Q&AでわかるDIC診療のポイント · Vol.3 No.1 2020年発行 Vol.3 No.1 2020年発行3...
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![Page 1: Q&AでわかるDIC診療のポイント · Vol.3 No.1 2020年発行 Vol.3 No.1 2020年発行3 真弓俊彦 産業医科大学医学部 救急医学講座 教授 急性膵炎にDICを合併する頻度やその予後](https://reader033.fdocuments.es/reader033/viewer/2022051408/601234c3d29ac164cf060481/html5/thumbnails/1.jpg)
イメージキャラクター
ディっくま
スラくまっ子
ディっく美
スラべびっ子
第3巻第1号(通巻4号)
イラストで学ぶDIC
Q&AでわかるDIC診療のポイント
※記載されている薬剤につきましては各添付文書をご参照ください。※転載をご希望の際には,下記連絡先までお問い合わせください。【お問い合わせ先】 株式会社メディカルレビュー社 学術部
TEL:03-3835-3083
DICと基礎疾患―診断・治療の進め方―
●血液内科医の立場から考えるDICを疑うタイミング
●集中治療医の立場から考えるDICを疑うタイミング
●急性膵炎でのDIC発症の機序
DIC診療の一口メモ
●急性膵炎とDIC
監修:朝倉英策 金沢大学附属病院 病院臨床教授
![Page 2: Q&AでわかるDIC診療のポイント · Vol.3 No.1 2020年発行 Vol.3 No.1 2020年発行3 真弓俊彦 産業医科大学医学部 救急医学講座 教授 急性膵炎にDICを合併する頻度やその予後](https://reader033.fdocuments.es/reader033/viewer/2022051408/601234c3d29ac164cf060481/html5/thumbnails/2.jpg)
急性膵炎でのDIC発症の機序
産業医科大学医学部 救急医学講座 教授
真弓 俊彦
1971年のKwaanらの報告以来1), 急性膵炎に時にDICが合
併することが知られているが, 急性膵炎でのDIC併発の機序は膵
炎発症の急性期と10日以降の後期では異なる。
重症急性膵炎発症時には, 少なくとも3つのプロセスでDICを
生じる。第一は, 膵酵素の活性化から単球などが刺激され, 種々
のメディエーター, サイトカインが大量に活性化され, 多量の
damage-associated molecular patterns(DAMPs)が産生
され, サイトカインストーム状態となり, 障害された血管内皮や
活性化された単球などからは組織因子(tissue factor : TF)が
産生され, 外因性凝固の活性化を生じる。
第二には, 活性化された好中球からの好中球エラスターゼの
産生放出が血管内皮を障害し, 前述の組織因子とともに血管
内皮に存在するトロンボモジュリン(TM), アンチトロンビン
(AT)などの抗凝固機構を破綻させ, 微小血栓を形成しDICを生
じる。
第三に, これらのメディエーターストームの状態から血管透過
性が亢進し, third spaceに循環血液量が移動し著明な浮腫を形
成するとともに, 血管内はhypovolemic状態となり, 微小循環障
害, 微小血栓形成, 過凝固状態が生じDICの誘因となる。血小板
や凝固因子が消費されるとGrey-Turner 徴候(側腹壁), Cullen
徴候(臍周囲), Fox 徴候(鼠径靱帯下部)などの皮膚着色斑や全
身の出血斑の誘因となる。
急性膵炎でのDIC発症の機序
→
急性期でのDIC発症の機序1
2 Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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急性膵炎でのDIC発症の機序
産業医科大学医学部 救急医学講座 教授
真弓 俊彦
イラストで学ぶDIC
後期では敗血症性のDICを生じる。急性膵炎発症初期には、
胆石性膵炎で急性胆管炎を合併する場合以外では感染を伴うこ
とは稀であるが, 後期となると, 1)壊死となった膵臓やその周囲
組織に感染を来したり, 2)経口摂取や経腸栄養が行われないと
腸内細菌叢が変化し, 腸管粘膜が萎縮し, 腸管免疫が低下
し, bacterial translocationを生じたり, 3)カテーテル関連敗
血症や長期臥床からの肺炎などの感染症を生じる。これらが重
篤な場合には敗血症性のDICを生じる。
文 献
1) KwaanHC,etal.Surgery.1971;69:663-672.
