。

初日の A君は,スケジュールの活動にそれぞれに

決められている「活動の決まり」を十分には理解せず

に集団から外れて勝手に動いている感じであった。特

に,教室から運動場に移動するときの「活動の決まり」

が守れずに,移動する列から勝手に離れる,準備が間

に合わずに移動に遅れるという減点行動があった。ま

た,突然思いついたような行動をとっているが,A君

はその行動が減点に結びつくことを理解していなかっ

たと考えられる。学習センターの「きまり」の中で先

生の指示が耳に入らず,指示とは異なる行動をとるの

で減点になっている。初日の学習センターの「活動の

決まり」のひとつである “先生の指示に従う” では,

減点行動のグループ平均は,0.3回と全体は低いが,

Aのみ 2回と高い頻度で出現している。“物や道具を

正しく使う” の減点行動が,グループ平均 1.6回に対

して Aは 4回とこれも高い頻度であった。また,食

事のマナーが悪いので減点されている。このような初

日を迎えた A君は減点行動の方よりも,加点行動に

はるかに意識が向いていた。

2.A君のSTPの参加中の行動(表 3)

初日の行動を観察した A君の担当者は,加点に意

識が向いた A君に合わせて,彼に「活動のきまり」を

繰り返し教えている。すなわち,ひとつの活動には決

まりがあること,その決まりを覚えて発表すれば加点

されること。加点行動が増えて次に減点に意識を向け

ることができれば「望ましい行動」が増えて「望まし

くない行動」は減少する。その結果行動修正が成され

て「きまり遵守率」が高くなる。

A君の 1週目の「活動の決まり」の発表は 18.8回

と積極的な行動が出た。1週目の始まりのハネムーン

期(参加児が様子を見ながらいい子でいられる時期)

が終わるとそれぞれの子どもが抱える問題行動が表面

化してくる。A君も同様で,初日に出現していた “先

生の言ったとおりにしない” という行動をどこで理解

して修正して行くかが課題であった。しかし,3 日目

思いがけずに最優秀スポーツ賞を得たことで「表彰・

賞賛」の強化子が A君の加点行動を増やし,減点行動

を減らす意欲を高めた。A君の 2週間の行動頻度を

見ると,「決まり遵守率」「決まり違反」「行動ボーナス

率」「スポーツ中の態度が良かった率」「DRC達成率」

は,いずれもグループ全体の平均と変わらない行動を

獲得した。また,初日こそ「学習センター得点」が全

体平均より著しく低かったが,2日目から最終日まで

を見るとほぼ全体と同じ水準を保てている。

3.A君の課題の行動修正

A君は注意の集中に課題がある。目の前で行なわ

れていることに集中して参加することが苦手である。

この様なことが顕著に観察されたのが,スポーツ活動

である。活動中にスポーツを指導しているスタッフが

子どもに標準化注目質問・非標準化注目質問を出す。

標準化注目質問は「今ゴールをしたのは誰ですか」な

どと標準化されている,決められたいくつかの質問で

ある。非標準化注目質問は,標準化注目質問以外の質

問をさす。いずれもスポーツ中の練習や試合のときに

子どもにスポーツ活動に注意を向けるきっかけを与

久留米大学心理学研究 第 10 号 2011

― 81 ―

表 2 Aくんとグループのデータの推移

53% 74% 79% 68% 58% 74%

対象 Day1 Day2 Day3 Day4 Day5 Day6 Day7 Day8

DRC達成率

グループ平均 62% 64% 71% 67% 77%決まり遵守率

68% 67% 83%

Aくん 60% 58%

項目

Aくん

92% 94%

Aくん 87% 89%

100%

100% 79% 95% 95% 95% 100%行動ボーナス率

スポーツ中態度が

よかった率

100%

グループ平均 73% 74% 82% 89% 85% 90%

100% 71% 86% 88%

100%80%80%100%100%80%

Aくん 100% 100% 100% 86%

グループ平均 96%95%100%98%91%87%100%

89%88%73%94%88%88%83%91%グループ平均

86%77%50%グループ平均

98%100%84%87%82%75%85%27%Aくん学習センター得点

98%

21001860182022451865201520801280Aくん総合得点

90%87%91%90%83%

20991844187520701920199017821213グループ平均

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え,子どもがスポーツの知識を増やし,ルールを理解

してもらうために練習中や試合中に子どもに直接質問

するものである。正確に答えれば加点されるが,間違

えても減点にはならない,しかし間違えた場合には,

スタッフが正しい答えを教えて学習させるものであ

る。A君は,1週目の初日のみどちらも 100%の正答

率であったが,慣れるに従って練習や試合の時間に集

中することができないでいた。例えばサッカーでゴー

ルをしたのが誰かなどの標準化注目質問の基礎質問で

も,試合に集中しておらず答えられなかった。しかし,

くるめサマートリートメントプログラムの効果

― 82 ―

表 3 A君のSTP参加中の臨床得点表

0013023先生の言ったとおりにしない(N)