後期でのDIC発症の機序2
AT
膵酵素の活性化
トリプシノーゲン
トリプシン刺激
刺激エラスターゼ
好中球
単球
血管内皮障害
サイトカインストームメディエーター、サイトカイン活性化
DAMPs産生
破綻TM
血管透過性亢進
血管内脱水
微小循環障害
過凝固状態
外因性凝固因子の活性化
微小血栓形成
DIC
TF
TF
膵炎急性期でのDIC発症機序
DAMPs:damage-associated molecular patternsTM:トロンボモジュリン, AT:アンチトロンビン, TF:tissue factor(組織因子)
(筆者作図)
3Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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真弓俊彦 産業医科大学医学部 救急医学講座 教授
急性膵炎にDICを合併する頻度やその予後連続した139例の急性膵炎での入院時の,厚労省のDIC診
断基準を用いたDIC発生頻度は23例(17%)で,急性膵炎が
重症になるにしたがいDIC合併の頻度は増加し,DICを併発
した23例中11例(47.8%)が死亡したと報告されている1)。
また,この研究の対象例では入院時のAT活性69%を閾値と
すると生死に対する感度は81%,特異度は86%,AUC
0.926であったと報告されている1)。
他に,来院時または入院24時間以内に死亡した剖検例で
急性膵炎が死因であった27例のうち,4例でDICが認められ
たという報告もある2)。
膵炎にDICが合併する頻度はこのように対象患者やDICの
診断基準によって大きな差があるが,急性膵炎にDICを合併
した場合には,そうでない場合に比較し予後は悪いと推測さ
れる。
急性膵炎に合併したDICの診断法急性膵炎の診断は急性膵炎の診断基準を用いて診断するが3),
急性膵炎に起因したDICに特化した膵炎やDICの診断基準は
ない。より早期にDICを診断し早期から治療を開始できるこ
とから,近年は,急性期DIC診断基準が用いられる場合が多
い4)。
しかしながら留意すべきは,いずれの診断基準も,同様な
症状や検査所見を呈する他の疾患を除外することが必要であ
り,他疾患を除外し初めて確定診断となる。
急性膵炎に合併したDICの治療法急性膵炎にDICを併発した場合には,通常の膵炎よりも重
篤な状態と考えられ,全身状態の評価と集学的な膵炎の治療
を行うことが必要である。
また,膵炎発症10日目以降にDICを合併した場合には,感
急性膵炎とDIC
4 Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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染,敗血症の併発を疑い,感染巣を積極的に検索しながら,
DICの治療とともに敗血症の治療も開始する。
急性膵炎,DIC,いずれも早期診断,早期治療が予後を決
定する病態であることを認識しておくことが肝要である。
急性膵炎の診療はpancreatitis bundlesに沿って行う
(表1)3)。この実施率が高い場合や,初期の十分な輸液(項目
6)が実施された場合には,有意に死亡率が低いことが示さ
れている5)。DICの根本治療は基礎疾患の治療であり,しっか
り急性膵炎の加療を行うことが第一である。
日本で急性膵炎の保険適用となっているガベキサートメシ
ル酸塩,ナファモスタットメシル酸塩,ウリナスタチンなど
の蛋白分解酵素阻害薬(PI)のうち,前2者は急性膵炎ととも
DIC と基礎疾患 -ー診断・治療の進め方ー -
Pancreatitis bundles 2015 3) 蛋白分解酵素阻害薬の急性膵炎診療ガイドライン2015での推奨3)表1 表2
急性膵炎診療ガイドライン2015 モバイルアプリ図1
(文献3より引用)(文献3より引用)*:平均血圧=拡張期血圧+(収縮期血圧−拡張期血圧)/3
5Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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DIC と基礎疾患 -ー診断・治療の進め方ー -
にDICの治療薬にもなっているが,急性膵炎診療ガイドライ
ン2015では,表2のように両者とも生命予後や合併症発症
に対する明らかな改善効果は証明されておらず、現時点で明
確な推奨を決定できないとされている。急性膵炎にDICを併
発した場合のPIの効果やその他のDIC治療薬における有用性
も明確ではない。ただし,自施設では,DICを併発した場合
には,AT製剤(AT活性が70%以下に低下した場合)と遺伝子
組換えヒトトロンボモジュリン製剤を用いて治療を行ってい
る。
近年の後方視的研究では,遺伝子組換えヒトトロンボモ
ジュリンを使用した症例ではWON(walled-off necrosis,
被包化壊死)への進展が少なかったという報告がある6)。
なお,急性膵炎発症初期には,通常,感染を伴っていない
が,胆石性膵炎の場合で急性胆管炎を合併していることがあ
る。急性胆管炎の治療も同時に行うことが必要である。
お役立ち情報診断や重症度判定が可能で,フローチャートやbundleを
確認できるモバイルアプリ(図1)が無料で入手できるので,
是非活用いただきたい。
文 献
1)MaedaK,etal.Pancreas.2006;32:87-92.
2) TsokosM,etal.AmJForensicMedPathol.2007;28:267-270.
3) 急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会編 .急性膵炎
診療ガイドライン2015.金原出版 .2015.
4) 丸藤哲 ,他 .日本救急医学会雑誌 .2005;16;188-202.
5) HirotaM,etal.JHepatobiliaryPancreatSci.2014;21:829-830.
6) EguchiT,etal.Pancreatology.2015;15;485-490.
6 Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
![Page 7: Q&AでわかるDIC診療のポイント · Vol.3 No.1 2020年発行 Vol.3 No.1 2020年発行3 真弓俊彦 産業医科大学医学部 救急医学講座 教授 急性膵炎にDICを合併する頻度やその予後](https://reader033.fdocuments.es/reader033/viewer/2022051408/601234c3d29ac164cf060481/html5/thumbnails/7.jpg)
1)MurataA,etal.JThrombThrombolysis.2014;38:364-71.
DIC診療の一口メモ真弓俊彦の
2010-12年の日本のDPCデータでDICと分類された
34,711例のうち , 急性膵炎は2.3〜2.4%を占め, 感染症
(頻度は全体の40%前後), 悪性腫瘍(20%前後), 血液疾患
(10%前後)と比較すると著明に少なく, 外傷(2.5〜2.7%)
とほぼ同等であった1)。それらの入院死亡率は他の疾患による
DICでは14〜20%と高かったが, 急性膵炎のDICでは8.1〜
9.4%と著明に低かったと報告されている1)。
しかし, 蛋白分解酵素阻害薬(PI)の日本での保険適用の使
用量は急性膵炎では少量に限られるものの, DICではその3〜
20倍量使用できる。つまり, DPCで膵炎とDICがともにコー
ディングされている症例のDICは, 保険上の病名である可能性
があり, そのため, 先のDPC研究での急性膵炎からのDIC例に
は, 保険病名としてのDIC例が含まれているため, 転帰が良好
であった可能性がある。DPC研究ではその解釈に注意が必要
である。
7Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
![Page 8: Q&AでわかるDIC診療のポイント · Vol.3 No.1 2020年発行 Vol.3 No.1 2020年発行3 真弓俊彦 産業医科大学医学部 救急医学講座 教授 急性膵炎にDICを合併する頻度やその予後](https://reader033.fdocuments.es/reader033/viewer/2022051408/601234c3d29ac164cf060481/html5/thumbnails/8.jpg)
血液内科医 集中治療医
造血器悪性腫瘍では基礎疾患そのもの,あるいは化学療法
や放射線療法などによる骨髄抑制によって血小板減少を来す
ため,他領域とは異なった基準が必要です。日本血栓止血学
会DIC診断基準2017年版1)では「造血障害型」の基準が別に
設けられています。また,従来のDIC診断基準の欠点の多くが
改善されていますのでたいへん有用です(表1)。日本救急医
学会の急性期DIC診断基準2)は造血障害を来している症例に
は適用してはいけません。
松本 剛史回 答
三重大学医学部附属病院 輸血・細胞治療部 助教
の立場から考えるDICを疑うタイミング血液内科医
血液内科の先生が使用するDIC診断基準について教えてください
表1 DIC診断基準「造血障害型」