00000000

58% 53% 74% 79% 68% 58%

Day8Day1 Day2 Day3 Day4 Day5 Day6 Day7

00000わざと壊す

00000000間違って壊す

0

50%

1

88%

決まりをやぶる 8 8 10 7

100%

4 8 9 6

決まりが良く守れた 60% 74%

000わざと攻撃(先生)

00000000わざとではない攻撃(先生)

000

臨床得点(HPK points)

0

9

0

3

2

67%

0わざと攻撃(仲間)

00000000わざとではない攻撃(仲間)

00000

71% 86%

1680

よくがんばったボーナス 87%

非標準化注目質問

89% 100% 79% 95% 95% 95%

1335153015251240

0000000

00211ベンチング回数

1460

100%

1210

(スポーツ中の)態度がよかった 100% 100% 100% 86%

1275

100%

1 0 3 1

00000000(合計時間:分)

011

00000

50%100%60%-100%100%

(理由R:繰りかえし)

(スポーツ中の)態度が悪い 0 0 0

000(理由A:わざと攻撃)

00000000(理由D:わざと壊す)

000

41211192321先生の言ったとおりにする

100%75%75%25%75%50%100%標準化注目質問

0

00仲間と一緒に使う

00

1054001仲間を助ける

00

3

0

971113232019話し合いで発表する

0タイムアウト回数

00001

100%DRC達成率

00000

0010000ちょっかいを無視する

0

00000000文句を言う/泣く

100%80%80%100%100%80%100%

000000悪いことばを使う

00000000じゃまをする

0000先生への悪い態度

01102000仲間への悪い態度

00

01かってに離れる

00000000嘘をつく

0000

繰りかえし先生の言ったとおりにしない(R)

00000000物をとる

000000

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毎日のスポーツ活動を続けて標準化注目質問・非標準

化注目質問を受けていくうちに正答率がばらつきはあ

るものの集中することが増えて,正答率 100%を獲得

できるようになっていった。さらに,A君の観察で課

題として取り扱われたことは,A君は悪気はないのだ

が,相手に不快な思いをさせる行動がわかってきた。

彼は,親しげに同じグループの子の肩を組んだりする

のだが,肩を組まれた子とは特別に親しいわけではな

い。むしろ,他の子と距離を取っている子であったり

するのだが,A君は全く気にせずにすぐに相手の体を

触ることや肩を組むのである。この行動が,触られる

子にとっては不快な行動になる。また,時におせっか

いと思われるほどにグループの子の世話をやきたが

る。結果的にいずれの行為もグループの子にとれば不

快な行動と映っている。実際の学校場面でも同様の問

題が起こっていることが推察された。この,周囲の子

が不快と感じる行動を修正するために,2週目の DRC

の目標行動を「学習センターの決まりを守る」は,同

じであるが,その項目以外は「他の人への悪い態度を

行なわないこと」「決まりを破らないこと」「注目する

こと」に決定した。その結果,彼の行動は変化し DRC

達成率も 5 日目は 100%,6 日目と 7日目が 80%,最

終日は 100%と A君自身が行動修正を果たした。

4.A君の改善点

母親のアンケートによる A君の参加前の問題点が

どのように変化したかを検討すると,友人との関係は

DRC達成率が 5日目は 100%,6日目と 7日目は 80%

最終日は 100%となって,A君からの不用意な身体接

触は減少した。一方,マイナス指向で考えることは,

減点をされたときの行動を観察していると “しまっ

た” という顔をして次の行動に移れるように変化して

いる。お楽しみ会にも参加し自分自身の評価は高く

なっている。忘れ物は,不注意に関係している。全体

としてみると 2日目以降は,先生の指示を守って減点

行動は減少している。しかし,A君の場合はついうっ

かりが多くそのために「決まりをやぶる」ことが多かっ

た。4 日目に全体平均より減点が増加したのは,疲れ

て元気がなく集中が途切れていたのだが,それも休日

が入って立て直していった。しかし,彼の不注意が全

く問題なく改善したわけではないが,周囲の援助方法

によって不注意を少なくすることは可能と考える。ま

た,細かくA君の世話をやく保護者に対して,スタッ

フ側はA君本人に STPの準備をさせるように依頼し

た。さらに,保護者もペアレントトレーニングの講習

を受けた結果,保護者からの援助は必要最小限になっ

ていった。

Ⅴ.考 察

本症例は,超低出生体重児の独特な成長過程を経て

なおかつ ADHDのある子どもの症例である。本児が

その本質的な対人関係における困難さを,STPのプロ

グラムに沿って改善するために参加し,行動修正して

いく過程を述べた。彼の悪気なく体に触れるような一

方的な接し方は仲間に嫌われ,コミュニケーションも

とりにくい状態であったが,行動が変わることで付き

合いやすくなり,仲間との関係も作れるようになった。

また,注意の集中も参加前より高くなった。しかし,

完全に不注意が改善したわけではないために今後のサ

ポートがまだ必要であると考えている。

本児は超低出生体重児である。その成長の過程は,

津守式乳幼児発達検査では,年齢相応の段階になるま

でには 5歳時でも十分ではない。知的理解能力も 3歳

0月時の田中ビネーではMA1歳 5月,IQ46 であった。

IQが catch upできたのは 6歳時のWISC-Ⅲで言語性

IQ104,動作性 IQ80,全 IQ92 である。本児は健常児

と異なって,ゆっくりとではあるがしかし確実に成長

していった子どもである。全体的な発達が緩やかで,

自立歩行も遅く保護者が常に抱いて移動することにな

るなど,育児では様々なことに親の援助が加えられて

いる子どもである。著者らの研究(向笠・山上,2006)