一般止血検査
肝不全
DIC診断
FDP(μg/mL)
フィブリノゲン(mg/dL)
PT比
アンチトロンビン(%)
TAT,SFまたはF1+2
血小板数 考慮しない
分子マーカー
<10
10≦ <20
20≦ <40
40≦
150<
100< ≦150
≦100
<1.25
1.25≦ <1.67
1.67≦
70<
≦70
基準範囲上限の2倍未満
基準範囲上限の2倍以上
なし
あり
0点
1点
2点
3点
0点
1点
2点
0点
1点
2点
0点
1点
0点
1点
0点
-3点
4点以上
(文献1より改変引用)FDP:フィブリン-フィブリノゲン分解産物, PT:プロトロンビン時間, TAT:トロンビン-アンチトロンビン複合体, SF:可溶性フィブリン, F1+2:プロトロンビンフラグメント1+2
8 Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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血液内科医 集中治療医
血液内科領域の疾患は他領域の疾患に比べDICを発症しや
すいものが多く,一般に造血器悪性腫瘍はどのような疾患で
もDICを発症する可能性があります。日本血栓止血学会DIC診
断基準2017年版1)に挙げられている基礎疾患のうちで,造
血器悪性腫瘍として特に,急性前骨髄球性白血病(APL),そ
の他の急性白血病,悪性リンパ腫が示されています。DICを見
逃さないためには,血漿フィブリノゲン(Fbg)とフィブリン-
フィブリノゲン分解産物(FDP)も含めた凝固モニタリングが
重要です。異常がみられる際には血漿アンチトロンビン(AT)と
トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT),可溶性フィブリン
(SF),プロトロンビンフラグメント1+2(F1+2)といった分子
マーカーを測定してDICの診断につなげます。DICの場合には
プラスミン-プラスミンインヒビター複合体(PIC)を測定し線
溶活性化の強さを評価します。造血器腫瘍に合併するDICは,
線溶亢進によって出血傾向が強い場合が多くあります。
造血期悪性腫瘍では発症時から既にDICを合併しているこ
とがしばしばみられます。APLはおよそ3分の2の患者がDIC
を合併します。悪性リンパ腫など特に血球貪食症候群を合併し
た際にDICとなる場合があります。発症時,病勢の増悪,再発
などの際にもDICのモニタリングは必要です。また、治療開始
後に腫瘍崩壊に伴ってDIC発症や増悪を来すこともあります。
特に寛解導入療法などの腫瘍量の多い時期の化学療法には,
腫瘍崩壊症候群とともにDICにも十分注意する必要がありま
す。感染症を合併してDICを起こすこともあります。血小板輸
血の反応性が悪くなった場合には,HLA抗体産生に加えDIC
などによる消費性の血小板減少も鑑別が必要です。出血症状
が強い場合にもDICを疑う必要があります。
L-アスパラギナーゼ投与時には肝での蛋白合成能の障害に
よって,Fbg,ATはもちろん,ほとんど全ての凝固因子と凝
固制御因子が低下します。臨床的には血栓症発症のリスクが
高く,新鮮凍結血漿で血栓止血のバランスを安定させること
が重要です。
血小板減少を来す疾患として,血栓性微小血管障害症
(thrombotic microangiopathy:TMA)が挙げられます。
TMAはDICに比べて破砕赤血球などの溶血所見が強く,フィ
ブリノゲンやFDP値などの凝固異常が比較的軽度なのが鑑別
点となります。
登場する各診断基準については、本冊子Vol.1 No.1のp.14~20をご参照ください。
文 献
1)DIC診断基準作成委員会.日本血栓止血学会誌.2017;28:
369-391.
2)丸藤哲 ,他 .日救急医会誌 .2005;16:188-202.
血液内科でDICを発症しやすい疾患とモニター法を教えてください
DICとの鑑別が重要な病態はありますか
造血期悪性腫瘍などの血液疾患でDIC発症を疑うタイミングを教えてください
9Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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血液内科医 集中治療医
集中治療領域ではDICの基礎疾患としてさまざまなものが
あります。なかでも最もよく遭遇するDICは感染症,つまり敗
血症に起因するものが多いです。DICはより早期に治療を開始
したほうが予後がよいことが示されており(図1)1),病態の初
期でDICを判断できる診断基準が適していると考えられます。
日本救急医学会の急性期DIC診断基準は高サイトカイン血症
がベースにあるsystemic inflammatory response
syndrome(SIRS)に重きを置いている基準のため,他の診
断基準よりも病態に適していると考えられます。敗血症性DIC
は,この急性期DIC診断基準と,Sepsis-3の敗血症診断基準
(図2)2)を満たしたものとなります。国際血栓止血学会のDIC
診断基準ではフィブリノゲンが項目として入っていますが,敗
血症では肝予備機能の低下の影響などを受けやすく,さらに
臓器不全などの臨床症状もスコアに含まれており,これらの
項目は早期にDICを診断することを困難にさせる可能性があ
ります。一方で,急性期DIC診断基準の問題点として,SIRS
の項目は敗血症の診断基準であってDICの項目には不要かも
しれないことや,血小板のスコアが高く,血栓性微小血管障害
症(thrombotic microangiopathy:TMA)などとの区別が
困難との指摘があり,今後診断基準は改訂されていくと思わ
れます。
数馬 聡回 答
札幌医科大学医学部 集中治療医学 助教
の立場から考えるDICを疑うタイミング集中治療医
集中治療の先生が使用するDIC診断基準について教えてください
図1 DICと死亡率
-/- :第1,第4病日ともnon-DIC+/-:第4病日にDICを離脱-/+ :第4病日にDICに進行+/+:第1,第4病日ともDIC
(%)80
60
40
20
0
死亡率と多臓器不全
急性期DIC診断基準で診断したDIC-/- +/- -/+ +/+
28日死亡率病院死亡率
多臓器不全
* #
*
*
*
*
*
*
感染徴候あり
qSOFA ≧ 2
適切な輸液負荷を行ったにもかかわらず1)平均血圧65mmHg以上を維持するための 循環作動薬が必要 かつ2)血清乳酸値が 2mmol/L(18 mg/dL)を超える
臓器障害の評価
SOFA ≧ 2
敗血症
敗血症性ショック
依然として敗血症が疑われる?
モニタリング
臨床的に敗血症の可能性があれば再評価
quick SOFA(qSOFA):1)呼吸数 ≧ 22/分2)意識の変容3)収縮期血圧 ≦ 100 mmHg
モニタリング
臨床的に敗血症の可能性があれば再評価
YES
YES
NO
NO
NO
NO
SOFA:1)PaO2/FiO2比2)GCS3)平均血圧4)昇圧薬の種類と投与量5)血清クレアチニンと尿量6)ビリルビン7)血小板数
(文献1より引用)*p<0.05 vs. -/- , p<0.05 vs. +/- , #p<0.05 vs. -/+
10 Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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血液内科医 集中治療医
敗血症などの基礎疾患が存在し,血小板が12万/μLもしく
は24時間以内に30%以上の減少がみられた場合に疑いま
す。この場合,凝固系検査でPT比とフィブリン/フィブリノゲン
分解産物(FDPもしくはD-ダイマー),状況に応じてATⅢ活性
を測定し,SIRS基準とともに急性期DIC診断基準を使用して
診断します。これらの測定には特殊な項目は含まれていない
ので,多くの病院で日夜問わず測定可能な項目であり,簡便
に診断できると思われます。また,敗血症性DICは主に凝固亢
進(線溶抑制)が生じます。したがって血小板数は低下するもの
の,出血傾向よりも臓器障害が主症状となるため,敗血症な
どの基礎疾患があり,新たな臓器障害の進行がみられた場合
にはDICの発症を疑うべきです。
単純にスコアのみで診断しないことが重要です。急性期DIC
診断基準では,すべての生体侵襲はDICを引き起こすことを
明記しており,さらに鑑別すべき疾患を挙げています。とく
に,血小板減少はDICをはじめに疑う検査所見であることが多
いため,他の疾患との鑑別は重要であると思われます。
文 献
1)GandoS,etal.CritCare.2013;17:R111.
2)SingerM,etal.JAMA.2016;315(8):801-810.
患者さんにどのような変化(状態や検査値など)があった際にDICを疑いますか? DICを疑う際に注意すべき点はありますか?