では,6歳の超低出生体重児の K-J 法によるグループ

分けで知識や自立・コミュニケーションの問題を指摘

しているが,本児にも同様なことが当てはまると考え

る。さらに彼は ADHDの問題も抱えている。文部科

学省が行った全国 5地域の公立小学校(小 1〜小 6)お

よび公立中学校(中 1〜中 3)の通常学級に在籍する児

童 41579 人を対象に行った「通常学級に在籍する特別

な教育支援を必要とする児童生徒に関する全国調査」

(文部科学省.2002)によれば,ADHDがある子ども

の出現率は 2.5%である。さらに,Szatmariらの研究

(Szatmari, P,,Saigal, S.,Rosenbaum ,P.,1990)では,7〜8

歳の超低出生体重児 143 名の ADHDは 18.5%と述べ

ており,また,金澤らの研究(金澤・安田・北村・糸

魚川・南・鎌田・北島・藤村.2007)でも超低出生体

重児 43 名の中で ADHDの出現率は 25.9%と指摘し

ている。いずれも非常に高い出現率である。

本児は超出生体重児で生まれたために親は過度に保

護的に育て,本児の知的な理解力は問題がないのに,

友達とコミュニケーションがうまく取れず仲良しが見

つからない。その上に ADHDがあるために,離席す

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るほどに多動ではないが落ち着きのない不注意で忘

れっぽい子であった。彼は STP に参加することで,

自分で注意を集中し行動を修正してそして,仲間との

付き合い方を学んで行った。本児は地域で生まれ地元

の病院でフォローされ,STPで行動修正をしている。

本 STPは,地域に密着した形で実施されている。今

後のケアも担任や小学校スクールカウンセラー等と連

携をとることで,支援は続けられていくものである。

謝 辞

くるめ STPスタッフの同僚である本田由布子,穴

井千鶴,上瀧純一,国崎千恵,平田陽子,多田康浩(臨

床心理士),公文真由美(南薫小学校),松本良一,及

び原田敏雄(久留米市教育委員会)先生に深謝する。

本研究は,ジョンソン&ジョンソン,イーライリリー

と久留米市の協力によって行なわれた。

文 献

金澤忠博,安田純,北村真知子,糸魚川直祐,南徹弘,

鎌田次郎,北島博之,藤村正哲(2007).超低出生体

重児の精神発達予後と評価―軽度発達障害を中心に

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向笠章子,山上敏子(2006).超低出生体重児の発達的

特徴 久留米大学文学部心理学科・大学院心理学研

究科紀要,5,63-73

文部科学省(2002)「通常の学級に在籍する特別な教育

的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調

査」調査結果 特別支援教育の在り方に関する調査

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支援教育の在り方について(最終報告)」

Pelham,W. E., Schnedler, R. W., Bender,M.E.,Miller, J.,

Nilsson, D., Budrow, M., Ronnei, M., Paluchowski, C.,

& Marks,D. (1988). The combination of behavior

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Bloomingdale, Attention deficit disorders (pp. 29-48).

London : Pergamon.

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The MTA Cooperative Group (1999) A 14-month

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山下裕史朗,向笠章子(編)(2010).ADHDをもつ子

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メントプログラムの実際 遠見書房

山下裕史朗,向笠章子,児玉尚子,永光伸一郎,松石

豊次郎(2010).ADHDのサマートリートメントプ

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The effect of Kurume Summer Treatment Program A case study of child with ADHD whowas born as extremely low birth weight infants

AKIKO MUKASA

YUSHIRO YAMASHITA

AKIRA TSUDA

Abstract

This case study presents a child with ADHD, was born as extremely low birth weight infant participated in

STP. Only his hyperactivity had been pointed out as his problem during preschool period, although the parents

raised this child to the overprotection because of his birth situation. However, the problems on attention and

establishing a relationship with others were pointed out by teachers after he entered elementary school. As a result

of working on his problems during STP, he was able to pay attention appropriately, and take care of himself. In

addition to this, parents learned techniques to deal with his problematic behaviors through a parent training. Since

children who were born as extremely low birth weight infants have high risk of ADHD, it is very important to

provide community based support such as STP to them.

Key words : extremely low birth weight infant, Summer Treatment Program, ADHD, community support

久留米大学心理学研究 第 10 号 2011

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