図2 Sepsis-3アルゴリズム
(%)80
60
40
20
0
死亡率と多臓器不全
急性期DIC診断基準で診断したDIC-/- +/- -/+ +/+
28日死亡率病院死亡率
多臓器不全
* #
*
*
*
*
*
*
感染徴候あり
qSOFA ≧ 2
適切な輸液負荷を行ったにもかかわらず1)平均血圧65mmHg以上を維持するための 循環作動薬が必要 かつ2)血清乳酸値が 2mmol/L(18 mg/dL)を超える
臓器障害の評価
SOFA ≧ 2
敗血症
敗血症性ショック
依然として敗血症が疑われる?
モニタリング
臨床的に敗血症の可能性があれば再評価
quick SOFA(qSOFA):1)呼吸数 ≧ 22/分2)意識の変容3)収縮期血圧 ≦ 100 mmHg
モニタリング
臨床的に敗血症の可能性があれば再評価
YES
YES
NO
NO
NO
NO
SOFA:1)PaO2/FiO2比2)GCS3)平均血圧4)昇圧薬の種類と投与量5)血清クレアチニンと尿量6)ビリルビン7)血小板数
(文献2より改変引用)
11Vol.3 No.1 2020年発行Vol.3 No.1 2020年発行
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でわかるDIC診療のポイント
血液内科医 集中治療医
総 括
DICを疑うタイミング
今回は2人の先生に, DICを疑うタイミングについて論じていただいた。血液内科医としては造血器悪性腫瘍, 集中治療医としては敗血症に合併したDICに遭遇しやすい。病態が異なる基礎疾患であるために, DIC診断へのプロセスも対照的である(表)。
全基礎疾患において, 臨床症状(出血症状, 臓器症状)が出現すると予後不良となるため, 臨床症状が出現する前にDICを疑うのが肝要である。そのためにも, 凝固線溶マーカーの果たす役割は大きい。
凝固活性化(TAT, SFの上昇)は全てのDICに共通した病態であるが, 線溶活性化(PICの上昇)は基礎疾患によって異なっている。そのため, DICを疑った全症例においてTAT(SF)とPICを測定してDIC病型分類を行う。
造血器悪性腫瘍は「線溶亢進型DIC」になりやすいため, FDP, D-ダイマーは敏感に変動する。進行に伴いフィブリノゲンが低下する。線溶亢進型DICでは, α2プラスミンインヒビター(α2PI)の低下度が臨床的な出血症状と密接に関連している。α2PIが半減以下になる症例では, いつ大出血しても不思議でない。線溶亢進型DICでは, 必ずα2PIの測定を行いたい。
敗血症は「線溶抑制型DIC」になりやすいため, FDP, D-ダイマーの上昇は鈍感である。これらのマーカーを過度に重要視すると診断が遅れる懸念がある。また, フィブリノゲンは炎症で上昇するためDICと診断される症例でも正常なことが多い。一方, 血小板の経時的な低下は重要である。しばしば, 半日程度でも急激に低下する。アンチトロンビンは治療に直結するために必ず測定する。
凝固線溶マーカーを駆使することで, DICの早期診断, 早期治療につなげたい。
朝倉 英策 金沢大学附属病院 病院臨床教授
※1:化学療法,放射線療法,骨髄浸潤などで,骨髄抑制のある症例では使用できない。※2:経時的な低下が重要所見。※3:肝不全やビタミンK欠乏症でも延長(DICに特徴的ではない)。※4:ヘパリン治療を行う場合はモニタリングマーカーとして重要。
ヘパリン類の種類と特徴
血小板数
PT(※3)
APTT(※4)
フィブリノゲン
FDP,D-ダイマー
アンチトロンビン
α2PI(プラスミノゲン)
TAT,SF
PIC
×
○
△
◎
◎
○
◎
◎
◎
◎(※2)
○
△
×
○
◎
△
◎
◎
○(※1)
○
△
○
○
○
○
◎
◎
基礎疾患
DIC病型
日本血栓止血学会DIC診断基準
急性器DIC診断基準
臨床症状
造血器悪性腫瘍
線溶亢進型
「造血障害型」を使用
×
出血>>臓器障害
敗血症
線溶抑制型
「感染症型」を使用
○
出血<<臓器障害
固形癌
線溶均衡型
「基本型」を使用
注意(※1)
出血 = 臓器障害
診断に有用なマーカー
表 基礎疾患別にみた診断基準の使い分けとマーカー
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